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ドラマ評論家・成馬零一のドラマ短評 SFドラマ『17才の帝国』の精密な世界観とスリリングな脚本。

成馬零一ライター、ドラマ評論家
テレビとリモコン(提供:イメージマート)

 今夜、最終回(NHK、土曜夜10時放送)を迎える土曜ドラマ『17才の帝国』は、テーマ、映像、芝居、物語といった、あらゆる要素が魅力的な作品で、今年観たテレビドラマの中ではダントツの面白さだ。

 舞台は202X年。GDPが戦後最大の落ち込みを見せ失業率が10%を越える日本は、G7からも脱退しサンセット・ジャパン(経済の日没)と呼ばれていた。

 内閣総理大臣の鷲田継明(柄本明)はこの現状を打破するため、政治AIを用いて若手政治家に都市の運営を担わせる政治構想「Utopi-AI」を打ち出す。

 まずは青波市を独立行政特区「ウーア」に指定し、15~39才の若手に政治を任せる計画を行うのだが、政治AIのソロンが総理大臣に選んだのは17才の少年・真木亜蘭(神尾楓珠)だった。

 第1~2話はある種の政治シミュレーションとなっており、NHKスペシャルで放送されている教養バラエティを観ているようだ。

 そのため当初は、大胆な改革をおこなう真木たち若手閣僚VS保守派の老人という政治闘争になるかと思われたが、物語は一筋縄ではいかず、各登場人物の事情を少しずつ掘り下げる群像劇となっていく。

 同時に展開されるのが白井雪をめぐるミステリアスな物語だ。家が貧しく苦しい日々を送っていた真木は、白井雪という少女に優しくされたことが救いとなっていた。しかし雪の家族は一家心中を起こし、雪は10才で亡くなってしまう。

 実は雪の父は鷲田総理の第一秘書で、総理の不正献金疑惑に深く関わっていたことが、3話で明らかになる。

 真木は雪を17才の少女の姿をしたAI・スノウとして蘇らせて、いつも対話をしているのだが、真木とスノウの目的がいまだ不明のまま、今夜の最終話を向かえる。

 制作統括は、連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、美容整形が問題となっている架空の日本の日常を描いたSFテイストの青春ドラマ『きれいのくに』などを手掛けたNHKの訓覇圭。

 プロデューサーは『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)といった坂元裕二脚本のドラマを手掛けた関西テレビ所属の佐野亜裕美。

 作風こそ違うが、訓覇も佐野も細部まで精密に作り込まれた意欲作を多く手掛けており、だからこそ二人の作品は、マニアックなドラマファンから熱狂的に受け入れられてきた。

 『17才の帝国』もSFドラマとして細部が作り込まれており、色味の濃い明暗がはっきりとした映像は、既存のドラマとも映画とも違う独自の手触りとなっている。

長崎県佐世保市のロケーションを用いた青波市の風景も魅力的で、最先端のテクノロジーと叙情的で懐かしい風景が融合した独自の世界となっている。

吉田玲子のスリリングな脚本

 一方、脚本は『けいおん!』、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『平家物語』といったアニメ作品で知られる吉田玲子が担当。

 吉田の脚本は独特で、キャラクターや世界観はとても魅力的なのだが、全5話という短い話数でありながら、物語はあっちこっちに飛び、謎がどんどん増えていくため、果たしてちゃんとまとまるのか? と不安になる。 

 だが、「まとまるのか?」と心配しながら観ている状況が、スリリングで楽しくもある。

 だからこそ毎週、続きが気になって目が離せなかったのだが、この「続きが気になる」という気持ちこそ、オリジナル脚本のテレビドラマを観る上での楽しさだと言えるので、結果オーライかもしれない。

 ウーアのような実験的試みが『17才の帝国』には多く持ち込まれており、その試みこそ、まず何より評価されるべきだろう。

 ここで蒔かれたアイデアの種が、その後の国内ドラマの作り方にも波及してほしいものである。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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