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アヤックスの名手相手に健闘した菅原由勢「試合に出て初めて見ることのできる景色がある」

中田徹サッカーライター
AZのホーム、AFASスタジアムは屋根修復工事中 【中田徹】

 オランダリーグのトップ4を形成するアヤックス、フェイエノールト、PSV、AZの直接対決が6試合も組まれた1月は『スーパー・ジャヌアリー』と銘打たれ、大いに盛り上がった。

 1月13日のPSV戦を3対1、24日のフェイエノールト戦を3対2で勝利したAZは多くの期待を集めて31日のアヤックス戦に臨んだが、0対3という完敗を喫してしまった。

 AZの右サイドバックを務める菅原は、アヤックス戦後、「個人の差は別に感じなかった。でも、したたかに戦ったのがアヤックスだった。AZにもチャンスはあったが、決めるところを決めたのはアヤックスの方だった」と心底悔しそうに語った。

 それでも左利きの名手、タディッチとの一対一の勝負に話題を変えると「バチバチやり合いましたね」と言って一瞬、頬が緩んだ。

 10日前のKNVBカップ(アヤックスが1対0で勝利)でも菅原はタディッチをマークした。お互い交代出場だったということもあってマッチアップは10分あまりに終わったが、菅原の果敢なチャージをタディッチがするっとかわしたシーンは強烈だった

 舞台をリーグ戦に移した今回、菅原はタディッチに対して距離を詰めるのか。それとも、距離をとるのか――。菅原の出した答えは前者だった。

 タディッチは、ディフェンダーの体を使ってターンしたり、ドリブルしたりするのが得意な選手だ。菅原も前回、そのパターンでやられている。それでも今回、菅原がタディッチに自分の体をぶつけながら近接マークで勝負を挑んだのはなぜだろうか?

「正直、迷ってたんですよ。最初は、ちょっとスペースを空けて守ろうと思ったんです。でも、いろいろな映像でタディッチ選手がターンするシーンを見ていたら、多くのDFが腰高で対峙していたんです。一方、タディッチ選手は腰を低くしてボールをキープするタイプです。だから、僕はタディッチ選手に対して腰の高さを同じにするか、もっと低くすることにしました。

 タディッチ選手がボールを持っている時に正面から当たったら、相手の土俵で戦うことになるので、いかに自分に有利な態勢で対応するか、工夫して体をぶつけました。

 例えば、彼がターンしそうなときにはあえて自分の足を残したり、ボールを運びそうなところに先に足を出したり、ロングボールの際には最初から体をぶつけておいたり、ちょっとした駆け引きの中で腕を使ったり、いろいろな抑え方を考えて、ボールが来る前から駆け引きして対応しました。

 時間をかけて研究した甲斐もあって、あまり彼に自由を与えなかったと思います。個人のマッチアップの部分は手応えが残りました」

 タディッチに対する極度の集中力の高さは、2人の190cmの長身選手、MFフラーフェンベルフやFWアレールと対峙したときにも生かされ、菅原はアレールに体を密着させてボールを奪っていた。

「僕の課題は守備にあります。日本代表でも、対人のところで強く行くところを求められてます。

 今、こうしてAZで試合に出させてもらってますが、守備の面ですごくトライできていて、自分としてもいい感触を得られてます。試合を重ねるごとに対人守備やポジショニングがよくなってきているのを実感しているんです。今日はオランダの最高のチーム、アヤックス相手に、タディッチ選手に限らず激しく守備をしようと思ってました。いろんな守り方が出来て楽しかったです」

 チームの失点シーンから学ぶこともある。

 アントニーが決めたアヤックスの先制弾は、左SBブリント(つまり、菅原のサイド)のパスが起点になって生まれた。このとき、菅原は中でタディッチをマークしていたため動けなかった。そこで、味方にコーチングの声をかけたが反応がなく、ブリントがフリーになってしまった。

 2失点目はタディッチのアーリークロスを、MFクラーセンがボレーで決めたものだった。

「自分の指示に味方が従ってくれなくても、守りようはあったと思うんです」

「あそこでもう少し自分がプレスをかけていれば」

 アヤックス戦の振り返りが一段落すると「試合に出ることによって初めて見える景色があるんです」と菅原は言った。彼は今、次のフェーズへ進もうとしている。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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