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ドイツ戦の対策は? アメリカに快勝した森保ジャパンに潜む不安材料【アメリカ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:REX/アフロ)

変化が見られた森保監督の采配

 カタールW杯本番までに残された3つの強化試合のうち、最初のアメリカ戦で勝利を飾った森保ジャパン。無失点に抑えたうえ、鎌田の先制ゴール、試合終盤の三笘のダメ押し追加点と、上々の結果を手にすることができた。

 もちろん、主力数名が欠けていたアメリカのチーム状況と、イージーミスが散見された低調ぶりは考慮する必要があるが、6月のチュニジア戦で失いかけた自信は、ひとまず取り戻すことができたと言えるだろう。

 そんななか、この試合では森保監督の采配にいくつかの変化が見られた。

 ひとつは、アジア最終予選のホームのオーストラリア戦から採用し続けた4-3-3ではなく、それ以前に愛用していた4-2-3-1に変更したこと。6月の国内親善試合でも試合途中で4-2-3-1を採用したことはあったが、試合開始時としては12試合ぶりになる。

 また、スタメンのチョイスと起用法にも変化が見られた。この試合では、鎌田を1トップ下に配置して攻撃の中心とした他、これまで右か中央でプレーさせていた久保を左ウイングで起用。さらに、後半開始からCB冨安を初めて右SBでプレーさせている。

 そしてもうひとつは、試合終盤に原口を投入し、布陣を4-2-3-1から5-4-1に変更し、明確に逃げ切りのメッセージを送ったこと。

 これまでも試合途中の布陣変更はあったが、タイトルのかかっていない強化試合でこの類の采配を見せたことを考えると、W杯本番を意識したものと見ていいだろう。試合終了ホイッスルが鳴るまで、常に全力でゴールを目指すというパターンではなかった。

 では、その変化に対して、どのような成果を得られたのか。まだそれについて、評価を下すのは早計だろう。

 確かにこの1試合だけを切り取れば、おおよそポジティブなものだったが、W杯で最も大事な初戦のドイツ戦を想定した場合、今回の試合で手にした成果はほぼゼロにして考える必要があるからだ。

 とくに4-2-3-1を採用した狙いは、注視すべき点だ。これがコスタリカ戦を意識したものなのか、それともドイツ戦やスペイン戦も含め、本番の基本布陣にするつもりなのか。

 これは、次のエクアドル戦を見たうえで判断する必要があるが、仮にドイツ戦で今回の戦い方で臨んだ場合、まったく異なる結果が待ち受けている可能性は高いと思われる。

 たとえば、前から積極的にプレスをかけにいった場合、ドイツは今回のアメリカのようなイージーミスをする可能性は低い。そうなれば、危険なカウンターを受ける確率が高くなり、自然と最終ラインが下がって自陣で守る時間が増えてしまう。

 自陣で守る場合、果たして今回の4-2-3-1とスタメン編成が最適なのか、という問題も生じてくる。また、ボールを回収した後に、どうやって敵陣に前進していくのかという部分でも、今回の試合ではそのような場面がなかったため、まだ見えないままだ。

 つまり、森保監督がこの試合で何を想定して臨んだのか、という点が極めて重要になるのだが、そこは明確に見て取れなかった。少なくとも、ドイツ対策という点においては、次のエクアドル戦を終えるまでは不透明なまま、と言っていい。

 対戦相手がどのチームだとしても、この9月の2試合では、グループリーグ突破の行方を左右するドイツ戦に向けたテストをしておく必要がある。それは、チームとしての守備方法であり、ボールを奪った後の攻撃方法でもある。

 ドイツに対して、今回のアメリカ戦のようなノーマルな戦い方はほぼ通用しないだろう。それどころか、一歩間違えば壊滅的な敗戦をしかねないリスクが生じる。

 残された強化試合は2試合しかない。だとすれば、少なくともエクアドル戦で、何らかのドイツ戦用の戦い方をテストしておく必要があるだろう。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一(HT途中交代)=6.0点

ビルドアップも含めて危なげないプレーを見せていたが、前半途中にハイボールを処理した際、吉田と接触。背中から地面に落下して負傷し、ハーフタイムにベンチに下がった。

【右SB】酒井宏樹(HT途中交代)=5.5点

前半16分のアーリークロスで惜しい場面を演出したが、自身の持ち味である攻撃参加からのクロスはその1本だけ。守備では安定感を見せた。前半のみのプレーで途中交代した。

【右CB】吉田麻也=5.5点

6月のチュニジア戦のミスを払拭しようとしたのか、安全第一のディフェンスに終始した印象。後半36分のシーンでは相手に釣り出され、背後のスペースを突かれてピンチを招いた。

【左CB】冨安健洋=6.5点

半年以上のブランクを感じさせず、背後のスペースに戻る際のスピード、ボックス内でのエアバトルで違いを見せた。後半は代表で初めて右SBでプレー。クロスはゼロだった。

【左SB】中山雄太=6.0点

前半7分に自らのスペースを空けてピンチを招く原因となったが、それ以降は落ち着きを取り戻して無難にプレー。この試合で最もクロスを供給したが、得点につながらなかった。

【右ボランチ】遠藤航=6.0点

守田とボランチコンビを組み、守備的な役割を多く担った。ボール奪取など、守備面では持ち味を発揮して存在感を見せた。攻撃面ではバランスを考えたのか、控えめだった印象。

【左ボランチ】守田英正=6.5点

前半25分の鎌田の先制ゴールをアシストした。その他にも縦パス供給によってチャンスを演出するなど攻撃面で貢献。守備面でも、前に出て相手の攻撃の芽を摘む作業を遂行した。

【右ウイング】伊東純也(68分途中交代)=5.5点

インターセプトによってカウンターの起点となるプレーを何度か見せたが、コントロールミスなどらしくないプレーも散見。クロスも通常より少なかった。後半途中で交代した。

【左ウイング】久保建英(68分途中交代)=6.5点

左ウイングでスタメン出場。攻撃にアクセントを加えるなど、上々のパフォーマンスを見せた。守備面ではデストの攻め上がりにしっかり対応した。後半途中でベンチに下がった。

【トップ下】鎌田大地(86分途中交代)=6.5点

1トップ下で先発。所属クラブでの好調ぶりと自信を見せつけ、前半25分には先制ゴールを決めた。その他に決定的場面が2回はあったので、もう1得点決めていれば完璧だった。

【CF】前田大然(HT途中交代)=5.5点

1トップでスタメン出場を飾り、試合開始からスピードを生かして前線の守備で大きく貢献した。ただ、フィニッシャーとしての仕事が少なすぎて、相手の脅威にはなれなかった。

【GK】シュミット・ダニエル(HT途中出場)=6.0点

後半開始から権田に代わってゴールマウスを守った。ピンチらしいピンチはなく、無難にプレー。58分には高精度のパントキックで久保にパスを届け、チャンスの起点となった。

【DF】伊藤洋輝(HT途中出場)=6.0点

酒井に代わって後半開始から左CBでプレー。冨安が右SBに回った。守備では安定感を見せてCBに適性があることを証明したが、フィードの部分で雑さが目立ち、課題を残した。

【FW】町野修斗(HT途中出場)=5.5点

前田に代わって後半開始から1トップでプレー。7月のE-1の活躍が評価されて抜擢されたが、デュエルに勝てず、トラップミスでロストするなど、持ち味を発揮できなかった。

【MF】堂安律(68分途中出場)=5.5点

伊東に代わって後半途中から右ウイングでプレー。後半76分の好機でシュートを決められなかったのは痛かった。それ以外では攻撃にリズムを与えるなど、及第点の内容だった。

【MF】三笘薫(68分途中出場)=6.5点

久保に代わって後半途中から左ウイングでプレー。失敗を恐れず、何度もドリブル突破を仕掛けたことが最後に実を結び、得意のゾーンからゴールを決めた。一撃必殺だった。

【MF】原口元気(86分途中出場)=採点なし

鎌田に代わって後半途中から3-4-2-1の右ウイングバックでプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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