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「小学校のオンライン教育」やり方・課題も様々…今、求められること

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
オンライン教育といっても形は様々。小中高と成長段階によっても求められる内容が違う(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、休校が始まって3か月。自粛生活に、子どもたちは心身のエネルギーを持て余している。保護者は学習の遅れや情緒面のケアを心配し、学校にオンライン教育を求める声も上がっている。一口にオンラインといっても、双方向のライブ授業や動画配信・民間のサービスを利用した学習等、方法は多様だ。小・中・高と、成長段階によっても求められる内容が違う。文部科学省の4月16日の調査では、休校の1213自治体のうち、双方向のオンライン授業をするのは5%、デジタル教材を使うのは29%だった。まだ少ない先進的な地域では、どう受け止められているのか。他の地域含め、どんなニーズがあるのか。小学生のいる家庭に聞いた。

〇「在宅ワークの隣で授業は負担」

「東京都港区は、オンライン学習が進んでいる」と聞いて、初めに港区在住の小学2年生の母・Aさんに聞いてみた。

「校長先生の挨拶や、体操のYouTube動画が送られてきたぐらいで、周りの子もそんなに見ていないようです。毎週、学校のウェブサイトにプリントがPDFで上がって、そのプリントと学習ドリルをしているだけですよ」

「オンライン授業をすることになったら、在宅の親がけっこう手助けしなくちゃならないと思います。家でがっつりテレワークしながらだと、ちょっと負担かも…。まだ国語と算数ぐらいだし、あと1か月なら、課題のプリントやドリルをやって、通信教育をやればいいかな。通信教育は、あまりやらなくなっていたので3月に退会する予定でしたが、休校になって退会を取り消しました」

港区立のある学校のサイトを見てみると、確かに丁寧に作られている。子どもにもわかるやさしい言葉のメッセージと、プリント類の説明。工作や種まきといったテーマで、先生が手作りしたであろう動画が、リンクされている。

「進んでいるといえば、渋谷区のお友達に『児童全員にタブレットが配られていて、それで宿題をやっている』って聞いてビックリしました」

〇全員にタブレット配布、動画視聴

次に、渋谷区立の学校に通う小中学生の母・Bさんに聞いた。

「児童にタブレットが配布されていて、通信費も特に支払っていません。小学3年生の場合、タブレットとは別にプリントやドリルの宿題が出されています。『3年生の漢字ドリル上を全て』といった感じで、家庭に任されています。タブレットで問題を解いたりというのは、自宅では見たことがないです」

「今まで夏休みにタブレットを持ち帰り、やっていた事と言えば、写真を貼りつけて、それについての説明を添えるとか、朝顔の観察ぐらいです。学校では、民間の学習サービスを使って算数をやっているみたいです。

休校中は、NHKのサイトで、社会や理科の『コノマチリサーチ』『ふしぎだいすき』の動画を見てくださいって課題を出されています。他に、コロナについて、自分なりに調べたり思ったりしたことを書くプリントがあります」

中学生の上の子の場合は、民間の学習サービスの範囲を指示されたり、課題を提出するクラウドのボックスがあったり、もう少し進んだタブレット利用があるそうだ。

渋谷区教育委員会は、「アベマ」と共同で、小中学生の学年・科目ごとに先生が授業をする動画を作成し、5月2日から無料で配信している。Bさんの家庭にも連絡があって、さっそく見たという。

〇私立小「通信環境を聞かれただけ」

設備の整った私立小は、どうだろうか。私立小に通う3年生の母で、育児休暇中のCさんに聞いた。

「午前中は自宅で勉強させて、15時から外に出かけます。勉強は学校の宿題と、春季講習から塾に入ったので、問題がたくさんありすぎてなかなか終わりません。学校からは、一度、オンライン環境についてのアンケートがありましたが、その後は全く音沙汰なしです。

3月と4月は1日1時間、登校してプリントをもらってきただけで、学費を全額徴収だったら、おかしいですよね。塾もそうです。低学年は、1人では勉強できない。全部見ている私に、授業料を払ってほしいぐらいです」

〇カナダ「公立は導入せず学校再開」

カナダに住む日本人で、小学高学年の子を持つDさんにも聞いた。

「カナダの教育は、州ごとに対応が違うようです。ケベック州は、コロナの感染者が他州に比べて多く、休校も早い段階で決まりました。子どもは英語の私立小に通っていて、もともとIT教育に力を入れているところで、すぐにeラーニングが始まりました。

公立校でオンライン授業をしている話は、今のところ耳にしていません。私立校も、対応は学校ごとにまちまちだと思います。子どもの学校は、5年生から1人1台、ipadを購入させられ、ふだんから宿題もipadでやっていました。Google classroomを使って、担任の先生とクラスメートと、情報を共有しています」

「休校中は、Google meetでビデオ通話、毎朝9時から20分ぐらいホームルームをして、一日の予定の確認をします。その後、各自で出された課題に取り組みます。質問があれば、先生にメッセージを送って聞いています。

フランス語・体育・音楽・ESLは、それぞれ先生が違うので、日によりますが、先生たちとビデオ通話でつながり、課題や指示が出されて、各自で取り組むスタイルです。5年生にもなると、親がついていなくても自分でできます」

「学校側も試行錯誤で、システムのトラブルも起こるので、その度にフィードバックしながら、より良いものにして行こう、という感じです。4年生以下に関しては、どのような形でeラーニングをしているのかわからないのですが、各家庭にどんな電子機器があるかの調査も行われています。世界中が大混乱の中、親としては、子どもの教育が一番気がかりですよね」

その後、5月半ばすぎに小学校の再開が決まり、通うかどうかは家庭で判断するという。「公立校はオンライン教育にはいたらず、それもあって、これ以上、教育の機会を奪ってはいけないと、小学校の再開を決めたというところもあるようです」(追記・その後、今期の学校再開は難しいと発表されたそうだ)

○保護者アンケート、つながり求める

現在、各地で保護者によるオンライン教育についてのアンケートが広がっている。東京都中央区は、保護者の有志が4月下旬~5月初めにアンケートを実施、小学生を持つ保護者を中心に1500を超える回答があった。寄せられた声をまとめ、区の教育委員会に伝えたという。有志の一人で、2児の母・Eさんに聞いた。

「長引く休校にともない、子どもたちのために何かしてやりたいという保護者の気持ちや、オンライン教育の導入が遅れていることに対する問題意識でつながっていきました。

保護者のニーズとしては、学習の遅れを心配する声が一番、多いです。共働きで不在でも、在宅ワークでも、保護者が勉強を見るのは限界という状況です。双方向のオンライン学習を求める声が多いですが、スピード重視でできることからやってほしいとの意見が目立ち、小学生は学習リズムや先生・友達とのつながりを保つことが求められています」

「区に対しては、オンライン・ホームルームの開催や、それが実現できるまでの間、学校の一斉メールの仕組みを使って、子どもへ語りかけるようなメッセージの発信をお願いしました。

双方向型の授業は、先生側と家庭の通信環境・子どもの集中力の面やトラブル対策の点で課題が多く、すぐの導入は難しいため、まずはローカルテレビで番組配信をしてはどうかと提案しました。タブレットの配布や、ルーターの貸し出しもできるようになるといいのですが。保護者も、できることからやろうと動き出しています」

〇通信環境の未整備、テレビの可能性

確かに、これだけスマホが普及しても、動画視聴やビデオ通話をするには、環境が万全ではない家庭もある。早稲田大学も、オンライン授業を始めるにあたって「パソコンやWi-Fiがない学生に、貸し出す」と発表し、話題になった。

またステイホームの中、「きょうだいとも、zoomで塾の双方向授業」「親は仕事」と、すでに何台ものパソコンを使っていっぱいいっぱいの家庭もある。

現在、普及していて視聴しやすいテレビを活用する例もある。熊本市は、独自のオンライン教育だけでなく、地元の放送局が協力して授業を撮影し、学年別に各チャンネルで放送している。

生活リズムという点では、TOKYO MXテレビが、体操のお兄さんとしておなじみの小林よしひささんを司会に、朝の会と帰りの会を放映している。ミニ学習や運動のコーナーもあり、都の教員も出演する。リアルタイムの動画配信で、どこからでも見られるという。

〇豊富なコンテンツ、整理が必要

休校後、各地の専門家や民間企業が作った動画・学習プログラムも多数、公開されている。教員を中心とするFacebookグループでは、動画やプリントを共有したり、事例集を作ったり、動きが活発だ。

休校が長引くにつれ、「何もしなくて、大丈夫だろうか」という保護者の不安を聞く。公園の遊具まで閉鎖され、子どもの居場所がない。頑張って課題を終わらせても、提出の機会がない。学校が再開されれば、先生たちも多忙で、しっかり見てもらえないかもしれない…。ツイッターやサイトを使いこなせている自治体は少なく、情報が伝わりにくい。

テレビや動画にしても、多様なコンテンツの中から、それぞれの家庭が探し出すのは大変だ。要望があれば、学校がオリジナルのコンテンツをすぐに用意するのは難しくても、既存の材料を選んでスケジュールを組み、提示することはできると思う。

〇家庭学習は可能、でも情緒面を

自助努力が必要、と考える保護者もいる。Fさんは「休校中、末っ子には、宿題と苦手分野の復習をさせています。親がついている必要があり、仕事はほとんどできないです。学校がしばらくないとわかってからは、切り換えて自宅学習の工夫をしています。

そもそも学校の教育に、どのぐらい期待するかは家庭によると思うのですが、今後は、より家庭学習に力を入れることになりそうですね」と語る。

このように、基礎学習ができる家庭もある。けれど、手を挙げて意見を言ったり、宿題だからやる気になったり、学校の先生・友達とのかかわりで、生き生きする子もいる。実際の学校生活はハードな面もあり、子どもの性格にもよるが、情緒の発達には、「場とかかわり」が必要ではないかと思う。

かといって、「学校がオンライン教育をしてくれたら、学力がつく」「オンライン授業の間、学校に任せられる」と考えるのは、期待しすぎだという意見もある。小学生は、機器の操作のために、保護者の力も必要だ。双方向だと、画面を通したコミュニケーションに先生の仕切り力が求められ、大人数のクラスでは発言しづらい。一方的な動画だと、集中できない子も出てくる。

〇選択肢の一つに、一歩ずつ

家庭学習も、学校のオンライン教育も、様々な受け止め方がある。それを踏まえた上で、「場とかかわりを作る」一つの手段として、オンライン環境の整備はかかせないと思う。

もともと、小学校と家庭とは、連絡帳や大量のプリント配布・電話といったアナログなコミュニケーションが主だ。災害や感染症がいつ起こるかわからない今、選択肢はあったほうがいい。

通信環境がない家庭については、「学校や学童保育の一室に登校して対応」という案に対し、「感染リスクを減らすために休校になり、学童保育でも緊張感が続いている中、趣旨が違うのではないか」との声もある。文科省は2019年、一人一台のパソコンや端末を整備する「ギガスクール」構想を打ち出している。東京都も5月5日、オンライン学習の環境整備のための予算を発表した。

けれど、コロナ禍にあって、端末が足りない、周囲の理解がない、技術が伴わないといった課題も多い。海外や私立でも手探りの状態で、公立小がいきなりオンライン授業を用意するのは、ハードルが高い。実現できても、年間の授業時間として認められなければ、学校再開後に7時間授業・土曜授業を増やし、夏休みの大幅短縮も避けられないという。

まず、子どもたちが学校とのつながりを持つことからと、保護者もアイデアを出し、自主的にオンライン・ホームルームを始めているところもある。その経験がモデルとなり、子どものための選択肢が広がってほしいと思う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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