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野木亜紀子脚本WOWOWドラマ『連続ドラマW フェンス』北野拓×高江洲義貴プロデューサー対談(後編)

成馬零一ライター、ドラマ評論家
『連続ドラマW フェンス』場面写真 写真提供=WOWOW

 ついに今夜最終回を迎える『連続ドラマW フェンス』。

 WOWOWで日曜夜10時から放送されている本作は沖縄を舞台にしたクライムサスペンス。『アンナチュラル』(TBS系)や『MIU404』(同)で知られる野木亜紀子が脚本を担当している。

 ドラマジャーナルでは3週に渡り、プロデューサーの北野拓と高江洲義貴の対談を配信してきた。

 最終回となる後編では、撮影に使われた機材や音楽制作についての話や、被害者のケアが描かれた理由について伺っている。

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野木亜紀子脚本WOWOWドラマ『連続ドラマW フェンス』北野拓×高江洲義貴プロデューサー対談(後編) 

『連続ドラマW フェンス』場面写真 写真提供=WOWOW
『連続ドラマW フェンス』場面写真 写真提供=WOWOW

――監督の松本佳奈さんは『フェンス』のようなクライムサスペンスは初めてですね。

高江洲:今回の作品は松本さんが監督でないと成立しなかったと思います。

北野:性的暴行事件を扱った女性バディの物語なので、女性監督にお願いしたいと考えていました。過去作を見てお会いしたら人格も素晴らしい方で、絶対にパワハラをしない安心感もありました。こうした題材を扱っているのに現場で監督がパワハラをすることは絶対にあってはならないので。そして、どの作品も優しさと真摯さが画面に滲み出ていました。サスペンスは未経験でしたが、新たなチャレンジとしてお引き受けいただきました。

――性犯罪が題材のドラマって、リアリティを際立たせるためにエグくなりがちなんですよね。でも『フェンス』は、ギリギリのところで踏みとどまっている。

北野:性加害のシーンをどう撮影するかに関しては本打ちでみんなで話し合いました。レイプポルノには絶対しないというのは共通認識でした。なので、被害者の主観的な視点から映像を組み立てていき、地上波でも放送できるレベルの表現を松本監督にはオーダーしました。

――撮影も素晴らしかったです。

北野:撮影監督は高木風太さんでNetflixの『浅草キッド』や『ヒヤマケンタロウの妊娠』を担当された方です。沖縄舞台の映画「小さな恋のうた」も撮影されていて、沖縄の風景をリアルに切りとるセンスがあると思いました。今回、映像のルックはこうした重い題材だからこそ、締まった暗い映像ではなく、野木さん作品のポップさを意識して色味を出していきたいとお願いしました。松本監督と高木さんがこちらのオーダーにかなり応えてくださったと感じています。そして、監督とよく組まれている美術の富田麻友美さんもリアリティを追求しながらも、色彩には気をつかってくださいました。あと大きかったのは、高江洲さんがWOWOWで撮影機材を調達してくださったことですね。

――機材は何を使用されたのですか?

高江洲:SONYのVENICEと最新機種のVENICE2です。これは世界のトレンドになっている8Kまで収録できるカメラで、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)や映画『トップガン・マーベリック』にも使われています。それでレンズがZEISSの Supreme Primeを使っているのですが、これも大事で、相当暗いシーンも高感度でディテールを拾えるんですよ。ナイターのシーンも多く、沖縄ロケに持っていける機材が限られている中で最大限活躍してくれました。同時にもの凄い情報量を拾えるので後の色調整の作業・グレーディングみたいなところでもものすごくこだわって、やることができました。今回は北野さんにWOWOWでやるなら野木ドラマで一番の映像をやりましょうって言いました。

北野:せっかくWOWOWで高江洲さんと組むのならクオリティの高い映像を追求したいと思いました。カメラやレンズは最新機種を使用し、撮影は高木さん、照明も石川慶監督の『蜜蜂と遠雷』や『ある男』を担当された日本でトップクラスの宗賢次郎さんに担当していただけましたし、グレーディングも連続ドラマとしてはかなり丁寧にやりました。

高江洲:グレーディングって作業自体が日本でも一般化されてきていますが、今回もめちゃくちゃ時間をかけてグレーディングはやっています。

――音楽プロデューサーに岩崎太整さんを立てていますが、その意図を教えてください。

北野:音楽は沖縄出身のフィメールラッパー・Awichさんを軸に考えたのですが、Awichさんは劇伴作家ではないので、以前に『タリオ 復讐代行の二人』の時に音楽プロデューサーを担当してもらった岩崎太整さんに相談しました。岩崎さんから沖縄の地元ミュージシャンを集めて劇伴を作ってもらうのはどうかと提案があり、タリオでも同様のアプローチで素晴らしい音楽を作り上げてくださったので、今回も挑戦しようと思いました。その後、Awichさんに沖縄の才能あるミュージシャンを紹介していただき、彼らを岩崎さんと音響効果の荒川きよしさんの二人がまとめあげることで作り上げました。

――具体的には、どういうやり方で作られたのですか?

高江洲:まずはメニューを作ることですね。こういう楽曲が劇伴に必要だとメニューを作って誰に割り振るかを決めて、あがってきたデモテープに岩崎さんがフィードバックすることで全体のクオリティを上げていく。

北野:沖縄という括りでは統一されていますが、全員ジャンルがバラバラなんです。邦子さんが沖縄の島唄をベースにされている人で、HARIKUYAMAKUさんがダブ、諸見里修さんがピアニスト、Leofeelさんがラッパー。とにかく沖縄サウンドでドラマでは聞いたことのない、一言で言うと、カッコいいものにしたかったんですよね。全てはテーマ曲の「TSUBASA feat.Yomi Jah」が軸としてあったからで、作品全体の世界観を包んでくれたと思います。この曲は復帰50年で作られた曲で、ドラマの世界観とシンクロしているので是非使わせてほしいとAwichさんにお願いしました。岩崎さんと野木さんにも相談したのですが「これ以上の曲はない」と即答でしたね。

被害者のケアが描かれた理由

――『フェンス』を作るにあたって意識した映像作品を教えてください。

北野:僕が最初に野木さんや高江洲さんにおすすめしたのは、Netflixドラマの『アンビリーバブル たった一つの真実』、映画の『プロミシング・ヤングウーマン』の2作ですね。

高江洲:出来上がったものの手触りはだいぶ違いますよね。

北野:性犯罪を題材にしたドラマは『アンビリーバブル』で全てやりきられていると感じましたが、日本ではまだ描かれていないテーマだったので描く意義はあると思いました。それに加えて、『フェンス』は沖縄の基地問題やブラックミックスの葛藤を描いている。どれかひとつのテーマを扱ったドラマは優れた作品がすでにあったのですが、全て盛り込まれている作品は『フェンス』だけなのではないかと。

――病院の側の描写も丁寧でしたが、精神科医の方の取材とかはどうされたんですか? 

北野:新垣結衣さん演じる城間先生役はプロット段階ではなかった役でした。台本段階で取材を続ける中で、被害にあって終わりではなく、その後、どう支援につながるかやどのように回復していくかもきちんと描かないといけないのではと野木さんから提案がありました。実際に沖縄のワンストップセンターで働く産婦人科医の先生に会ったり、性被害のトラウマケアをしている精神科医の方にも取材をさせて頂き、その部分は実感しました。

――病院のパートだけでドラマが一本作れますよね。精神科医を演じた新垣結衣さんのキャスティング意図は?

北野:そうした中で精神科医役は誰にお願いするかという話になった時に、新垣結衣さんに演じてもらえたらと思いました。新垣さんは沖縄生まれだし、こういう出演の仕方はあまり過去にないので良いのではないかと提案したら、野木さんも賛成してくださいました。

――あまり感情を表に出さない喋り方が良かったですね。

エンタメとジャーナリズムの融合

『連続ドラマW フェンス』場面写真 写真提供=WOWOW
『連続ドラマW フェンス』場面写真 写真提供=WOWOW

――北野さんはずっと社会性のあるドラマを作っていますね。近年のテレビドラマでは社会派ドラマを作りたいと考える作り手が少しずつ増えていますが、北野さんと野木さんは先駆者だったと思います。

北野:僕は報道記者をやっていたので、その延長線上で企画を考えるとそうなってしまうんですよね。基本的により良い社会を作りたいという思いや、権力に対してここがおかしいという社会への怒りから企画を立てることが多いので。

――記者時代の経験が根底にあるわけですね。

北野:エンタメとジャーナリズムの融合はいつも考えていることですが、とても時間がかかるし、取材力も求められるのでなかなか作るのが難しいんです。でも、取材力こそが自分の強みだとは思っていて、そこで勝負したいとは思っています。だから、ドラマですが、舞台や情報の新しさは常に追求しています。沖縄の米軍犯罪捜査の内幕は誰も知らないので描く価値があると思いますし。そもそも、僕自身、自分の企画で毎年ドラマを作れるわけではないので、ジャーナリズム性を考えて1本1本大事に作っています。

――商品としてパッケージ化できるかどうかってことですよね。そういう土壌が日本にないというのも哀しい事実で。

高江洲:そのためには土壌を耕して作っていかないといけない。WOWOWはそういう社会派ドラマを地道にやってきた放送局です。『フェンス』のようなドラマを作り続けて社会派ドラマが受け入れられる土壌を耕していくことが大事なんだと思います。

――僕は76年生まれで、上の世代は社会より個人って感じですけど、僕より下の世代になるほど、社会に対する意識が高まっていて、世の中を良くしたいと考える人が増えている。自分の中にも、正しいことを主張したり社会的な発言をすることに対して、ためらいみたいなものがあるんですよ。でも『フェンス』を観ていると、どうして自分はそんなことで悩んだりためらったりしてるんだろうと、改めて考えさせられるんですよね。

北野:もはやためらっている余裕はないって感じですね。日本社会も世界も状況的には切羽詰まっていて。沖縄舞台のドラマも次はいつ作れるのかわからないので、伝えたいことは全部入れようと思いました。

WOWOWドラマの可能性

――WOWOWとしましては、今後も『フェンス』のようなドラマを作っていきたいとお考えですか?

高江洲:この『フェンス』が今後の試金石になっていくと思います。元々、WOWOWでは地上派では作ることが難しい『空飛ぶタイヤ』や『沈まぬ太陽』といったドラマを映像化してきた実績がありまして。

――具体的な事件が題材のものを扱えるということですね。

高江洲:配信ドラマも増えて、地上波でも映像にこだわっている作品が増えてきていると感じます。映像のクオリティは専売特許ではなくなってきていますが、『フェンス』のような作品を作ることで差別化はできていると思います。

北野:今回作らせていただき、WOWOWさんのドラマ表現の可能性を感じました。スタッフィングやキャスティングの自由さもあり、こうした難しい企画も通してくれる。何より脚本の野木さんに対して予算面以外では一切の制約がなかったですし、クリエイターの意向を最大限尊重してくれて、素晴らしいクリエイティブ環境だと思いました。

――最後に、これから『フェンス』を観る方におすすめのポイントを教えて下さい。

高江洲:やっぱり野木さんの書いた台詞ですね。沖縄人として自分が抱えていたなんとも言えないもやもやとした感情。仲良く生きていかないといけないから、自分たちは曖昧にして生きていかなければいけないっていう気持ちは自分の中にも実感としてあって、それを言語化することは今までできていなかった。でも野木さんがその気持ちを汲み取って、桜という人物の言葉として出てきた時に僕は言語化できる術や勇気を貰え、こうやって話すこともできるようになった。その言葉の力が一番の見どころだと思います。

北野:本土の人が見ても沖縄の人が見ても、新たな気づきや発見のあるドラマになったと思います。野木さんの脚本は社会問題を描きつつも、エンタメドラマとしての仕掛けや伏線も数多くあるので、1人でも多くの人に最終話まで見ていただき、少しでも沖縄に想いを馳せてもらえたら嬉しいです。

高江洲:こういう社会問題の背後には、僕たちと同じように普通に生きている人がいて、自分たちとは違う環境によって傷つけられていることもある。そういう現実があること、そこに生きている人たちに少しでも思いを馳せていただければ嬉しいです。

『連続ドラマW フェンス』番組キーカット 提供=WOWOW
『連続ドラマW フェンス』番組キーカット 提供=WOWOW

『連続ドラマW フェンス』

2023年3月19日(日)から毎週日曜22:00放送・配信中(全5話)

脚本:野木亜紀子

演出:松本佳奈

出演:

松岡茉優

宮本エリアナ

青木崇高

與那城奨(JO1)

比嘉奈菜子

佐久本宝

新垣結衣(特別出演)

ド・ランクザン望

松田るか

ニッキー

Reina

ダンテ・カーヴァー

志ぃさー

吉田妙子

光石研

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ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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