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がんステージ4の緩和ケア医、凄絶な副作用体験「病院で死ぬということ」山崎章郎さんとの再会①

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
山崎章郎さん(2022年6月、東京都小平市内で なかのかおり撮影)

 筆者が新聞記者だった2000年、福島県内版の正月企画で、終末期医療を通して生を見つめる連載を担当した。その際に、東京都の桜町病院ホスピスを訪ね、福島県出身の緩和ケア医・山崎章郎さんにインタビュー。以来、様々な機会に取材し、各地の学会等でお会いすることもあった。

 山崎さんは2005年、東京都小平市で、訪問看護ステーション・デイサービスや賃貸住宅を備えた、人生の最期まで支えるコミュニティ「ケアタウン小平」を仲間と始め、地域の在宅医療に当たっている。

 筆者はその後、高齢出産して子育てと仕事との両立に向き合い、終末期の取材から遠ざかっていた。だがコロナ禍に、子育て家庭や病を抱える人、様々な立場の人がそれぞれの孤立や辛さに直面した。死生観や看取りも変わり、同じ痛みを持つ人同士、分断した現状を見直すきっかけになるのではと感じている。2021年末には父を亡くし、人生のしまい方がより身近になった。

 2022年の初夏、ずっと気になっていた、ケアタウン小平で続く親子イベントに参加して取材した。その際に、実は山崎さんが大腸がんになってステージ4であり、「がん共存療法」を模索していると知った。

 しばらくぶりに山崎さんと再会し、インタビューした。山崎さんの人生やケアタウンのこと、患者としての体験、最後のライフワークについてお伝えしていきたい。

○「大腸がんかもしれない」

【がんは、どういうきっかけで気づいたのでしょうか】

【山崎さん】

 おなかがよく鳴ったの。ぐるぐると。2018年の夏ごろからお腹の調子が変で、一時的なものだろうと思っていたんですよ。最初は大したことなかったのだけど、だんだんと症状が強くなっていたから、私も元外科医だし、これは大腸がんだろうと思って、9月に医師会の先生に相談して「大腸がんかもしれないので、ちょっと内視鏡検査をしてくれませんか」と。

 受診したら、見事ながんだったのがわかって。大腸にしこり、かたまりができていますから、当然大きくなれば出血するし、便通障害も出ますよね。やはり排便問題は大きな課題なんですよ、人間にとって。そういうことに苦しむ患者さんがいっぱいいると知っていたし、排便の問題で苦しむのは嫌だなと思いました。

 手術しかない。すぐに手術しようと思って、知っている病院に相談して。9月にわかって、手術したのは11月始めだったんですよね。私を診てくれた先生は、「もうちょっと早めに手術しましょう」と言ってくれたけれど、講演とかいろいろと予定があって、これが終わらなきゃできないなと思って…というのがいきさつです。

○腹腔鏡手術、6日で退院

【手術はうまくいったんですね】

【山崎さん】

 その時は転移がなかったんですよ。腹腔鏡手術でした。術前に調べて、転移がない状態で、大腸がんと、周りのリンパ腺がちょっとはれているかもしれませんね…程度だったんで、「開腹しないで腹腔鏡手術で行きましょう」って感じです。

 比較的、手術は順調に終わったんです。手術したのが月曜日で、土曜日に退院しました。6日です。医師は「1週間いてください」と言ったけれど、もう平気だったから。「大丈夫だから帰ります」と帰らせてもらって。

 それまで、病気は、ほとんどしたことがないよね。全然支障もなくて、翌週の火曜日から普通の仕事に入っているから、手術して10日も休まなかったということ。それでも、そこからですよ。医師から、「念のために。再発予防で抗がん剤をやりましょう」と言われて、うーんと思ったんだけれど。

 でもすごくいい先生で…いい先生だと弱いよね。断ったら悪いんじゃないか、と思って。それに、緩和ケア医として、多くのがん患者さんの闘病経過を聞いていたので、自分も同じような経験をするべきではないかとも思ったんですね。

 自分の中でも、「取り切れたし、予防的というのは確かに」と思いました。広がってしまったものに対しての治療がむずかしいことはわかっている。医師にも「やりましょう」と言われ、その時は素直に「はい、やります」と言って。頭の中では副作用のことは気になっていたけれど、副作用が出たとしても、「この際、経験してみようかな」と。そう思って経験してみたら、とんでもなく辛かった。

○とんでもなく辛い副作用

【抗がん剤の治療は、どうだったのですか】

【山崎さん】

 とんでもなく、辛い副作用が出ました。人によってでしょうけど、副作用の程度の軽い人もいるはずなんだけど、私の場合は、うまくいかなかったんですね。

 ゼローダという、大腸がんで一番よく使われる抗がん剤の飲み薬です。副作用は、教科書にのっている。その教科書通りに出た。吐き気、下痢、食欲不振、その辺は覚悟していましたが、一番ひどかったのは、手足です。手のひらのすじが割れてきちゃう。

 手足症候群といって、抗がん剤は細胞の分裂増殖をたたくから、がん細胞だけでなくて正常細胞もたたくわけで。皮膚って新陳代謝が激しいから、それが阻害される。当然、痛いし出血するし、ばんそうこうを貼り付けて、内側だから見えないようにして仕事していました。

 最初は、指の色が変わり、黒ずんでくる。周りの人は、見ただけで変だなと思うよね。そのうちだんだんと、手のひらがひび割れてきて、痛いなと思って薬を塗る。予測されていたから、保湿剤が出てね、塗っているんだけど、だんだん割れて血が出てきて、ペットボトルのキャップを開けるのも大変になってきて、訪問診療だから、運転してハンドルを握るのも痛い。

 お小水だって近くなっていたから、必ず仕事に行く前にはトイレに行って、危ないなと思ったらコンビニのトイレに寄って。副作用で、下痢もしやすくなって。年のせいかもしれないけれど…。

○抗がん剤を休んだら体調が回復した

 ひび割れが足の裏にも出てきて、歩くのも大変で。全部で8クールの予定だったんですよ。ゼローダは2週間服用して1週間休んで、8回でちょうど半年。1クール目は、何も症状が出なかった。「たいしたことないな」と、甘く見ていたら、2クール目から「あれ、やっぱり気持ち悪いな」とか、下痢しやすくなったりして。

 そのうちだんだんと指の色が黒くなって、広がってきて。3クール終わって4クール目で、仕事ができなくなって、「抗がん剤を休みたい」と医師に言って1回分、1か月休みました。すると、もとに戻って来た。だから、明らかに副作用だとわかったんです。

 そこで「薬の量を減らして、残りのあと3か月をがんばろう」みたいになり、がんばったんだよね。また副作用が出てきたんだけど、先が見えていたから、頑張っちゃえと思って。頑張って、これで無罪放免だろうと思っていたところ…。

○「無罪放免」願うも、両肺に転移

【抗がん剤が終わった後に検査したんですね】

【山崎さん】

 当然、効果を評価しなくちゃいけない。医師に、「抗がん剤は、効果がありませんでした」と言われて、「両方の肺に転移があります」と知らされたんです。

 医師も多分、再発・転移は予測していなかったと思う。「とにかく8クールやりましょう」と。私の場合は1回休んで合計7クールやって、2019年の5月に検査しました。混んでいる病院だったから、検査の2週間後に行くと、申し訳なさそうに「残念ですけど」と言われたんです。

 肺に転移があるので、ステージ4の大腸がん患者になった。ステージ4の大腸がんに対する抗がん剤の目的は、治すことではなく数か月から数年の延命なので、あのつらい副作用を経験してしまうと、抗がん剤は、もういいかなと。副作用が全くなかったら、ひょっとしたら、次の抗がん剤治療を選んでいたかもしれないんだけどね。

(つづく)

【筆者の関連記事】→講談社コクリコ ベストセラー『病院で死ぬということ』の医師が子育ても支援する理由とは?

やまざき・ふみお 1947年生まれ、福島県出身。緩和ケア医。75年千葉大学医学部卒業、同大学病院第一外科、国保八日市場(現・匝瑳)市民病院消化器科医長を経て91年聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科部長。

2005年、在宅診療専門診療所(現・在宅療養支援診療所)ケアタウン小平クリニックを開設し、訪問診療に従事。認定NPO法人コミュニティケアリンク東京・理事長。2022年6月からは、医療法人社団悠翔会が継承した同クリニックの名誉院長で、非常勤医師として週1回ほど訪問診療している。著書に『病院で死ぬということ』『「在宅ホスピス」という仕組み』など。

「がん共存療法」は、山崎さんが試行錯誤しながら進めている。この秋から、準備室を開設し被験者(患者さん)を募って臨床試験を行い、エビデンスを集める予定。詳しくは『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮社)で。

※この記事は、何かの治療や選択を批判したり推奨したりするものではありません。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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