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「東京差別」社会イノベーションのきっかけとなるか?

にしゃんた社会学者/タレント
日本を代表するシンボルの一つとなった渋谷のスクランブル交差点(にしゃんた)(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスが現れるとすぐさま差別とセットとなった。武漢での騒ぎが放送されると、日本でも「不要来感染中国!」との張り紙がニュースとなった。貼った者は「感染した中国人に日本に来てほしくないという思いを抑えられなかった」と答えている。

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 今回の新型コロナウイルスによっての最も大きな学びは、ウイルスには3つの感染症があるということだった。1つ目はウイルスへの感染そのもの、2つ目は未知なるが故にウイルスに対する恐怖の感染、そして3つ目は護身のための他者に対する攻撃の感染、である。本当に怖いのは、「ウイルスの次にやって来るモノ」との予言が見事に的中した。

 ウイルスもだが、残りの2つの感染症にかからないようにすることが求められている。ウイルスへの感染は「3密」や消毒などを気をつければ回避できるが、2と3に感染することを避ける方がよっぽど困難である。むろん1つ目の感染症にかからずとも2と3に簡単にかかってしまうのは人間の性でもある。かからないためには人間としての鍛練が必要であるに違いない。

 日本でも1つ目に感染する前に、人々は2と3の感染症にかかってしまい、外国人に向かっていた矛先は、徐々に自国民に向けられるようになった。真っ先にウイルスをもっている可能性が高いと思われる者がターゲットになり、医療従事者や感染者が出た機関などに関わりのあるものが被差別者となった。今では日本のあちこちで県外ナンバーの車が卵を投げつけられたり、傷付けられるなどの器物破損事件が相次いでいる。今までの社会である程度固定化されていた差別の対象が新型コロナウイルスの登場によって流動的となり、社会でぐるぐる廻っている。

 ここに来て「東京差別」との言葉がニュースとなった。PCR検査の拡大などによって感染者の数が増えている東京を敬遠する現象が現れ、すでに十分問題となっており、この先も懸念される。中には東京在住というだけで愛する者の葬式の出席を拒まれる者や、私の友人の中にも次回の休みは東京ナンバーの車での帰省を諦め、新幹線で帰り、周りの人に会うことなく実家で大人しく過ごそうと考えている者も出て来ている。国が経済対策として考えているGo to キャンペーンなどにも影響が出そうと嘆きの声が聞こえてくる。

 

 東京の人を一括りにできるわけでもなく、人々にはなんの罪もないと認識している。ただ誤解されては困るが、俯瞰した場合、東京が差別の対象となる現象は考え深い。差別は歴史上、常に弱者に向けられて来た。数の上の弱者であり、経済力の上の弱者であり、腕力や武力の上での弱者であった。力をもつ側が基本的には差別の対象にならず、往々にして強者には弱者を差別している自覚すらない。例として国内のエネルギー確保における都会と地方の関係にも、先住民族アイヌと中央政府の関係にも、沖縄と中央政府の関係にもおそらく当てはまる。その点、あらゆる力が集中している「東京」は日本において憧れの対象であっても、差別の対象になったことは今まで聞かない。

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 社会の差別をなくしたい場合、鍵となるのは紛れもなく力をもつ側である。力をもたない者がいくら声を張り上げても力もつ側が寄り添わなければ何も生まれない。自分の属性が力の中心に近づけば近づくほど意識的に、そして無意識に結果として直接的に差別、または間接的に構造的な差別に加担しているのかもしれないということに思いを馳せる必要がある。自らが力の中心に寄れば寄るほど力なき者と気持ちの上で逆に密になることが求められる。

 社会に存在するどのような差別であれ、いただけない。言わずして早い終息を願う。ただこの際、「東京差別」は、力もつ側の目覚めの大きなきっかけとなることを大いに期待してやまない。

社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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