『鎌倉殿の13人』(NHK、以下『鎌倉殿』)は平安末から鎌倉時代を舞台にした大河ドラマだ。

 主人公は源頼朝(大泉洋)に仕えた北条義時(小栗旬)。

 タイトルの鎌倉殿とは鎌倉幕府の初代将軍となった源頼朝と、鎌倉幕府の棟梁のことで、「13人」とは鎌倉幕府の裁判と政務を担当する義時も含めた有力御家人13人による合議制のことである。

 脚本は三谷幸喜。

 2004年の『新選組!』、2016年の『真田丸』と、これまで2作の大河ドラマを手掛けた三谷だが、鎌倉時代を舞台にした大河ドラマを手掛けると知った時は、難しい題材に挑むものだと思った。

 大河ドラマでは1979年の『草燃える』で描かれてはいたが、戦国時代や幕末に較べると鎌倉時代は馴染みの薄い時代である。

 源氏が平家を倒し、鎌倉幕府を設立したことを日本史の授業で習っていても、鎌倉時代がどういう時代だったかを説明できる人はあまり多くないのではないかと思う。

 そのため、当初はすごく難しい話になるのではないかと敷居が高く感じたが、そこはさすが三谷幸喜である。

 『鎌倉殿』は、鎌倉幕府の合議制の話や血で血を争う権力抗争をいきなり描くのではなく、まずは鎌倉幕府よりは知られている源平合戦を北条家の視点から見せていくことで、作品世界にとても入りやすくなっている。

甘い敗者と苦い勝者

 平清盛(松平健)が後白河法皇(西田敏行)を幽閉されたことをきっかけに頼朝は平家討伐を決意。義時たち北条家の武士たちは頼朝を大将とする頼朝軍を挙兵する。

 ホームページの「番組紹介」では「頼朝は関東武士団を結集し平家に反旗を翻した。北条一門はこの無謀な大博打に乗った」と書かれているが、大泉洋の演じる頼朝の佇まいは決して勇ましいものではなく、常に慎重で、勝機がない限りは決して動こうとはしなかった。

 最終的に義時が民の数から割り出した挙兵された際にどれだけの兵力が集まるかを聞き、頼朝は挙兵を決意するが、義時の計算は甘い予測でしかなく、兵はなかなか集まらない。

 頼朝の前妻・八重(新垣結衣)が情報を伝えたことで「山木兼隆の館の制圧」という初戦こそ成功したものの、平家方の大庭勢が3000に対し頼朝勢は300。当初、加勢が予定されていた三浦の援軍も大雨で足止めとなる中、伊東勢と大庭勢の挟み撃ちとなった頼朝軍は総崩れとなり追われる身となる。

 頼朝挙兵のエピソードで三谷は「人はなぜ負けるのか」ということを徹底的に描いている。

 天候の影響などの予測できない自体があったとは言え、北条家の確保できる兵力の見通しの甘さや情勢に対する楽観主義はひどいものである。

 ここで決起せねばという北条の気持ちは理解できるが「志の高さ」が、現実を見えなくしている。

 頼朝は「絵に書いた餅だ」と言って、懸念を何度も示していたが戦況の判断は頼朝の方が正しい。

 高い志を持った仲間が集まり「大きなことをやろう」と盛り上がっている時はとても楽しい。時流に乗れば破竹の勢いが生まれるが、その勢いは「現実を見ないこと」によって成立しているため、簡単に足を掬われてしまう。

 『鎌倉殿』は、口調が現代的でコミカルな場面も多い。しかし、どこか生々しく感じるのは、楽観主義からはじまった戦いが無残に負けていく様子を冷徹に描くからだろう。

とは言え、負け戦ほど当事者にとっては楽しかったりする。

実際、義時はあれだけの負け戦を経験しながらも平家を相手に戦うこと対して「こんなに面白いことはない」と感じるようになってきている。(第7話)

 元々、三谷幸喜は“滅びゆく者たちの輝き”を描くドラマ脚本家だ。

『新選組!』も『真田丸』も、時代に置き去りにされた敗者たちを魅力的に描いた物語で、だからこそ彼らの敗北はどこか甘美なものとして描かれていた。

 対する『鎌倉殿』では、北条義時の姿を通して「苦い勝者」を描こうとしていると、制作統轄の清水拓哉はインタビューで語っている。

新大河ドラマ「鎌倉殿の13人」 三谷幸喜が描く〝苦い勝者〟

 いつもならクライマックスに持ってくる「甘い敗者」の姿を序盤で描いたのは、後に義時が達成する“苦い”勝利を描くためだろう。

 まだ始まったばかりだが、幾多の争いをくぐり抜けた末に、義時がどう変わっていくのか、じっくりと見守りたい。