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コーチなのか、監督なのか? 試される森保監督の指導能力【トルクメニスタン戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:松尾/アフロスポーツ)

自ら招いた終盤のドタバタ劇に日本の悪癖を見た

 森保監督が就任して以来、初めての国際大会となるアジアカップ2019。日本代表は、その初戦でグループ最弱と目されるトルクメニスタンと対戦し、3-2で辛勝した。

 ワールドカップと違い、現実的に優勝を狙う日本としては、グループリーグ初戦からトップギアで戦う必要はない。ワールドカップで優勝候補に挙がるチームのように、7試合を戦い抜くことを見据えてコンディションのピークを決勝トーナメント以降に合わせながらグループステージを勝ち抜く必要がある。

 そういう意味では、内容は悪くても勝ち点3を獲得できたこのトルクメニスタン戦は、合格点を与えられる試合だったと言えるかもしれない。

 しかし、この試合で見えたいろいろな問題点に目をつむったとしても、どうしても見過ごせない問題がひとつある。それは、本来なら楽に勝てる試合を自ら難しくしてしまい、最後は同点に追いつかれてしまいそうな展開に陥ってしまった終盤のゲーム運びだ。

 1点のビハインドで迎えた後半、日本は前半で浮き彫りになった攻撃の問題点を修正し、サイドチェンジを使いながら主に左からのサイド攻撃で逆転に成功した。さらに後半71分には、決定的とも言えるダメ押しの3点目を奪い、スコアを3-1とした。

 それは、日本の勝利を決定づける1点になるはずだった。とりわけその時間帯のトルクメニスタンは、前半からフルスロットルで戦い続けたことでエネルギーが消耗。3失点目を喫したことで、精神的にも試合を諦めかけ始めていた。

 にもかかわらず、日本はその後もそれまでと同じテンポで、かつ同じ戦い方で“真面目に”攻め続けた。11月のキルギス戦でも露呈した日本の悪癖が、このアジアカップ初戦で再び繰り返されることとなったのである。

 キルギス戦は国内親善試合だったため大きな問題にはならなかったが、真剣勝負の国際大会ではそうはいかなかった。後半78分、自陣でのボールロストから縦パス1本で中央を割られるという失態を犯し、それがPKにつながって1点差に詰め寄られてしまったのだ。

 さらに驚くべきは、1点差に詰め寄られた後も同じことが繰り返されていたことだった。たとえば後半81分、日本のコーナーキックのシーン。1点差に詰め寄られ相手が息を吹き返したにもかかわらず、吉田と槙野はゴール前にポジジョンをとり、危機感のなさを露呈した。

 果たして、柴崎のキックは相手GKがキャッチ。GKのスローイングから、まるでロシアW杯のベルギー戦を彷彿させるようなカウンターを受け、ピンチを招いたのである。相手のレベルの違いもあり、この場面は長友がファールを受けて救われたが、同点に追いつかれてもおかしくない紙一重のシーンだったことは一目瞭然だ。

 日本はその1分後のコーナーキックでも無防備に吉田と槙野がゴール前にポジションをとるなど、相変わらずゲームをコントロールして相手の戦意を喪失させること、ゲームを確実に終わらせることができないことを改めて露呈してしまった。

 防戦一方となったアディショナルタイムに見せたバタバタの戦いぶりは、自業自得と言われても仕方がないだろう。

 また、それに拍車をかけたのが森保監督の采配だった。この試合で使った交代カードはたったの1枚。南野に代わって投入された北川は、3点目のゴールが生まれる前に準備されていたので、3-1となった後の展開の中で切られたカードはゼロということになる。

 終盤のコーナーキック時にベンチから的確な指示ができなかったことも含めて、森保監督にも試合を終わらせる戦い方ができないことが証明された格好だ。

 おそらく森保監督は予めグループステージで選手をローテーションさせて戦い、ラウンド16以降に備えようと考えているのだろうが、この終盤の危険な展開の中で何も動けなかったことは不安材料でしかない。

 過去5試合の国内親善試合で一度も戦術的交代を見せなかった代償は、今後の戦いの中で必ず払わされるときがくるだろう。

 一発勝負の決勝トーナメントで勝敗を分けるのは、勝っている時のゲームコントロールと、負けている時の監督の戦術的交代策だ。トルクメニスタン戦で見えた戦い方の修正は練習の中で出来るかもしれないが、この2つの要素を大会期間中に修正することは簡単ではない。

 コーチなのか、監督なのか。森保監督の指導能力の軸がどちらにあるのか、このアジアカップで見えてきそうだ。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=5.0点

チームを救うファインセーブもあったが、その一方でCK時の対応ミス、1失点目の準備不足、2失点目につながるPKを与えたプレーなど、不安定かつ決定的なミスが多かった。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

前半はイージーミスが目立っていたが、後半に落ち着きを取り戻した。ただ、得意のクロスボールを1本も入れられなかったのはマイナス材料。トップフォームとはほど遠い内容。

【右CB】吉田麻也=5.0点

危険地帯でのボールロストや縦パスを引っかけるシーンが目立った。槙野との連携も悪く、攻守にわたって不安定だった。チーム全体を統率するキャプテンとしても物足りなかった。

【左CB】槙野智章=5.0点

集中力欠如か、2失点目のシーンではポジショニングを誤った。他にも中央を割られるシーンがあり、吉田とともにカウンターに対する備えが不足していた。スタメンに黄色信号。

【左SB】長友佑都=6.5点

大迫の2ゴール目をアシスト。前半からタイミングの良い攻め上がりでクロスを入れて多くのチャンスを作った他、後半はインナーラップが際立ち、守備も終始安定していた。

【右ボランチ】冨安健洋=5.5点

本職たちの体調不良で急きょボランチで出場。安全な選択をして守備意識も高かったが、ポジショニングは改善の余地あり。後半は攻撃面が目立ったが、ボランチ起用は厳しそう。

【左ボランチ】柴崎岳=5.5点

序盤から攻撃のスイッチを入れる縦パスを積極的に供給するも、成功率は高くなかった。守備面では冨安との連携で問題があり、1失点目のシーンのポジショニングはその典型例。

【右ウイング】堂安律=6.5点

いつもよりボールロストが目立ったが、前半から積極的にボールを受けて攻撃を活性化させ、後半はサイドチェンジやクロスを使って前半より幅を作り、自らゴールも奪った。

【トップ下】南野拓実(72分途中交代)=5.5点

前半は密集地帯に埋もれて攻撃にほとんど絡めず、ミスコントロールも目立った。後半は積極的にシュートを狙いにいくも精度を欠き、後半途中で北川と代わってベンチに退いた。

【左ウイング】原口元気=6.5点

精力的に動き回って攻守に貢献。前半は内側で長友の引き立て役に徹したが、外に開くことが多かった後半は攻撃の起点となってチャンスを構築。大迫の1点目をアシストした。

【CF】大迫勇也=7.0点

2ゴールを決め、文句無しのマンオブザマッチ。ピッチ状態が原因か、負傷明けの影響か、いつものようにボールを収めることができなかったが、勝負強さを見せてそれをカバー。

【FW】北川航也(72分途中出場)=5.0点

南野に代わって途中出場するも、直後にボールロストからPKによる2失点目を誘発。加点目的なのか、守備面での貢献を期待しての投入なのか、監督の采配も中途半端だった。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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