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ドラマ評論家・成馬零一のドラマ短評『ミステリと言う勿れ』第1話。“正しさ”と向き合う月9

成馬零一ライター、ドラマ評論家
テレビとリモコン(提供:shiori/イメージマート)

  新しい月9(フジテレビ月曜9時枠)のドラマ『ミステリと言う勿れ』がスタートした。

 本作は田村由美の同名漫画を映像化したミステリーテイストのドラマ。

 物語は大学生の久能整(菅田将暉)が警察から事情聴取を受けるところから始まる。高校、大学でいっしょだった男性が殺害され口論していた場面を目撃された久能は殺害容疑をかけられる。しかし、久能は理路整然と反論し事件の真相を解明する。

 第1話の久能はいわゆる安楽椅子探偵で、彼が発した弁明や事件に対する違和感を聞いた刑事が事件を調べ直すことで真犯人を突き止める姿が見せ場となっている。

 面白いのは一見、事件と無関係にみえる刑事たちとの雑談。

 ペットの猫の死に目に会えなかったことで落ち込んでいる女刑事・風呂光聖子(伊藤沙莉)に対しては、猫はあなたに死ぬところを見せたくなかったのだと話し、風呂光は猫に愛されていたと慰める。

 妊娠している奥さんと喧嘩したことを気にしている池本優人巡査(尾上松也)には、家のゴミ箱がいくつあるのか知っていますか? と尋ね、自分が夫としていかにダメだったのかを悟らせる。 

 さりげない雑談や噂話から本質へとたどり着き、気の利いた豆知識や自分の意見を伝えることで相手に気づきを与える久能には、鋭い洞察力がある。

 一見無意味にみえる雑談の果てに事件は意外な真相へとたどり着く。

正しさをめぐる距離感のむずかしさ

 久能整はユニークなキャラクターだが、その存在はドラマ化以前からネット上で話題となっていた。

 聞きかじった知識で相手を論破する久能の考え方の背後にあるのはポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)、ダイバーシティ(多様性)といった現代的な価値観だ。

 そして、論破する相手が古いジェンダー観に縛られた男たち(第1話では特にそれが強調されている)だったため、ネット上では“ポリコレアフロ”と揶揄されていた。

 こういった批判が出るのは作品のメッセージ性が前面に出ているからだろう。

 現代的な価値観へのアップデートが必要だが、他人を論破するための道具(ポリコレ棒)として振り回すのはおかしいのではないか? という反発は近年増えている。

 例えば、恋愛ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)は2016年に放送された時にはラブコメと作中に散りばめられた現代的な価値観が同時に評価された。

 しかし、2021年1月2日に放送されたスペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』では、連続ドラマの時には抑制されていた「現代的な価値観で古い価値観を批判する論調」が前面に出過ぎていたため、反発も多かった。

 『ミステリと言う勿れ』への批判も同じ反発だろう。

 このような反発に対して、ドラマの作り手はとても自覚的だ。

 それは久能を演じる菅田将暉の芝居にあらわれている。

 菅田はスポーツ報知に掲載されたインタビューの中で、言うことが全て正解という印象になると久能が神様みたいになってしまうため「積極くさくならないようなあんばいが本当に難しかったです」と語っている。

スポーツ報知:菅田将暉、韓国映画やエンタメとの差を「僕らは悔しがらなきゃいけない」使命感と責任感の強い素顔…インタビュー

https://hochi.news/articles/20220114-OHT1T51189.html?page=1

 これはドラマを観ていて一番に感じたことだ。

 菅田が落ち着いた優しいトーンで話すことで、正論で相手をねじ伏せる論破感は、だいぶ軽減されている。

 文字のやりとりでは抜け落ちてしまう感情の機微が、映像や音声を用いることで伝わりやすくなることは多い。菅田将暉の演技によって久能が、より人間味のある存在へと変わったように感じた。

 前述した『逃げ恥』以降、若い女性視聴者の注目は月9から火曜ドラマ(TBS火曜10時枠)へと移ってしまったが、それは「現代的な正しさ」を内包した娯楽作を作るという勝負を月9が避けていたからだ。

 しかし『ミステリと言う勿れ』は“正しさ”の問題に正面から挑んでいる。

 難しい問題を扱っているため反発は多いだろうが、それは注目されている証明だ。

 久しぶりに月9らしいドラマを観たなと思い、嬉しかった。

ミステリと言う勿れ オフィシャルサイト

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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