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ワンタン1袋、もぎ取った!――“封鎖”武漢で暮らす20代女子の日記(その3)

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
武漢では公共施設が即席の病院として使用された=ロイター(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの発生地、中国・武漢では、封鎖2週間後には買い占めが常態化し、武漢在住の王海霞さん(20代女性、仮名)も食料品の確保に四苦八苦した。王さんの友人の中にはボランティアとして、混乱を極める医療現場に向かう人も増えていった。

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 中国国家衛生健康委員会は2月5日、中国本土の感染者が3887人増えて2万4324人、死者が490人になったと発表した。武漢の感染者数は約8000人、死者は362人に達した。共産党の指導もあって、中国政府系メディアはこのころから、退院した人数が死者数を上回っていることなどを報道するようになった。

≪2月5日、街が封鎖されて2週間。スーパーでは買い占めをする人がものすごく増えました。別にデマが流れているわけではないんですよ。

 きょう、私も頑張って、ついに豚肉をゲット!! 「たかが豚肉」と思うかもしれませんが、これが本当に大変なことなんです。並べられるのをじっと見ていないと、すぐになくなってしまう。油断禁物です≫

 冷凍食品売り場でも商品はガランとしている。

≪きょう、運良くワンタン1袋、もぎ取りました。湯圓(もち米で作った団子)はまだ残っていますが、水餃子、肉まんはもう見かけなくなりました。感染よ、早くどこかに行ってください≫

 翌6日の発表では中国本土の死者が563人、うち武漢が414人。実に4分の3近くが武漢という計算となった。

 武漢では、体育館や国際会議場などに簡易ベッドが大量に持ち込まれた。まずそこで軽症感染者を集中収容し、症状が悪化すれば正規の病院に移すという段取りが取られた。

≪封鎖15日目(6日)、雨。私の友達には医療現場でがんばっている人がたくさんいます。みんな毅然とした態度で、いちボランティアとして現場に出向くことを選択しました。ある人は医師として、またある人は看護師として、昼夜問わず、最前線で患者に向き合っています。防護物資を運搬する責任者になった人もいます。その運搬を手伝うだけの人もいます。それぞれができる、それぞれの役割を果たしているのです≫

 死者が武漢に集中するにつれ、感染した人やその疑いを持つ人が病院に押し寄せる。それに医療現場は対応できない。この状況が徐々に深刻化し、「医療崩壊」という現象となった。そこで、現場の役に立とうと多くの若者が現場に赴いた。

≪ひとりひとりの覚悟は同じではありません。ボランティアの友人たちに、私はこう言ってあげたいです。

「自分の身は自分でしっかり守ってください。そしてしっかり休息を取ってください」

「前線はみなさんを必要としています。そしてご家族もまた、みなさんが無事戻ってくることを待ち望んでいます」

 そして「みなさんのやっていることは、本当にすごいことなんですよ!」と伝えたいです≫

 中国各地で対策が本格化する。浙江省杭州市では、生活必需品を購入できるのを数日に1回とし、その買い出しには1世帯1人しか出向くことができないとした。江蘇省南京市では住民以外は小区に入れないよう制限した。こうした対策が市民生活を徐々に不自由にしていく。

 そんななか、ある人物の死が伝えられた。

 早い段階で原因不明の肺炎に気づき、ネット上で声を上げた武漢の眼科医、李文亮さん(33)だ。2月7日未明、新型肺炎によって死亡した。

 李さんを含む一部の医師らは昨年12月、通信アプリ「微信」のグループ内で「重症急性呼吸器症候群(SARS)が出たようだ」と注意を呼び掛けた。だが公安当局は「デマを広めた」として摘発、李さんは1月3日に訓戒処分を受けた。

 李さんの死に際し、中国国内では「心が痛む」「受け入れられない」と衝撃が広がった。同時に、警鐘の声を封じた当局に対する怒りも爆発した。

≪封鎖16日目。この世にメルヘンなどというものは存在しないと思いますが、私はこう思いたいです。天使は彼を連れて行ってしまった。たぶん、もう一つの世界でも、彼を必要としていたのでしょう。

 今、この世で呼吸をしているみなさん、しっかり生きていきましょう。私たちはもっと粘り強く、団結していかなければなりません。彼の死を無駄にしないためにも≫=つづく

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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