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こたつで気持ちよくウトウト… でも、居眠り後に身体がだるくなる理由は?

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
写真:アフロ(写真:アフロ)

 こたつに入ると居眠りしてしまい、そのあと身体がだるくなってしまった経験をした人も多いと思う。こたつは心身ともにほっとする暖房器具だが、こたつで寝てしまうのは、医学的にはかなりマズいことを紹介したい。

こたつに入ると眠くなる理由

 今年の冬は、西日本や九州・沖縄で気温が低めとなり、日本海側では雪が多くなるだろうという予報が出ている。ラニーニャ現象が発生する可能性が高いためだそうだが、全国的にはこたつの出番も増えそうだ。

 寒い外から帰ってきて、こたつに入ったときに感じる暖かさは、なんともいえない心地よさがある。ほっとしてテレビを見たり、スマホを見ているうちに、居眠りしてしまう・・・冬の定番の経験だ。

 人間は、身体の深部の熱が表面に逃げて下がるときに、覚醒度が下がり眠くなる。こたつに入る、あるいは入浴した後など適度に身体や手足が温まると、そのあとは皮膚表面への放熱現象が生じるので、人間は眠くなる仕組みになっている。

 こたつの温度の影響ばかりではない。人は寝つくときに、自律神経のリラックス役を務める副交感神経が活発になり、手足の温度が約1.5度上昇する。手足が温かくなると、表面血管が拡がって血流が増加し、手足からの熱の放散が起こりやすくなる。

 こたつを使用しているときは、暖房をガンガンにかけないことが多いだろうから、やや寒めの上半身から熱が逃げやすくなる。上半身や手足からの熱放散が促進されることになり、深部体温が下がり眠くなる[1]。

 これが、こたつに入ると眠くなるメカニズムと考えられる。寝つきにはすばらしいこたつだが、安定して眠るには適しておらず、むしろ健康に有害なことが多い。

 こたつに似た暖房器具は、日本だけでなく中東やヨーロッパの一部にあるようだが、国際的に使われるものではなく、研究資料はほとんどない。温度と睡眠の生理学的な視点から、こたつでの睡眠を解説する。

だるさは発汗・脱水のせい

 こたつで長時間寝ているとだるくなるのは、寝返りをうちにくい姿勢ももちろんだが、脱水のためであると考えられている。こたつに入ると、遠赤外線の放出によって、下半身は40度程度の温度環境に置かれたままとなり、下半身が持続的に温められてしまうことになる。

 サウナに入ると汗をたっぷりかくように、温度が高く暑いと感じたときには、身体は汗を出すことで体温を下げて体温を一定に保とうとする。こたつに入っていると、座ってじっとしているだけなのに、かなりの汗をかく、ないしは水分が身体から失われることになる。

 汗をかけば、身体から水分が失われる。脱水症状を起こしやすく、だるさは脱水の典型的な症状である。血管内の脱水は、血液をドロドロにしやすくなるため、心筋梗塞や脳血栓などを生じやすくなる。さらに温度が上がることによって、血小板の変性が生じ、血栓がいっそうできやすくなる可能性もある。

 要は、血管に血液が詰まりやすくなり、場合によっては心筋梗塞や脳血栓などのような、死に直結するか深刻な後遺症を残す病気が、突然発症するということもありうるわけである。また、こういった病気に既にかかったことがある人は、こたつで寝てしまうのは危険といわざるをえない。

暖かすぎると、睡眠も浅くなる

 脱水によるだるさだけでなく、暖かすぎる環境がずっと続くのは、睡眠も浅くする。夜の睡眠中は、深部体温はもっとも高い夕方に比べ約1度ほど低く、24時間のなかでもっとも低い温度を示す。深部体温が睡眠中に高すぎると、深いノンレム睡眠や主観的な睡眠の質が低下することがわかっている。電気毛布で寝ると、睡眠が浅くなるという結果もある[2]。

 こたつで問題になるのは、下半身と上半身の温度差である。体幹と四肢の温度差が大きいほど、体幹からの熱の放出が効率的に行われず、睡眠効率が低下し、睡眠も浅くなりぐっすり眠れなくなる可能性も高くなる。

 レム睡眠中には、体温調節がほとんど行われなくなる[3]。結果的に、周囲の温度変化への対応がしづらくなる。したがって周囲の温度が高すぎると、レム睡眠の時間が短くなる[4]。これも、睡眠の質が悪くなる要因である。

 まとめると、温度が高すぎると、疲労回復に必要な深いノンレム睡眠だけでなく、生命の維持や感情調節に重要な役割を果たしているレム睡眠も、阻害される。こたつは、睡眠にとっては入眠に多少良いだけで、あとは害しかないと言える。

上半身と下半身の温度差に要注意

 こたつで寝ると脱水傾向になるのに加えて、上半身と下半身との温度差が大きいので、体温調節がかなり難しくなる。

 睡眠中は、自律神経のリラックス役である副交感神経のはたらきが優位になる。副交感神経は発汗作用を抑えるはたらきがある。身体は、汗を十分かきたくても、かけない状態にある。よって、熱中症ほどではないが、身体に熱がこもってしまうことによる倦怠感も、だるさに関与している可能性がある。

 上半身と下半身との温度差も、身体にとっては負担になる。こたつを使う家庭のイメージとして、木造の日本家屋で、欧米のようなセントラルヒーティングはないなど、室内の温度は低めの場合が多いと思われる。

 上半身は10~20度程度、下半身は40度程度(弱設定の場合)と、実に20〜30度もの温度差にさらされ続けることになる。半身浴のような短時間ならばまだしも、このような温度差の状態で睡眠というある程度長い時間を過ごしてしまうと、身体への負担は相当なものであると予測される。特に冬は血圧変動の激しい時期なので、高齢者でなくても、脳血管障害を起こしやすくなる。

 また脱水によって、上半身は乾燥し、鼻腔や口腔内も乾燥する。こたつで寝ると風邪を引きやすいという都市伝説があるようだが、脱水による対ウイルス抵抗力のダウンに加えて、乾燥を好むウイルスに絶好の感染機会を与えているせいかもしれないので、信憑性としては十分ありうる。

座りっぱなしによるだるさ

 こたつに入ると、尻に根が生えたように座ったり横になったりで、長居してしまう。座りっぱなし、あるいは下半身を動かさない姿勢が、長時間続きやすい。

 座りっぱなしも含めてこのような姿勢を長時間続けると、生活習慣病をはじめとして、健康に有害なことが多くの研究で実証されている。今年発表された14万人強を対象としたカナダの調査では、1日の大部分を座って過ごす人は、身体を動かす時間が長い人に比べて脳卒中のリスクが7倍にもなるという[5]。この研究の対象は60歳未満なので、年寄りではないからといって油断するのは禁物だ。

 座りっぱなしが不健康になる要因として、下肢・体幹筋力の低下などもあるが、下肢の血流が滞ることが大きな要因として考えられている。とすれば、動かないだけでなく、脱水によって血流も滞りがちになるこたつに長時間根が生えたように居座るのは、脳血管障害など血管が詰まる病気を発症ないし促進する可能性が、普通のイスに座っているより高いと言えそうだ。

こたつで寝ないために

 こたつで寝る、あるいは長時間座ったままでいることの危険を書いてきたので、こたつで時間にわたって寝ない、あるいはうたた寝しても短時間で切り上げるコツをリストアップしてみた。

 大原則は、時々こたつから出ることである。これしか有効な手はなく、時々こたつから出る工夫をあれこれ考えるしかない。とにかく、30分〜1時間に一度は、こたつから出るようにする。

 寝てしまうのが心配であれば、こたつにタイマーがあるならば、1時間で切れるようにするなど、忘れずにセットしておこう。決まった時刻にスマホのアラームをセットしておく手もある。家族がいれば、「こたつに居すぎ」など声をかけてもらうように頼んでおくのもよい。

 以下は、補助的なコツである。下記を守ったところで、ずっとこたつに居たのでは意味がない。

1.水分補給を怠らない

脱水予防のための水分補給はまめに行いたい。水やお茶でもよいが、脱水予防ならば運動とはかけはなれているが、スポーツドリンクでもよい。冬のこたつというとみかんがイメージに浮かぶが、フルーツはミネラルも多く含み、ただの真水よりは、脱水を防ぐ効果がある。

2.アルコールを飲まない

アルコールには脱水作用があるので、こたつでお酒を飲むときは要注意だ。アルコールは、寝つきにはいいので、つい一杯飲んでこたつでウトウトしがちであるが、これは非常に良くない。こたつでは飲まない、あるいはこれもアラームをかけて、寝る時刻になったならばベッドや布団に入ってちゃんと眠るなど心がけたい。

3.温度は低めに設定

寒いからといって高い温度に設定すると、脱水だけでなく、低温やけどの危険も生じてしまう。

4.室温は暖かめに

暖房をつけずに寒いままこたつに入るのは、上半身と下半身の温度差がさらに大きくなるので、身体への負担となる。身体の異なる部分の温度差は、自律神経にも負担がかかる。冬の血圧変動の大きい時期には、脳血栓など脳血管障害のリスクが増えると考えられる。

5.こたつに代わる暖かい場所を作る

こたつからちょくちょく出ろと言われても、寒い部屋にいるわけにもいかない。温度差によって、ヒートショック(血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こる)のリスクも高くなり、かえって不健康である。とすると、暖房の効いた部屋を作ったほうがいい。セントラルヒーティング、オイルヒーター、床暖房など、こたつの代替手段を整備するということになるだろう。あくまで、こたつは補助的に使うほうがいいというのが、わたしの意見である。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

1.Kräuchi K. The thermophysiological cascade leading to sleep initiation in relation to phase of entrainment. Sleep medicine reviews, 2007, 11(6), 439–451. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2007.07.001

2.Fletcher A et al. Sleeping with an electric blanket: effects on core temperature, sleep, and melatonin in young adults. Sleep. 1999;22(3):313-8. https://doi: 10.1093/sleep/22.3.313.

3.Heller H.C. Temperature thermoregulation and sleep. in: Kryger M. Roth T. Dement W. Principles and Practice of Sleep Medicine. Sixth Edition. Elsivier Saunders, 2017

4.Muzet A et al. Rem Sleep and Ambient Temperature in Man, International Journal of Neuroscience, 1983; 18:1-2, 117-125, https://doi:10.3109/00207458308985885

5.Joundi RA et al. Association Between Excess Leisure Sedentary Time and Risk of Stroke in Young Individuals. Stroke, 2021;52(11):3562-3568. https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.121.034985Stroke. 2021;52:3562–3568

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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