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ベトナム戦で得たはずの教訓は何処へ? ブラジル戦に潜む懸念材料【パラグアイ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

快勝の要因とそこに潜む未解決な問題

 11月のカタールW杯に向けた強化プロセスの最終段階に突入した森保ジャパンが、6月の4連戦の初戦を迎え、パラグアイ相手に4-1で勝利した。

 ただし、勝利という結果を手にした一方で、W杯本番をイメージした場合、この試合で日本が得た手応え、収穫は多くなかった。

 もちろん、最大の理由は日本の側にあったわけではなく、相手のパラグアイにあった。長距離移動によるコンディション不足、主力の不在、あるいは昨年10月に就任したギジェルモ・バロスケロット監督が、現在は次のW杯に向けて世代交代を含めたチーム作りを始めたばかりというチーム事情もあっただろう。

 しかも、今回の試合でスタメン出場を果たした日本の選手は、W杯メンバーの生き残りをかけた控え組が中心。その意味で、試合に臨むモチベーションを比べた場合、パラグアイの選手と日本の選手の間には大きな差が存在していた。

 そんな中、この試合における両チームの違いとして顕著に表れていたのが、個の力だった。

 今回のパラグアイの選手の中で、ヨーロッパの主要リーグのクラブに所属しているのは、ニューカッスル(イングランド)のアルミロンとバレンシア(スペイン)のアルデレテのみ。ほとんどの選手が自国のクラブでプレーし、それ以外ではアルゼンチン、メキシコ、カナダ(アメリカMLS)、あるいはデンマークのクラブに所属する選手だった。

 それを考えれば、ヨーロッパリーグ優勝を経験したフランクフルトの鎌田やオランダで上位争いをしていたPSVの堂安が、際立ったパフォーマンスで違いを生み出したのも当然だ。この試合が代表デビューとなった伊藤にしても、ブンデスリーガの試合と比べればプレッシャーも緩く、プレーしやすかったに違いない。

 しかしながら、W杯本大会のドイツ戦やスペイン戦では、日本は今回のパラグアイの立場で戦うことを強いられる。そんな格上から勝ち点をもぎ取るためには、個の力で上回る相手に対し、いかにしてチームとして対抗できるかという点が最大のポイント。

 その視点に立てば、この試合で最も注目すべきは、個々のパフォーマンスよりも、日本がチームとしてどのように戦おうとしていたか、という点になる。

 この試合で森保監督が採用した布陣は、アジア最終予選のオーストラリア戦(ホーム)から基本としてきた4-3-3(4-1-4-1)。しかし、アジア最終予選の最終節でベトナムとドローを演じた試合と同じように、4ゴールを奪って勝利したこの試合においても、選手を布陣にあてはめただけという印象は拭えなかった。

 たとえば、ベトナム戦ではアンカーに柴崎、インサイドハーフに原口と旗手の3人で中盤を構成。そこで露呈したのは、レギュラー組の遠藤、守田、田中の3ボランチで中盤を構成する4-3-3とは異なるサッカーになっていたことだった。

 そしてこの試合でも、遠藤以外の2人はボランチを本職としない鎌田と原口がプレー。それにより、ベトナム戦ほどではないにせよ、守備的な4-3-3ではなく、攻撃的な4-3-3に変化し、組織的というよりも、鎌田、堂安、三笘の個の力、アドリブ力によって攻撃を機能させていた。

 相手が前述した格好のパラグアイだったこともあって、今回の4-3-3が機能したように見えたが、相手がドイツやスペインだった場合、攻撃のみならず、それに耐えうるだけの守備力を発揮できたかどうかは大いに疑問が残る。

 要するに、現在の森保ジャパンの課題は、遠藤、守田、田中以外のセットで守備の強度を維持できそうな4-3-3の組み合わせを持ち合わせていないことにある。

 そのことはベトナム戦でも見て取れたにもかかわらず、相変わらず基本布陣に対して起用できる選手をあてはめただけだったのが、パラグアイ戦を終えての印象だ。

 今回のスタメンなら、コスタリカもしくはニュージーランドと対戦するW杯第2戦を見据え、後半途中から採用した4-2-3-1で戦う方が得るものが多かったのではないだろうか。

 選手が違えばサッカーも変わると、わりきってとらえることもできるかもしれないが、しかし布陣の運用方法、その仕組みを定めていれば、これほどの違いは生まれないはず。少なくとも、個の力で上回る相手を苦しめるためにはチーム戦術が極めて重要な要素になるのだから、そのための準備は絶対に欠かせない。

 仮にレギュラー組で挑むブラジル戦で守備が破たんした場合、果たして森保監督は次の一手を持ち合わせているのか。

 遠藤、守田、田中の3人が、必ずしもW杯のグループリーグ3試合で起用できるとは限らない以上、そのための策は用意しておく必要がある。それが、ホームで格下と引き分けたベトナム戦で得た教訓だったはずだ。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】シュミットダニエル=6.0点

2020年11月のメキシコ戦以来のスタメン出場となったが、ビルドアップで持ち味を発揮し、シュートストップも見せた。ただし、本大会用のGK枠3人に残れるかどうかは微妙か。

【右SB】山根視来=6.0点

ミスはあったが、前半から斜めのパスを多用して攻撃に絡むプレーを見せ、後半はオーバーラップからクロスを供給するなど上々の出来。強豪相手にどこまでできるかが注目だ。

【右CB】谷口彰悟=5.5点

失点のシーンでは相手の7番のフェイントに逆をとられ、ゴールを決められた。それ以外のプレーでは大きなミスもなく、落ち着いた守備を見せた。縦パスの供給は少なめだった。

【左CB】吉田麻也(HT途中交代)=5.5点

次の試合に向けて前半だけのプレーでベンチに下がった。ただ、短い時間でのプレーの中で集中力を欠くプレーもあり、いつもと比べると安定感を欠いていたのも確かだった。

【左SB】伊藤洋輝=5.5点

代表初招集ながら、慣れない左SBで代表デビュー。後半からはCBでプレーした。得意のフィードで先制点の起点となったが、後半は失点に直結する痛恨のパスミスを犯した。

【アンカー】遠藤航(HT途中交代)=6.0点

次戦に備えて前半のみのプレーに。鎌田と原口とトリオを組んだこともあり、特に守備面で持ち味を発揮し、的確なカバーリングと激しいデュエルにより相手の攻撃の芽をつんだ。

【右インサイドハーフ】原口元気(61分途中交代)=6.5点

抜群のスルーパスによって浅野の先制ゴールを、後半は三笘のゴールをアシスト。自ら前線に顔を出してシュートを狙うなど攻撃面で冴えわたり、守備でもハードワークを見せた。

【左インサイドハーフ】鎌田大地=7.0点

前半42分にヘッドで追加点を決めた他、終盤には田中のゴールをアシスト。相手のレベルがあったにせよ、試合の随所で個人能力の部分で違いを見せるなど存在感が際立っていた。

【右ウイング】堂安律(71分途中交代)=6.5点

立ち上がりからサイドチェンジと仕掛けを織り交ぜたクリエイティブなプレーを披露。鎌田の得点を演出した他、多くのチャンスに絡んで存在感を示した。PKを失敗した後に交代。

【左ウイング】三笘薫(82分途中交代)=6.5点

前半は持ち前のドリブル突破で、後半はクロスボールからいくつものチャンスを演出した。後半60分には相手ボックス内で迎えた好機を逃さず、冷静にループシュートを決めた。

【CF】浅野拓磨(HT途中交代)=6.0点

前半36分にポストプレーと中央の抜け出しからループで先制ゴール。ただ、それ以外は前線中央エリアで埋もれてしまい、効果的なプレーができず。前半のみの出場で前田と交代。

【DF】板倉滉(HT途中出場)=6.0点

遠藤に代わって後半開始から4-3-3の中盤センターでプレー。CBだけでなく、ボランチでもプレーできることを改めて証明。ただ、まだワンボランチとしては課題が山積する。

【DF】中山雄太(HT途中出場)=6.0点

吉田に代わって後半開始から左サイドバックでプレー。積極的な攻撃参加を見せてクロスも供給したが、守備面では甘さが見えたプレーも散見された。攻撃面では2得点に絡んだ。

【FW】前田大然(HT途中出場)=5.5点

浅野に代わって後半開始から1トップでプレー。前線の単独プレスでチャンスを作り出したが、肝心のゴール前では決定機を逃す場面も。フィニッシュワークの課題は持ち越しに。

【MF】田中碧(61分途中出場)=6.5点

原口に代わって後半途中からダブルボランチの一角でプレー。短い時間ながら2本のミドルシュートを狙い、そのうち1本をネットに突き刺した。守備面でもミスなくプレーした。

【MF】久保建英(71分途中出場)=5.5点

堂安に代わって後半途中から右ウイングでプレー。気合は十分に伝わってきたが、プレーで存在感を示すことができず。この状況が続くようだと、W杯出場も危うくなりそうだ。

【FW】古橋亨梧(82分途中出場)=採点なし

三笘に代わって後半途中から1トップ下でプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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