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前代未聞! 選挙運動は消毒作業? 韓国総選挙 新型コロナウイルスに困惑

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
公約を発表したあとマスク姿に戻った未来統合党・黄教安代表=3月24日(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

 新型コロナウイルス感染が、韓国の総選挙(4月15日投開票)に大きな影響を与えている。陣営の中には、選挙事務所で感染者が出たり、候補者自身が隔離されたりするなど苦境を強いられる例も。有権者との対面を避け、インターネットチャンネルやSNSを駆使して公約をアピールする候補者も多く、異例の選挙運動が展開されている。

◇危機に陥る選挙事務所

 韓国は1院制で、その国会議員を選ぶ総選挙は4年に1度実施される。今回は選挙区と比例代表計300議席をめぐって争われる。立候補の届け出は26~27日で、本格的な選挙戦は4月2日に始まる。

 今回は文在寅政権の中間評価と位置づけられるとともに、大統領選(2022年予定)の「前哨戦」としても注目されている。

 そんな総選挙に新型コロナウイルスが暗い影を落としている。

 多数の感染者を出した南部・大邱の選挙区では、保守系最大野党「未来統合党」公認候補ヤン・グムヒ氏の選挙対策本部長(62)が3月9日、死亡した。本部長は咳と発熱があり、7日に保健所でウイルス検査を受け、その時は陰性だったが、死後の判定で陽性と判明した。ヤン氏本人を含む陣営全員が検査を受け、いずれも陰性と診断された。その後、選挙事務所を消毒・滅菌し、13日から活動を再開。SNSや電話などによる「非対面」選挙運動に重点を移した。

 文大統領の腹心とされる政権与党「共に民主党」の尹建永・前大統領府国政企画状況室長は、ソウル・九老地区のオフィスビルに選挙事務所を構えた。ところがそのビル内のコールセンターで新型コロナウイルスの集団感染が発生し、大騒ぎとなった。尹氏は直ちに検査を受けて「陰性」の判定を受けた後、自主隔離に入った。事務所のボランティア全員を検査して異常がなければ事務所を別の場所に移すとした。

 ほかにも、感染者が選挙事務所を訪れた▽感染者が入院していた病院と同じ建物に選挙事務所がある――などのケースが続出、一時閉鎖される例が相次いだ。

◇消毒作業が選挙運動

 共に民主党は2月、「対面による選挙運動」を中断するとした。李仁栄院内代表は、3月11日のコロナ対応党政調会議で「戦時に準ずる緊急状況であるという点を勘案して、党システムを今週から全面的な防疫体制に転換した」と強調。全国の党員に、日常的な選挙運動を停止し、防疫支援活動に積極的に乗り出すよう求めた。

 与野党問わず候補者の多くが「街頭を歩いて有権者に会う回数」を減らし、街頭に出る必要があれば必ずマスクと手袋を必ず着用して慎重に行動している。候補者の中には胸元に消毒液の入ったポンプ容器をぶら下げて、握手する際に消毒液を市民の手につけながら、「新型コロナウイルスに勝とう」と声をかける人もいた。

 一方で、活発化しているのが、消毒ボランティア活動だ。ソウルの選挙区から出馬の「共に民主党」李洛淵・前首相と、同じくソウルから出馬の未来統合党・黄教安代表は、ともに防護服を着て消毒剤を散布して歩き、その様子をフェイスブックなどに掲載している。他にも与野党の各陣営が次々に街頭に出て、消毒作業に取り組み、その写真をSNSなどで広めて有権者に寄り添う姿勢をアピールしている。

 YouTubeの放送も活発だ。李洛淵氏は自身のYouTubeチャンネル「李洛淵TV」を開設してライブ放送を実施。黄教安氏もYouTubeチャンネル「黄教安オフィシャル」を通じて選挙運動の内容を紹介している。両者は新型コロナウイルスとの戦いに直面しながらも、既に次の大統領選をにらんで激しい攻防を繰り広げているようだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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