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また繰り返された! 14ゴールで大勝した試合に潜む森保采配の落とし穴【モンゴル戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

圧勝を手放しで評価できない理由

 日本にとって、カタールW杯アジア2次予選の5試合目となったモンゴル戦。本来ウランバートルで開催される予定だったこの試合は、新型コロナウイルスの影響で日本開催となり、アウェイ扱いの日本が14対0で圧勝した。

 日本ホームで行われた前回の対戦では6-0で日本が勝利していたため、この試合も日本が勝利を収めることは予想できたが、それにしても14ゴールを決めるとは驚きだった。まさしく、モンゴルを完膚なきまでに叩きのめした、と言える。

 おそらくこの試合を見た国民の多くは、3ゴールが決まった後半アディショナルタイムまで楽しめたことだろう。そういう点では、試合のエンタテインメント性は高かった。

 しかしその一方で、この1試合を最終予選、あるいはW杯本大会を見据えたうえで評価する場合、もろ手を挙げて喜ぶことはできない。その視点に立てば、この大勝が本当の意味でチーム強化につながったとは言えないからだ。長年日本代表を応援してきたサポーターであれば、おそらくそういう見方をする人もいるのではないだろうか。

 理由は主に2つある。ひとつはこの日の森保ジャパンが見せた試合の進め方と終え方。そしてもうひとつは、指揮官がセレクトしたスタメン編成だ。

 いつも最後まで全力を尽くすことをモットーとする森保ジャパンの弊害については、これまでも何度か指摘してきた。しかし、残念ながらその日本の悪癖とも言えるその傾向は、今回も繰り返された。

 ある程度リードをした時、自ら試合のリズムを変えて横パスやバックパスを増やし、相手をいなし、敢えて前に出ないサッカーをすることは、決して“手抜き”でも“アンチ・フェアプレー”などではないということを、我々は知っておく必要がある。

 そうやって相手に戦意を失わせることは、確実に勝つための術であり、サッカー強国がよく見せる常套手段でもある。それが、いざという時にしっかりエネルギーを使えるように自らを制御しておく数少ない方法だ。

 試合を自らの手でコントロールすることは、90分間攻め続けることよりも数段レベルが高い作業でもある。だからこそ、こういった試合で訓練しておくことの方が、14ゴールを決めるよりは今後の強化につながると思われる。

 そういう術を身につけなければ、2018年ロシアW杯のベルギー戦のような敗北は、また繰り返されるだろう。

 森保監督がチョイスしたこの試合のスタメンにも、同じようなことが言える。

 すでに予選突破をほぼ確実にしている状況で、敢えてベストメンバーを編成する必要はあったのか。このモンゴル戦も、韓国戦に続いて吉田、冨安、南野、伊東、遠藤、守田、大迫といったヨーロッパ組を、強行スケジュールをおしてまで長時間プレーさせる必要があったのか。

 その目的が14ゴールを奪って勝つためだったとすれば、このモンゴル戦の圧勝の意味も薄れ、最も重要なチーム全体の底上げにも直結しないだろう。

 起用された選手が全力を尽くすことに罪はないし、責めることはできない。それら方向性の決定権は、中長期的な視点をもってチームを強化する立場の森保監督にある。

 少なくとも、賛否両論。世論の半分程度が今回の圧勝をそのようにとらえる環境が、日本サッカーの健全な発展を後押しするはずだ。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=6.0点

モンゴル唯一のシュートも枠外であり、それ以外もほとんどプレー機会がなかった。この試合で自身の代表戦連続クリーンシートを9試合に更新した。

【右SB】松原健=6.5点

代表デビュー戦で持ち味を発揮した。守備機会は少なかったが、攻撃では積極性を見せて南野の先制点をアシスト。39分には自らのクロスが相手に当たり、オウンゴールを誘った。

【右CB】吉田麻也(64分途中交代)=6.5点

冨安とリスクマネジメントを行いながら、高い位置を保って積極的に攻撃に絡んだ。23分には鋭い縦パスを打ち込み大迫のゴールを演出した他、ミドルパスでチャンスも作った。

【左CB】冨安健洋(71分途中交代)=6.5点

吉田とともに安定した守備を行いながら、縦パスやサイドを変えるミドルパスを配給して攻撃の起点となった。前に出て行くディフェンスも安定感があり、ミスなくプレーした。

【左SB】小川諒也=6.5点

韓国戦は出場時間が短かったが、この試合はフル出場を果たした。アシストやゴールはなかったが、立ち上がりから積極的に攻撃参加。多くのクロスを供給してチャンスを作った。

【右ボランチ】守田英正(HT途中交代)=6.5点

運動量も申し分なく、攻守両面でチームに貢献した。的確なタイミングで迫力ある攻撃参加を見せ、33分に伊東のクロスに合わせて4キャップ目で代表初ゴール。前半でお役御免。

【左ボランチ】遠藤航=6.5点

この試合では守田が攻撃に絡むシーンが多かったため、全体のバランスを見ながらプレー。黒子役に徹しながらも、要所で鋭い縦パスも供給した。ボランチの序列トップを堅持。

【右ウイング】伊東純也=7.0点

試合序盤から多くの縦突破とクロス供給を見せ、終わってみれば2ゴール3アシストと大暴れ。試合を重ねるごとに存在感が増しており、現時点では堂安、久保を上回る安定度。

【左ウイング】南野拓実(71分途中交代)=6.5点

相手が自陣ボックス付近に密集する中で難しいプレーを強いられたが、13分に先制ゴールを決めてゴールラッシュの扉を開けた。後半途中に退くまで、縦横無尽に前線を動いた。

【トップ下】鎌田大地(63分途中交代)=7.0点

26分に伊東のクロスに合わせて3点目のゴールをマークし、後半55分には冷静なプレーで大迫のゴールをアシスト。プレーのバリエーションが豊富で、この試合でも存在感は抜群。

【CF】大迫勇也=7.0点

韓国戦ではゴールがなかったが、この試合では23分、55分、後半アディショナルタイムと、ハットトリック達成。実力は折り紙付きゆえ、所属クラブに戻っての活躍が期待される。

【FW】浅野拓磨(HT途中出場)=6.5点

後半開始から守田に代わって出場し、左ウイングおよびFWでプレー。何度かゴールチャンスを逃したが、後半アディショナルタイムにゴールを記録。FWとしての面目を保った。

【MF】稲垣祥(63分途中出場)=7.0点

鎌田に代わって途中出場し、ボランチの一角でプレー。代表デビュー戦にもかかわらず、名古屋での好調ぶりをそのままに、2ゴールをマーク。持ち味のシュート力を発揮した。

【DF】中谷進之介(64分途中出場)=6.0点

吉田に代わって途中出場し、CBの一角でプレーした。相手の攻撃を受けるシーンがなかったため、守備力を発揮できなかったが、代表デビュー戦で落ち着いたプレーを見せた。

【MF】古橋亨梧(71分途中出場)=7.0点

南野に代わって途中出場し、左ウイングでプレーした。短い出場時間の中で、78分と87分にゴールを記録。73分の伊東の1点目のゴールも古橋のシュートから生まれたものだった。

【DF】畠中槙之輔(71分途中出場)=6.0点

冨安に代わって途中出場し、CBの一角でプレーした。守備面ではピンチもなく無難にプレーし、攻撃面ではパス供給でチームに貢献。ただ、2試合で約20分では時間が少なすぎた。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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