ゲーム症(障害)と精神障害

(写真:アフロ)

病気になった「ゲーム症(障害)」

 「ゲーム症/障害(Gaming Disorder)」が、新たな精神疾患として加わるというニュースが先日飛び込んできた。世界保健機関(WHO)が公表している国際疾病分類(ICD)が改訂されることになり、第11版(ICD-11)では、「ゲーム症/障害」を新たな精神疾患として分類したのである。

 わたしは大学生のメンタルヘルスにも関わっているが、生活リズムの乱れの一因としてネットやゲームが問題となることは少なくない。なによりわたしが、大学生時代にドラクエや信長の野望にはまってしまい、しばらくの期間にわたって昼夜逆転生活だった経験があるので、他人事とも思えない。

 わたしはゲーム症/障害治療を専門としているわけではない。ただゲームには嗜癖という性質がありながらも、eスポーツに象徴される健全な娯楽性があることにも着目している。

 報道では「ゲーム障害」という表現がほとんどだが、日本精神神経学会は原語であるdisorderを「障害」と訳さず、「症」と訳す方針である。したがって、ゲーム症と表現するのが、適切である。ここでも「ゲーム症」の表記を使っていく。

「ゲーム症」の基準

 簡単に言えば、ゲームにのめりこみ、勉強や仕事などほかの活動を犠牲にし、我慢も効かず中止できないことから、対人関係や社会生活などに重大な支障をきたすというものだ。

 ICDに先んじてもう一つの精神障害の分類、アメリカ精神医学会が作成する診断基準(DSM-5)が、「インターネットゲーム症(Internet Gaming Disorder)」について基準を定めている。ただDSM-5は、インターネットゲーム症は今後の研究を進めるべき病態のひとつとして、精神障害には分類しなかった。

 ICD-11に収載される定義と診断基準は、リンクをご覧いただきたい。ICD-11英語版が掲載してある。

 拙訳で恐縮だが、日本語では以下のような診断基準だ(ややわかりやすくした)。

ゲーム障害は、持続的または反復性のゲーム行動(オンラインまたはオフライン)であり、1年以上にわたって以下の3つの症状が続くこととされる。

1. ゲーム行動を制御することができない

2. ゲームの優先度が人生の他の興味の全てに優先する

3. 問題が起きてもゲームを続けてしまい、社会生活に悪影響が生じていてもゲームをやめられない

 基準項目が9つあるDSM-5に比べれば、ICD-11はややゆるく、ややもすれば当てはまる人が増えてしまうように感じる。そこで「ゲーム症」が、精神障害に分類されるほど深刻になった理由を考えてみたい。

「ゲーム症」が深刻な理由

 ゲームにのめり込むのは、ほとんどが10~20才代の若者だ。わたしのころとまったく異なるのは、ゲームがインターネットに繋がっていることである。

 この世代がオンラインゲームに繋がった「ゲーム症」になると、まず睡眠・リズム障害が問題となる。ゲームに集中するのは、夜間・深夜が中心となる。睡眠時間が短くなり、仕事や学業に影響が出るのは当然である。深夜も画面から発されるブルーライトへの曝露は、体内リズムを夜型に乱してしまう。

 またオンラインゲームではチームプレイがほとんどであり、自分だけ抜けると他人に迷惑をかけることになり、やめることが難しい。家族からの制止は、家庭内暴力に至る。

 もっとも深刻な問題は、アイテムや武器の入手のために、内緒で親のお金に手を出すなどの逸脱行動である。オンラインではクレジット課金での購入も容易であり、本人の罪悪感は薄れがちで、知らない間に予想もしない高額になりがちだ。

 さらにゲームで好成績を上げれば、達成感を得られ、承認欲求も満たされる。成績低下などで悩んでいる自尊心の低下した現状からも逃避できる。しかし、言うまでもなく悪循環であり、ますます依存が形成される。

 アルコールや覚せい剤の依存と異なり、身体の調子が悪くなることもないので、当人たちの問題意識は低い。このような事態になってくると、単に趣味や娯楽の問題とは言えなくなる。

 

「ゲーム症」は多いのか

 インターネットの普及とスマートフォンの技術進歩が、「ゲーム症」が顕在化する契機になったのは確かである。ただ「ゲーム症」に該当する人は、ネットの発展と並行して爆発的に増えているのだろうか。

 

 2013年に行われた厚生労働省の科学研究によると、ネット依存の傾向にある成人は合計約421万人、中高生は約52万人(約8%)いると推計されたという(1)。ただ、これは専門家が一人ひとり診断基準に則って診断したわけではもちろんない。また、ネット依存=ゲーム依存ではないように、この約470万人強をすべてゲーム症とするのは乱暴である。

 アメリカ精神医学会・DSM-5によるインターネットゲーム症の記述では、0.3~1%となっている。日本や韓国は、ほかの諸外国よりはゲーム症は多いのかもしれないが、評価は慎重にすべきであろう。

 そもそも、診断における厳密性を重視するDSMとは異なり、世界保健機関が作るICD は、特定国に偏らず世界各地で使われている疾患概念を、できるだけ広く採用しようというのが特色である。ICDに採用されたからと言って、ゲーム症の疾患概念が金科玉条のように確立されたわけでもない。違和感を感じている人もいるはずだ。

「ゲーム症」の知識をeスポーツに役立てていく

 注意すべきは、ICDに採用されたからと言って、ゲーム症を過剰診断しないことであろう。節度を守ってゲームを楽しんでいる人ももちろん多い。そういった健全な人を、ゲーム症が疾患認定されたからと言って鬼の首を取ったように批判するのもどうかと思う。

 しかし、重症な社会障害をともなうゲーム症のケースに対しては、適切な治療とケアが行き届きやすい体制作りもしていくことも大切だ。その点では、ゲーム症がICDに収載されたのは大きな意義があると考える。自立支援制度など公的サポートは、ICDによる診断基準の記載を求められるからだ。

 eスポーツ選手に代表されるゲームプレイヤーのメンタルヘルス研究も、今後は重要になってくるだろう。現にプロフェッショナルであるeスポーツ選手にも、過重労働=ゲーム嗜癖の問題が生じており、対策が行き届いていないとする報告もある(2)。

 仕事依存という俗語があるが、eスポーツ選手の仕事依存はゲーム症というわけだ。たしかに、ゲーム症の診断基準を「仕事」に置き換えると、社畜と似たようなものになる。ともかく、eスポーツとメンタルヘルスが今後求められる研究分野であることは違いない。

1. 大井田隆,他:未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究.平成24年度厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業,東京,厚生労働省,2013

2. Banyai F et al. The Psychology of Esports: A Systematic Literature Review.

J Gambl Stud. 2018[Epub ahead of print]

1970年石川県生まれ、東京医科歯科大学卒業。東京医科歯科大学助教、自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員研究員などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授。精神科専門医、日本睡眠学会専門医など。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。著書に「『テンパらない』技術」(PHP文庫)、「休む技術」(大和書房)、「悪夢障害」(幻冬舎新書)など多数。

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