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「がん10年生存率 58.2%」をどう解釈するか

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
28種のがんの全ステージの10年相対生存率グラフ

国立がん研究センターは20日、集計したすべてのがんの全臨床病期の10年相対生存率が58.2%だったと発表しました。

これについて解説します。

「すべてのがんの全臨床病期の10年相対生存率」という言葉について

1、「すべてのがん」

「すべて」と言っていますが実際にはすべてのがんではありません。

これは、具体的には28種類のがんを含んでいて、詳細な内訳は下記(※1)しますが、大まかには、消化器、骨や皮膚、女性に特有のもの(乳腺、子宮・卵巣)、男性に特有のもの(前立腺)、腎臓、甲状線などです。血液のがんである白血病などは含まれません。

2、「全臨床病期」

これは、全てのステージの患者さんという意味です。臨床病期とは、ステージと同じ意味で、「どれくらいがんが進行しているか」です。がんの種類によって違いますが、大体がステージ1、2、3、4となっています。1が一番早期で治ることが期待でき、4は他の臓器に転移しているなど最も進行している状態をいいます。このステージの決め方はかなり専門的で、胃がんと大腸がんでも全然違いますし、同じ大腸がんでも日本と欧米では異なりますし、数年に一度決め方が変わります。

3、「10年相対生存率」

簡単に言えば、「がんと診断されてから10年後に、何%の人ががんで亡くならず生きてるか」という数値です。ただの「生存率」としてしまうと、交通事故や老衰などほかの原因での死亡が入ってしまうため、それを調整した数値がこれです。

より専門的には、下記のがんセンターホームページの説明(※2)をお読みください。

4、「58.2%」

さて、この数字。

この数字単体には、特に意味はないと考えて良いでしょう。この中には、30歳で早期の甲状腺がんになった人の10年後の生存率も、60歳で悪性黒色腫(皮膚のがんです)になった人のそれも、90歳で末期の食道がんになった人のそれもすべて一緒にして計算をしているからです。

細かく言えば、5歳から95歳までの、1999 年から 2002 年にがんと診断された35,287人のデータです。

がんというものは、とても生存率の良いものから、極めて悪いものまでかなりはばがあります。ですから、いろんな種類のがんを一つにまとめて計算をしても、「日本という国のがん診療レベル」が推定されるだけで、あまり個人には役立ちません。諸外国との比較、そして国内でのこの数字の変化による治療レベルの変化などが使い道でしょう。

筆者コメント

特記事項としては、この「10年」は1999年から2002年に登録された患者さんが対象です。つまり今から15年前ほどにがんと診断され治療を受けた患者さんの生存率なのです。治療はこの15年でもかなり大きく変わり、生存率は向上しています。筆者の専門である大腸がんでも、抗がん剤の進歩などで生存期間がかなり伸びています。ですから、今がんにかかった方の生存率を推測すると、おそらくかなり向上している可能性があります。

このビッグデータを活用すれば色々なことが読み解けることでしょう。例えばどんながんの生存率が悪く、どこに研究の力を入れなければならないか。また、このがんの生存率はここ30年向上していないがそれはなぜか。などです。

問題点としては、このデータを正しく解釈するのは一部の専門家に限られ、なかなか一般の方が把握しづらいということでしょう。

※1 28種類のがん・・・

口唇・口腔・咽頭、舌、中咽頭、上咽頭、下咽頭、食道、胃、大腸(結腸・直腸)、結腸、直腸、肝、胆のう・胆管、膵臓、咽頭、肺(気管を含む)、骨、悪性黒色腫、皮膚、中皮腫、乳房、子宮、子宮頚部、子宮体部、卵巣、前立腺、腎・尿路(膀胱を除く)、膀胱、甲状腺

※2 相対生存率とは

生存率には、実測生存率と相対生存率があります。実測生存率とは、死因に関係なくすべての死亡を計算に含めた生存率で、この中にはがん以外の死因による死亡も含まれます。がん以外の死因で死亡する可能性に強く影響しうる要因(性、年齢など)が異なる集団で生存率を比較する場合には、がん以外の死因により死亡する確率が異なる影響を補正する必要があります。

性別、年齢分布、診断年が異なる集団において、がん患者の予後を比較するために、がん患者について計測した生存率(実測生存率)を、対象者と同じ性・年齢・分布をもつ日本人の期待生存確率で割ったものを相対生存率といいます。生存率を世界と比較する際も相対生存率が用いられます。

(引用)

タイトル画像;全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2016年01月集計)による

国立がん研究センター プレスリリース

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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