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振り込め詐欺をおこなう反社の実態を描く杉野遥亮主演のピカレスクドラマ『スカム』を見逃すな!

成馬零一ライター、ドラマ評論家
『スカム』キービジュアル (c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS

 吉本興業の騒動をきっかけに特殊詐欺(振り込め詐欺)で私腹を肥やす、半グレ、反社(反社会的勢力)と呼ばれる集団に注目が集まっているが、彼らの実態を描いたドキュメンタリーやフィクションも盛り上がりを見せている。

 今年3月にはNHKスペシャルで『詐欺の子』というドキュメンタリー&再現ドラマが放送され、先日(7月27日)には同じNHKスペシャルで、ドキュメンタリー番組『半グレ 反社会勢力の実像』が放送された。

 NHKでは8月31日から土曜ドラマ枠で振り込め詐欺を担当する刑事の活躍を描く『サギデカ』の放送が予定されているが、現在放送中で盛り上がりを見せているのが、MBSで制作されている深夜ドラマ『スカム』である。

振り込め詐欺の実態を描いた問題作

 

 物語は2009年からはじまる。

 08年に起きたリーマンショックの影響で、新卒切りにあった草野誠実(杉野遥亮)は、父親が保険適応外の癌を患ってしまい高額の治療費が必要となる。毎月の学生ローンも払えず困っていた誠実は、友人の田中祥太郎(戸塚純貴)が持ちかけた一回で30万円がもらえる高額のバイトを引き受ける。しかし、そのバイトは、振り込め詐欺の現金を引き落とすという“出し子”の仕事だった。

 

 しぶしぶ仕事を引き受ける誠実だったが、祥太郎が警察に見つかったために逃走。

 

 警察からは無事逃げられたが、祥太郎が現金を持ち逃げしたため、集金屋の山田良(山中崇)に捕まりクレーンで吊るされる。

 絶体絶命の誠実。しかし、なぜか詐欺グループの上司に才能を見込まれ、振り込め詐欺の実行現場へと送り込まれることに……。

(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS

 物語は、一見、会社のような振り込め詐欺の現場に送り込まれた誠実が、詐欺のノウハウを身につけることで闇社会をのし上がっていくピカレスクドラマとなっているのだが、その物語を支えるのが、振り込め詐欺、特殊詐欺と言われる犯罪で億単位の利益を上げる反社会勢力の世界観だ。

 鉄道警察に成りきる詐欺のノウハウ「テッケイ」

 被害者から直接現金を受け取る「受け子」

 ATMからお金を引き出す「出し子」

 同じ詐欺被害者から繰り返しお金を騙し取る「おかわり」

 そして、「かぶせ」「こだま」といった詐欺のテクニック。

 こういった専門用語が多数登場する。

 これらの知識や詐欺組織の描写は、原案にクレジットされているルポライターの鈴木大介によるノンフィクション「老人喰い――高齢者を狙う詐欺の正体」(ちくま新書)を下敷きにしている。

『老人喰い』についてはこちらを参照

(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS

 

 本屋で『老人喰い』の帯を見た時は、新書が原案とはどういうことか? と思ったが、中身を読んで納得した。

『老人喰い』は、寂れた町の描写からはじまり、地味なスーツを着た若者たちが町中にあるビルの中にあるオフィスに入っていく姿が描かれる。

 エレベーターに乗る男たちは3階へのボタンを指ではなく握った拳の中指第二関節でコツンと叩くように押す。

 これは、ボタンに指紋がつかないようにするためだが、こういった特殊詐欺をおこなっている反社の若者たちの細かいディテールの描写がとてもおもしろく、ドラマ版にも反映されている。

 まるで小説を読んでいるような面白さが本作にはあるのだが、なんと言っても白眉は、振り込め詐欺のプレイヤーが育成される過程を描いた「第三章 いかに老人喰いは育てられるか――プレイヤーができるまで」だろう。

 『スカム』では第2話で、まるまるこの場面が再現されている。

 胃が痛くなるような研修で、参加者が罵声を浴びて精神的に追い詰められるのだが、やがて自立した働く大人へと覚醒していく。

 詐欺師の育成という間違ったことをやっている(さながら、『仮面ライダー』における悪の組織・ショッカーの構成員を育成しているようなものだ)とわかっていても、自分の限界に挑み仲間とともに成長していく誠実たちの姿には妙な感動と爽快感があるのが本作の気まずいおもしろさだ。

(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS
(c)「スカム」製作委員会・MBS

物語の根底にある世代間格差と老人への憎悪

 

 研修をおこなう店長の毒川馨(和田正人)は辛辣な言葉と暴力で研修参加者を追い詰める最悪のパワハラ野郎だが、無事研修を終えた参加者には優しい言葉をかけてくれる。そして最後のダメ出しとしておこなわれるのが、ドライブによる社会科見学だ。

 車で連れて行かれるのは80年代のバブル期に作られたゴルフ場で会員は豊かな高齢者ばかり。その後、連れて行かれるのは工業団地にあるコンビニの駐車場。そこにいるのは近くの工場で働く20代から30代の若者たち。

 やがてこの仕事が、振り込み詐欺の営業だとバラした後、「詐欺はそもそも犯罪か?」というレクチャーを毒川はおこなう。

 そこで語られるのは、今の日本に蔓延する世代間格差だ。

 定年退職して、使い切れないお金を持っている年金暮らしの高齢者は日本の癌だから、職を奪われて当然だという階級闘争を煽ることで詐欺を正当化する毒川。

 

 この貧乏な若者たちを顧みようとしない豊かな老人たちに対する憎悪は『スカム』の重低音となって常に響いており、話の節々には、傲慢で幸せそうな高齢者たちが繰り返し登場する。その見せ方が不愉快で、繰り返し見せられていると(間違っていると分かっていても)バブル崩壊以降の就職氷河期を体験した40代としては、若い詐欺師たちの側にシンパシーを感じてしまう。

 こういった世代間格差と老人への憎悪は(高齢者が視聴者の中核を占める)今のテレビドラマではほとんど描かれないことだ。NHKで作られた『詐欺の子』等の作品も、あくまで被害者として老人たちを描いていたのだが、大手マスメディアでは建前上、無いことにされている暗い感情を、振り込め詐欺を通して描いたことが、本作のもっとも突出したポイントだろう。

 第3話以降は詐欺グループで出世することでダークヒーローとして覚醒していく誠実の姿が本格的に描かれるのだが、同時に破滅の匂いも漂ってきており、どのような末路をたどるのか目が離せない。

 振り込め詐欺を通して現代日本の病巣をえぐり出す『スカム』は、ピカレスクドラマの傑作である。

『スカム』キービジュアル (c)「スカム」製作委員会・MBS
『スカム』キービジュアル (c)「スカム」製作委員会・MBS

ドラマイズム『スカム』

原案:『老人喰いーー高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書)

監督:小林勇貴

脚本:継田淳

主演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香 他  

制作:「スカム」製作委員会・MBS

https://www.mbs.jp/drama-scams/

放送時間

MBS 毎週日曜深夜0:50~1:20

TBS 毎週火曜深夜1:28~1:58(本日、第6話は1:30から放送) 他で放送

Netflix 水曜日に新着エピソードが独占配信。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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