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【菅原由勢】 ピッチに響き渡る「ユキ!」の叫び

中田徹サッカーライター
ナポリFWインシーニェと競り合う菅原由勢 (撮影は10月に行われた第1レグ)(写真:ロイター/アフロ)

■「ナポリ戦の菅原はAZでの最高のプレーだった」(全国紙記者)

 12月3日のナポリ戦(ヨーロッパリーグ。1対1)で右サイドバックとしてフル出場した菅原由勢は、オランダ全国紙のAZ番記者が「ナポリ戦のユキ(菅原の愛称)は、AZに入団してからベストのプレーだった」と唸るほどの出色のパフォーマンスだった。

 菅原が対峙したのはイタリア代表のインシーニェだった。この難敵を相手に、菅原は冷静さを保ちつつ、アグレッシブかつ粘り強く対応した。ボール保持時には、相手のプレスを落ち着いて剥がしたり、味方とのショートコンビネーションで局面を打開したり、遠くでフリーになっているMFやFWに正確なフィードを送っていた。

■「ユキ!」に込められたチームメートのメッセージ

 菅原の愛称は由勢(ゆきなり)を短くしたユキだ。AZの試合を見ていると、チームメートが盛んに「ユキ!」「ユキ!」「ユキ!」と菅原に指示を送ったり、もり立てたりしているのが聞こえてくる。

 12月7日のフローニンゲン戦(オランダリーグ。1対2でAZの負け)では、チームメートが英語でこう叫んでいるのが、観客席まで届いてきた。

「ユキ、ショート(相手との間合いを詰めろ!)」

「ユキ、ゴー!(そこ、行け!)」

「ユキ、ハイアー(もっとポジションを高く取れ!)」

「ユキ、クロース(間合いを詰めてくれ!)」

 圧倒的に多いのは、ただ単に「ユキ!」と名前だけを呼ぶことだ。その「ユキ!」という味方からの掛け声に、どれだけの意味が含まれているのだろうか。私はフローニンゲン戦の状況を見ながらメモをとってみた。

・スペースがあるぞ

・(GKから)これからお前にパスを出すぞ

・もうちょっと(2mほど?)ポジションを移してくれ

・ここは走りながらラインを上げてくれ

・後ろの味方にパスを戻してもいいぞ

・俺にクロスを入れろ!

・気を緩めるな

 まだまだ他にも意味があるはずだ。

■「AZにないものを、僕は出していきたい」(菅原)

 フローニンゲン戦を終えた菅原に「テレビで試合を見ていても、観客席から見ていても、ともかくAZの選手は『ユキ!』と声を出してますね」と尋ねてみると「確かにそうですね」と応えた。そして、菅原が「ユキ!」の叫びを第一に「俺にパスを出せ」と捉えていることが分かった。

「僕には右サイドからビルドアップを組み立てられるという自信があります。ナポリ戦も含めて、僕のところから攻撃を作れてます。みんなが、僕がパスを出せるということを知ってくれて、自分のことを呼んでくれているので、僕としても(パスの)選択肢が増えますし、(フリーの受け手を)気付かせてくれるので非常にありがたいです。こういう要求は、信頼のある証拠だと捉えてます」

 菅原は「ユキ!」という掛け声をフェイントに使うこともある。例えば「バックパスを出せ」という意味合いを帯びた「ユキ!」に反して、菅原がダイレクトパスで縦にフォードを通したシーンがあった。「ラインを上げろ」という「ユキ!」のときに、菅原がダッシュでキーパーに寄ってフリーでボールを貰い、そこからビルドアップを始めることもあった。

「僕は『チームにないものを試合で出したい』と思ってます。チームには“こうなったら、こうもっていく”という癖があると思う。そこの風向きを自分が変えることも、僕の役割かなと思います。ちょっと視点を変えてみたりとか、ロングボールが増えているときに一本ショートパスを入れたりすることを意識してやろうとしてます。そこの意図を感じてくれればありがたいのですが、まだまだ、そこはちょっと難しいところがありますね」

 今季の菅原は必ずしも出場機会に恵まれているとは言えない。そんな菅原に具体的なコーチングをするだけでなく支えて、助けて、気合を入れて、盛り上げているのが、チームメートの「ユキ!」という叫びなのだろう。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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