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学校生活は制限、スマホで夜更かし…コロナ禍の子どもに必要なサポートは

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

2020年春、新型コロナウイルス拡大の影響で学校が突然、休校になり、子育て家庭は大きな衝撃を受けた。そうしたコロナ禍の子どもの暮らしについて、当事者として取材・研究する中で、子どもの食と学習を支え、寄り添う大人がいることの大切さを痛感している。

日本財団は、多様な困難を抱える子どもたちが安心して過ごせて、自立し生きていく力を育む「子ども第三の居場所」(外部リンク)プロジェクトを進めている。困難を抱えた保護者や子どもたちを支えるコミュニティを目指し、全国500カ所の拠点整備に取り組む。

今回は、関西のA拠点を取材した。後編では、2020年の休校中に子どもたちがどのように過ごしたか、コロナ禍の課題について紹介する。

 前編で紹介したように、子どもや保護者一人ひとりと関わるスタッフの気配りや努力は、大変なものだ。現在は、制約がありながらも日常を送れているそうだが、2020年の休校時について、スタッフの佐藤さん(仮名)はこう振り返る。

 「2020年、休校を知らされた時は、予防的に必要なことだと受け止めました。卒業式がなくなった6年生は、残念だったでしょうが…。拠点は閉鎖せず、手洗い・うがいの徹底をし、春休みが早めに来た感覚で、午後から受け入れていました。

 4月は、上限を5人ぐらいまでにして、希望を聞いて三交代にしていました。給食がなくなることで、十分に栄養が取れないのではということも心配でした。昼ごはんをきちんと取れる子は、午後の時間帯に。朝、起きるのが苦手な子もいるので、時間を工夫して決めました」

寄付のお弁当、自宅に届けて関係づくり

 休校中は食の問題が大きく、各地の子ども食堂や企業がお弁当を提供していた。その現場をいくつか取材して、単なる食事の提供ではなく、つながりづくりの側面も大きいと感じた。

 A拠点でも、食事の支援を通して、保護者との関係をつくったという。

 「拠点では、配食サービスを利用する他、Uber Eatsからの寄付もありました。お弁当を持ってきてもらい、子どもたちが持ち帰るか、拠点で食べました。4月から2カ月ほどいただきました。おうちでご飯を食べるけれど、菓子パンだけとか、お母さんはいない、という子もいて、自宅に寄付されたお弁当を届けました。保護者が申し訳ない気持ちにならないように、伝え方を工夫しました。

 近くの子ども食堂からもお弁当をいただき、市からは、飲食店を救済する意味も含め、お弁当の引き換えクーポンが出ました。自分たちは大丈夫、といって受け取りたがらない家庭には、子ども食堂などにつなぎました」(佐藤さん)

学習のサポート、どこまで?

 学習をどうするかも、非常時の大きな悩みだ。

 2020年の休校時は、学校とのつながりがほとんどないまま時間が過ぎ、保護者からオンライン教育を求める声が高まった。プリント・ドリル学習への取り組みも、家庭により差が大きかった。拠点でも、学習サポートを模索したという。

 「休校中は、お母さんが忙しくて、宿題を見きれなかった。学習面の差ができたと思います。保護者も学習を一任されて、大変だったのでは。それに、親子だと『なんで分からへんの』ときつく言ってしまい、ぶつかります。それによって、日常の関係性も壊れてしまったのではないでしょうか。

 オンライン学習は進んでいなくて、宿題は、プリントやドリルが中心でした。子どもたちは、お母さんから怒られ、勉強面のコミュニケーションについて悩んでいました」

 特に新入生は、学校に通う機会がなく、帰属意識を持てないと言われていた。

 「新1年生は、入学の感覚もなかったでしょうね。スタッフも、どこまで学習していいのか分からなかった。スタートが遅れると困るだろうと、宿題がやれる子には声をかけてサポートしました。ひらがなを学ぶ前に、腕の力が弱いので、迷路や数字をなぞったり、座ってえんぴつの使い方からやってみました。ネットに出ている教材も活用しました。でも30分も机に向かっていられません。10分ぐらいが限界でした」

もともとの課題、休校で悪化?

 生活面では、コロナの休校中に変わるというより、もともとの課題が悪化したと、佐藤さんは感じている。

 「お風呂に入る習慣がなかった家もありますし、休みが続くと睡眠時間がバラつく子もいました。休校中、スマホでYouTubeやSNSにハマって、夜ふかししてしまった子は多いです。休校で朝、起きる理由がなくなり、生活リズムがずれました。

 声かけだけで改善できる家庭はあまりなく、学校が再開した時に、起きて行けるようになるといいなと思いました。休校が終わって分散登校が始まると、午前にここに来てから学校に行く、という生活リズムをつくりました」

 振り返れば、休校中は母親とのコミュニケーションも少なかったという。

 「平時は、お迎えの時にお母さんとやりとりして体調を聞いていました。それが、電話ぐらいしか接点がなくなってしまい、孤立感を感じていたのではないでしょうか。お母さんは、感染の不安が大きかったでしょう。自分がかかったら、子どもがかかったら、仕事ができなくて家計が苦しくなる、と。

 そうした心配から、子どもを拠点に行かせるのをやめたいというお母さんがいて、3週間ぐらい来ない子もいました。留守番すると子ども1人になってしまい、保護者も3食は準備できない。その時も、寄付のご飯をスタッフが届けに行って、コミュニケーションをとっていました」

学校再開も、行事がなくなって

 そして2020年6月の学校再開後、日常のリズムが戻ったものの、Aさんたちスタッフは、学校の行事が簡素化され、みんなで何かをする経験が少ないことに心を痛めたという。

 「拠点では、みんなですることを増やしました。恒例の夏の一泊キャンプができず、状況が落ち着いていた秋に、日帰りキャンプをしました。子どもには、他の人と関わり、互いの存在や役割を認める機会が大事だと思います。

 学校では、マスクをして、給食も前を向いて一人で食べます。周りを意識したり、つながりを感じたりする機会が減ったように思います。拠点では、レジャー施設へのお出かけや季節の行事、毎月のアートワーク、ゲームなどをするようにしています」

学校に行きにくい子も「充電期間」

 最後に、佐藤さんから気になる現状を聞いた。

 「子ども自身は、緊急事態が繰り返されるこの状況に慣れていると思います。ただ、学校に行きにくい子が増えている印象です。学校には行けないけど、拠点には来ている子が増えました。

 学校のピリピリ感が辛かったり、休校期間に動画にハマって離れられない子がいます。本人なりの理由があるのだろうと思います。充電できるまで、リラックスできたらと話しています」

 コロナ禍に、経済的な困難だけでなく、さまざまな理由から孤立している家庭は少なくない。全国の「子ども第三の居場所」の取り組みを取材し、子育て家庭が抱える問題を共有し、大人の寄り添い方を学ぶきっかけにしたい。

〈プロフィール〉

なかのかおり

ジャーナリスト、早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。早大大学院社会科学研究科修了。新聞社に20年余り勤め、地方支局や雑誌編集部を経て、主に生活・医療・労働の取材を担当。著書に、ダウン症のあるダンサーと芸能界の交差を追ったノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』(ラグーナ出版)。調査報告書に『ルポ コロナ休校ショック〜2020年、子供の暮らしと学びの変化・その支援活動を取材して見えた私たちに必要なこと』『社会貢献活動における新しいメディアの役割』など。講談社現代ビジネス・日経電子版・ハフポスト等に寄稿している。

(2021年8月18日、日本財団ジャーナルに掲載の記事より)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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