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本当に大丈夫? 武漢封鎖解除と国際支援で中国が狙う「反転攻勢」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
WHO事務局長と握手する習近平中国国家主席(右)=ロイター(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大防止策として世界各国が次々に「都市封鎖」を余儀なくされるのを横目に、中国は集団感染の発生地・武漢(湖北省)の封鎖解除の方針を発表した。感染拡大の象徴とされた武漢の「正常化」を大々的にアピールしたうえで、次は新型コロナウイルス対策での国際協力という「反転攻勢」をかけ、責任ある大国ぶりを示そうとしている。

◇「習主席の成果」と宣伝

 中国外務省は25日、テレビ会議形式で26日に開かれる20カ国・地域(G20)臨時首脳会合に習近平国家主席が出席すると発表し、中国メディアもそれを速報した。議長国サウジアラビアが新型コロナウイルスの感染拡大への対応を話し合うため呼び掛けたもの。ただ習主席がサウジを訪問するわけではないため、速報すべきニュースとはいいがたい。

 中国メディアはここ数日、中国が新型コロナウイルス対策での国際協力を進めている様子を相次いで報じている。

 習主席はドイツ、フランス、スペインなど感染が広がる国の首脳に見舞いの電報を送った。メルケル独首相には「ワクチンの研究開発で協力を強化したい」、マクロン仏大統領には「防疫で国際協力を進めたい」とそれぞれ表明した。スペインやセルビアにも医師団派遣や医療機器・防護物資の提供を申し出ている。

 新型コロナウイルスに関連した各国支援への積極姿勢を示すことで「集団感染発生国」ではなく「新型コロナウイルス対策の先頭に立つ大国」というイメージを強調する狙いが読み取れる。

 また、国内では習主席を礼賛する企画が活発に報じられている。

 中国政府が20日に「武漢で新たな感染者がゼロになった」と発表したのに合わせるように、国営中央テレビは「人民至上」と題する番組を放送した。武漢で感染拡大後、習主席がウイルス対策の陣頭指揮をとってきたことを強調する内容で、習主席の指導力によって事態が終息に向かっていると印象付ける狙いが透けて見える。

◇「本当にゼロなのか」

 武漢は3月23日で封鎖2カ月を迎えた。湖北省は新たな感染者を「18日から5日連続でゼロ」としている。だが住民レベルでは「新たな感染例があった」などの情報がもたらされ、「本当にゼロなのか」と当局発表に不信感が高まっている。

 中国では、習主席に権力が集中していることの弊害が至る所で生じている。その典型例が、都合の悪い情報があっても中央に伝えないことだ。今回も習主席の努力によって感染拡大が収まっているのに、それに逆行するような形で地元当局が「新規感染確認」と報告すれば、その責任を取らされる恐れがある。このため、感染事例があっても地元が隠蔽しているのではないかという懸念が出ているのだ。香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)が22日に「2月末に無症状の感染者が4万3000人以上いながら公表していなかった」とする「極秘情報」を報じるなどの例もある。

 一方、封鎖解除の発表を受け、武漢では計117のバス路線が3月25日から運行を始め、地下鉄も6路線が同28日から運転が再開される。

 ただし、乗車できるのは検査を通過した人に限られる。

 バスに乗る際、必ずマスクを着用し、体温測定を受けなければならない。さらに入り口にある「健康QRコード」をスキャンし、「緑」が出れば乗車が許可される。下車の際にもドアガラスに張られたQRコードをスキャンし、車内の管理人に提示する必要がある。

 ここでいう「健康QRコード」とは、スマホを使った「通行許可証」のようなもの。利用者があらかじめ個人情報や健康状態などをアプリに入力しておき、チェックポイントに設置されたQRコードをスキャンすれば、異常がない場合「緑」▽重点地域からやってきて14日未満の場合「黄」▽感染の疑いが排除されず隔離が求められる場合「赤」――を表示する。

 地下鉄でも同様に、乗り降りの際にQRコードをスキャンしなければならない。

 65歳以上の高齢者にはリスクを抑えるために公共交通機関を利用しないよう勧めている。また、スマホを持っていない人は地域のコミュニティーが発行した証明書などを所持する必要があり、実名でなければ乗車拒否されるという。

 ただ、健康QRコードの有効性についての懸念もある。ウイルスにさらされた人が「感染者の烙印」を押されるのを嫌って虚偽申告する可能性が指摘され、2月の段階でその数が1000人を上回っているとの情報がある。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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