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「トイレのあと手を洗わない人は15.4%」の衝撃 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
お参りの前に手を洗う人は多いのに、トイレ後は手を洗わないんですね(ペイレスイメージズ/アフロ)

トイレのあと、手を洗うーーーこれは常識だと思われていますが、実はそうでもありません。

急いでいる時や「あまり汚れていないだろう」という時などは、トイレの後でも手を洗わない人は実は多いのです。確かに筆者が駅の公衆トイレを利用した時に観察していると、トイレの後は一瞬水で手を濡らすだけの人が多いですね。

そして消費者庁が2000人へ行ったアンケート結果では、

トイレのあと手を洗わない人は15.4%

にも上ることがわかりました。うちわけは以下の通りです。

消費者庁HP 「消費者の手洗い等に関する実態調査について」より引用
消費者庁HP 「消費者の手洗い等に関する実態調査について」より引用

でも、そもそもなぜトイレのあとは手を洗うのでしょうか?そして手を洗わないとどんなことが起こるのでしょうか?

そもそもなぜ手を洗うのか?

ここで一度、根本にかえって「なぜ人は手を洗うのか?」を考えてみましょう。外出から帰ったら手を洗う、食事前に手を洗うなどの習慣は、小さいころから学校や親に習ったと思います。

まず、手を洗う必要性が一般にどう考えられているのかをお示しします。前出のアンケート結果では、手を洗う理由について、多い順に

「汚れを落とすため」「病原体に感染しないため」「食品などを汚さないため」「習慣なので」「化粧などをしやすくするため」・・・

でした。

医学的に考えると、手を洗う理由は「手の汚れを落とす」こと。そしてこの「汚れ」の中には、目に見えない汚れ、つまり細菌やウイルスなどの微生物とよばれるものも含まれます。

そしてなぜ「手」を洗うかというと、手から体の中に微生物が侵入するからなのです。あまり気付かれていませんが、私たちは無意識のうちに手を口にやったり、手でものをつまんで食べたりしています。ですから、手についた微生物は簡単に口から体の中に入ってくるのです。

トイレの後になぜ手を洗う?

そして、トイレ後(=大や小をした後)を考えてみます。トイレ後に手を洗う理由、それはずばり

「手にはウンチやオシッコがついていて、それを洗い流す必要があるから」

です。汚い話ですみませんが、このウンチやオシッコは自分のものとは限りません。前の人のである可能性も十分にあるのです。その前の人のあれこれが、先に述べたように口に入ってきます。これは気分が悪いですね。

気分が悪いだけなら良いのですが、実際にはいろいろな病気がうつる可能性があります。

例えば、もし前にトイレを使った人がノロウイルス感染症にかかり下痢をしていたら、それが手を介して口に入ることであなたもノロウイルス感染症になってしまいます。これは何も私が思いついたストーリーではなく、ちゃんと「糞口感染(ふんこうかんせん)」という名前が付いている、重要な感染経路なのです。

ですから、トイレの後には手を洗わないと病気になってしまう可能性がある。だからトイレの後には手を洗ったほうがいいのですね。洗うときは、せっけんを使い手首まで洗うことをオススメします。ノロウイルスをはじめとした感染性腸炎という病気たちは、とてもつらいですし仕事や学校も休まねばなりません。最近、亡くなる方が出て大変な話題になっているO-157の感染も、先ほどの「糞口感染」でうつることがあるため手洗いは重要な予防の一手になります。

手を洗うデメリットは?

「ちょっと待って、手を洗うデメリットもあるだろ?」というあなた。その疑問にもお答えします。考えられるデメリットは二つ。

・時間がかかる

・手が荒れる

どちらもなかなかバカにできない問題です。

時間がかかるという問題は、実は病院でも問題になっています。看護師や医師はふだん、病院で5人も10人もの患者さんの体を触ったり傷を見たりします。その都度手を洗わなければ細菌が患者さんから患者さんにうつってしまうことがあるので、手洗いはとても重要なのです。

ですが、処置のたびに手を洗うととんでもない時間がかかってしまいます。ただでさえ忙しい看護師さんが、患者さんの病室で処置やケアをし、中央にあるナースステーションに戻って手を洗い、また病室に戻って手を洗い・・・とやっていると、業務は回りません。

そこで、それを解決する方法として「アルコール消毒」があります。これは、WHOのガイドラインで目に見える汚れがなく特殊な感染でない場合にはせっけんでの手洗いに代わって使用して良いとされています。しかしトイレの後はせっけんでの手洗いが推奨されますので、これを一般の人に使うことはできませんね。

残念ながら、時間がかかることはどうしようもありません。長くて1分くらいですから、我慢してやりましょう。

そして手が荒れる点について。

筆者は外科医でして、手術のたびに5分ほど手を洗います。他にも患者さんに処置をするたびに手を洗いますので、1日10回以上は手を洗っているでしょう。そのせいで手が荒れることも多く、冬場の乾燥した時期にはハンドクリームが欠かせません。

手洗いをした後にハンドクリームを塗れば、ある程度の手荒れは防げます。

最後になりましたが、推奨する手洗いの仕方は、

せっけんを使って、爪と指の間を忘れずに、両手を手首まで洗うです。指先は汚れがつきやすく、指の間は洗いづらいところです。また、菌がついた便座やノズル、トイレのドアを触っていますから、片手ではなく必ず両手を洗いましょう。

以上、トイレの後の手洗いについて医師の視点からまとめました。トイレは「お手洗い」という別名もあるくらいです。トイレの後には手を洗いましょう。

(参考)

医療における手指衛生ガイドライン(WHO) 日本語版

消費者庁 消費者の手洗い等に関する実態調査について

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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