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【菅原由勢】 プレッシャーを感じながら練習と試合に勤しむ日々

中田徹サッカーライター
FW ボアドゥがハットトリックを完成させ、AZに喜びの輪ができた 【中田徹】

 AZは2月28日、フェイエノールトを4対2で下した。これでAZはリーグ戦4連勝。この日、2位PSVが首位アヤックスと引き分けたため、3位AZはPSVとの差を勝ち点2まで詰めた。

 AZの右サイドバック、菅原由勢はフェイエノールト戦後、「PSVの背中がしっかり見えてきたというのが一番大きい。アヤックスより、一番近くにいるPSVを意識してプレーすることが大事」と語った。

■フェイエノールトに狙われた菅原

「フェイエノールトは自分をハメに来ている」。開始早々、菅原はそう悟った。

「僕のことをあえてフリーにする――。それが、多分フェイエノールトの作戦だった。フェイエノールトは僕のプレーを分析して、右足の前にボールを置く癖もわかっていたんだと思います。最初の2、3回、ボールを持ったときに『あ、これは俺、ハメられに来てるな』というのを感じました」

 9分には相手陣内に入ってすぐのところで菅原がボールを持った瞬間、フェイエノールトの選手2人に挟まれロスト。菅原は即座にボールを回収しようとスライディングタックルを仕掛けたが、それが相手選手の足首に入ってしまいイエローカードを受けた。

「僕にアイデアを与えないというのが、フェイエノールトのやり方でした。僕にスペースがあるということは、相手のディフェンスは僕に来てないということなんですよ。つまり相手にとって一番危ないところとか、スペースは消されているわけで、僕がボールを持ったときにできることって限られていたんです。

 僕は縦にドリブルするか、バックパスするか、それともボールを動かしながら中のコースを探るかぐらいしかできませんでした。

 そのことに15分ぐらいで感じたので、僕は外に張るのを止めて、中にポジションをとるようにしました」

■スベンソンとの競争が再び始まる

 位置取りの変更は、ベンチからの指示ではなく、菅原自身の判断によって決めたという。「相手がこうしたら、うちのチームはこうするという変化が試合の中である中で、対応することができた」と菅原は振り返った。

 だが、早い時間帯で警告をもらったことによって、菅原の守備に制限がかかってしまった。まだ2対2のイーブンだった58分、菅原はベンチに下げられ、代わりに怪我から復帰したばかりのスベンソンがピッチに入った。

「僕が(2枚めのイエローカードを受ける)リスクを回避しながら残り30分プレーし続けるより良かったと思います。僕が監督だったとしても代えたでしょう」

 スベンソンの復帰によって、本格的なポジション争いが改めて始まる。実は、フェイエノールト戦前の全国紙は“スベンソン先発”を予想していた。オランダのメディアから見たら、菅原よりスベンソンの方がヒエラルキーは上なのだろう。

「ヨナス(スベンソン)選手が帰ってきて、競争がまた始まるので気は抜けないです。本当にこれから1試合1試合、練習でのワンプレーがキーになってくるので、新しい緊張感が生まれます。僕自身楽しみであるし、成長できると思います」

 もちろん、そう簡単にレギュラーの座を明け渡すつもりはない。昨年12月6日のフローニンゲン戦で、菅原が先発で出始めたとき、AZは6位だった。菅原が15試合連続でスタメンとして試合に出続けた間に、AZは一気に3位まで浮上した。

「正直、僕が出始めてからチームの順位は確実に上がった。PSVにも勝ったり、今日もフェイエノールトに勝ったりして、エメン戦(1対0)では僕がゴールを決めました。その間、AZは勝ち点を積み重ね、3位から2位を狙える位置に来ているのは確か。だから、チームに還元できていると、僕自身は思ってます。ともかく、ここからですね」

■「発する言葉で自分が成長していることを感じます」

 オランダに来て2シーズン目。最初のシーズンは「アヤックスが相手だろうと、PSVが相手だろうと、フェイエノールトが相手だろうと“普通の試合”と思ってプレーしてました」という菅原だが、経験を重ねるにつれて日々、プレッシャーを感じるようになったという。

「俺、1年目は『プレッシャーなんて、あんまり無いっすよ』って言ってたんです。でも、2年目になって自分のチーム内での立ち位置もハッキリしてきて、試合に出ていても『なにかヘマをこいたら代えられる』というプレッシャーがあるし、チームが勝ち続けないとCL、ELの出場権もとれない。今日の試合相手(フェイエノールト)もAZの監督・コーチのいろいろなゴタゴタ【※】があって“負けられない相手”と感じるようになってきた。

 同世代の選手が日本で頑張っている。日本代表に向けてポジション争いもある。いろんなプレッシャーがあります。

 でも、そういうのを感じられる立場に来たことが、大事なことです。前みたいにプレッシャーをあんまり感じず、ノホホンとやるのも良かったと思いますが、今みたいにいろいろ考える立場に来たことが、一つ成長したことですし、自分自身に自覚が芽生えてきたことだと思います。

 去年と言ってることが違っているので、それがまた面白いですね。発する言葉で、自分は変わっていることがわかります。しっかり、これを続けていきたいですね」

【※】フェイエノールトとAZのゴタゴタ

 現在のAZを形作ったアルネ・スロット前監督が水面下でフェイエノールトと接触し、来季の監督就任交渉を始めた。ライバルクラブとの交渉を事前に告げなかったことに、AZ首脳陣は憤慨し、昨年12月5日、スロット前監督を更迭した。

 1月下旬には、来季からフェイエノールトでコーチをすることが決まったマリノ・プシッチを解雇。右サイドバックのスベンソンにもフェイエノールトが触手を伸ばすという報道もあり、両クラブの間に緊張が生まれていた。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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