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ラブストーリーでも「密」回避  欧州音楽界が模索する新しい公演の形

中東生Global Press会員ジャーナリスト、コーディネーター
ハンブルグ州立歌劇場《マノン》Brinkhoff/Mögenburg

新型コロナウイルスの流行が、観光産業や外食業界に大打撃を与えたのは周知の事実だ。日本でもGoTo トラベル 、Go To Eatといった政策に表れている。しかし、芸術はやはり後回しだ。

そんな中、秋からの第二波により再びロックダウンとなった欧州の音楽界では、無観客公演のストリーミング配信を軸に、今シーズンのプログラムを立て直している。

各国のオーケストラ団体や歌劇場は、無観客公演のライヴ配信を看板にし、その映像をオンデマンドに移したり、別のプラットフォームと提携して、一定期間配信し続けたりしている。その他、過去の映像も公開しており、見逃した観客には嬉しい企画だ。もちろん、遠隔地の公演を自宅で観られるのだから、コロナ禍がもたらした副産物だ。

「密」を避けても愛が描ける!〜 新しい演出の形

折角の生き残り企画なので、公開期間の長いものはシェアしていきたい。冒頭の写真はドイツ・ハンブルグ州立歌劇場で1月24日に無観客で初日を迎えたマスネ作曲《マノン》だ。ライヴ配信された後に2日間限定のオンデマンドで公開されたが、それが好評を得て、インターナショナルプラットフォームOperaVisionで、2月12日CET(中部欧州標準時)19時から1ヶ月間公開されることになった。

主人公のマノンはファム・ファタール(魔性の女)に数えられることが多いが、David Böschの演出は、どこにでもいる現代っ子が堕ちる可能性のある世界を描いているため、誰でも楽しめるのではないか。そしてそのヒロインは自然体な現代っ子のElsa Dreisigが演じるからこそ等身大で迫ってくる。相手役のIoan Hoteaや従兄役のBjörn Bürgerも好演し、Sébastien Rouland率いるオーケストラも機知に富んでいる。

特筆すべきは、ラブストーリーなのに「密」を避ける工夫を凝らした演出を徹底していることだ。そしてプロジェクターの使い方も、確かに映像で見られることを意識したあしらい方だ。これからの演出家には、映像作家の素養と、体を触れ合わなくても感情を表現できる「演技の引き出し」の多さが求められるだろう。

ロックダウンとの共存 技術やアイディアを支える支援が必要

演出のつかない合唱曲では、イタリア・カリアリで1月23日に無観客で演奏されたモーツァルトのレクイエムが圧巻の予防対策を施していた。ソリストはもちろん合唱団員まで、一人一人をアクリル板で囲ったのだ。音楽的に上手く混ざり合うことが困難だったそうだが、それでも共に演奏できる歓びの方が大きいのだ。

このロックダウンは最低、4月5日の復活祭まで続くと見られる。それまではストリーミングに頼らなければならないため、これからも技術やアイディアが進化していくだろう。そこでいちばん重要なのは、そういう発展を支えるには、国の予算や企業等の支援が必要であり、そこを切り捨てると、ウイルスに勝ったとしても感動のない人生になってしまうかもしれないということだ。

Global Press会員ジャーナリスト、コーディネーター

東京芸術大学卒業後、ロータリー奨学生として渡欧。ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイスオペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手の資格を取得。その後、声域の変化によりオペラ歌手廃業。女性誌編集部に10年間関わった経験を生かし、環境政策に関する記事の伊文和訳、独文和訳を月刊誌に2年間掲載しながらジャーナリズムを学ぶ。現在は音楽専門誌、HP、コンサートプログラム、CDブックレット等に専門分野での記事を書くとともに、ロータリー財団の主旨である「民間親善大使」として日欧を結ぶ数々のプロジェクトに携わりながら、文化、社会問題に関わる情報発信を続けている。

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