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新型コロナ対策でイベント中止、「無観客ライブ」を実施・配信した理由

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
日本ダウン症協会の催しは中止したが、無観客ライブを生配信した なかのかおり撮影

新型コロナウイルスの感染拡大による政府方針で、星野源さん・Perfume・EXILEなどのライブ中止や、無観客試合の実施が相次いでいる。社会貢献活動の分野でも、筆者が取材予定だった「パラ駅伝」(香取慎吾さん・稲垣吾郎さん・草なぎ剛さんら出演・3月15日)、「世界ダウン症の日ONE+LOVE WORLD」(戸田恵子さんがアンバサダー・3月8日)の中止が決まった。一方でイベントは中止したものの、出演者とスタッフのみの「ライブ配信」というやり方で、社会へメッセージを届ける試みもある。2月24日、日本ダウン症協会による「無観客・ライブ生配信」の様子を取材した。

●300人規模→関係者30人で配信

日本ダウン症協会は2012年から毎年、3月21日の世界ダウン症の日に向けて、キックオフイベントを開いている。今年は2月24日に東京都新宿区内の300人規模のホールを借り、イベントを予定。啓発ポスターを作成したり、司会者やコンサート出演者を依頼したり、昨年4月から準備を重ねてきた。

協会は、知的障害のある人の祭典「スペシャルオリンピックス日本冬季ナショナルゲーム・北海道」中止の発表を受けて話し合いを重ね、19日にイベント中止を決定した。同時に「ネット配信できないか」と探り、協会のメンバーがビデオを持ち込んで会場から試験配信をし、東京都や区の発表に基づく感染予防対策をした上で、当日にホールから配信することを22日に決めたという。

出演者とスタッフは30人強にとどめ、ダウン症のある出演者は成人で移動距離の短い人に限り、当日朝の検温など体調管理を呼びかけた。

●リハーサルも念入りに

24日午前中、会場のホールでリハーサルがあった。筆者も会場に入る際、他の参加者と同じように、消毒液を全身にスプレーされた。自分の判断としては、メガネ・マスクを着用のまま取材した。

司会を務める「ダウン症のイケメン」タレント・あべけん太さんと、フジテレビの上中勇樹アナウンサーが進行を確認した。ダウン症のある出演者は「私たちは、自分のことを自分で決めたいです」というアピール文を読み上げた。

ゲストの音楽ユニット「インスハート」は、福岡を拠点に活動する現役医師の二人組。ダウン症のある人たちと家族の声を聞いて曲を作ったことから、意義深いイベントとして出演を決めていた。交通費の一部を除いては、チャリティ出演だという。「イベントは中止になるけれど、ライブ配信はしたい、と協会から話があり、賛同しました」(Toshiさん)。音響チェックをしたり、ダウン症のある出演者と一緒に踊ったり、1時間ほどかけてリハーサルをした。

本番は13時~14時。途中、昨年までイベントの司会を務め、現在は闘病中の笠井信輔アナウンサーが、病床で撮影したビデオが流れた。配信中も、笠井アナがメッセージを寄せた。会場を訪れた女優の東ちづるさんは、SNSで多数のフォロワーを持つ。配信中も視聴を呼びかけていた。インスハートの二人は、トークと演奏で盛り上げ、司会のあべさんが歌に感動して涙を流す場面もあった(※3月2日追記・キックオフイベントの様子は、YouTubeで公開中)。

昨年まで司会を務めた笠井アナウンサーも、病床から応援 なかのかおり撮影
昨年まで司会を務めた笠井アナウンサーも、病床から応援 なかのかおり撮影

●社会的な影響も考えて…

こうした試みの背景を、協会の代表理事で大正大教授・玉井邦夫さんに聞いた。

「チケットは払い戻しの対応です。イベントは入場料や企業の協賛などで、それ自体で成り立つようにしていて、今回は赤字になりそうです。補正予算を組むにも、年度末にあたるため厳しい。年間を通したイベント保険には入っているものの、コロナウイルスが対象になるかは、はっきりしていません。ただ、見たいときに見たいものを見る時代、オンデマンド化も必要と考えていました。今回、無責任な行動をしたとは言われたくないので、考えられる予防策は尽くしたうえで、配信を実施しました」

また、楽しみにしていた観客や出演者のためだけでなく、社会的な意義も大きかったという。「毎年、キックオフイベントをこの時期に東京で開いた後、全国各地の支部などで、世界ダウン症の日の関連イベントが続くという流れができています。4月2日の世界自閉症啓発デーにもつながる大事なイベントで、社会的な影響を考えると、何もしないわけにはいかなかった。近年は、イベント運営や動画などの技術があるプロが協会の理事になっていて、そうした力も生きました」

できる限りの対策もしたという なかのかおり撮影
できる限りの対策もしたという なかのかおり撮影

●事前の対策も必要

26日の政府によるイベント中止・延期の要請を受け、音楽番組の無観客放送や、無観客試合も決まっている。楽しみにしている視聴者にとっては嬉しいことだが、無観客であっても、「スタッフや出演者が、一つの場に集まる」のは事実だ。だが、そこで感染があったら…と心配し始めると、人と人が接する活動は一切、できなくなってしまう。映画や商業施設は?自粛はいつまで?集まる人数の目安は?といった多様な課題があり、どのような判断基準を設けるかは、難しいところだ。

経済的な活動だけでなく、社会的に意義のあるイベントについても、災害や感染症が起きた際の代替案についての同意や、赤字になった時にどう補うかなど、対策が必要だという声が上がっている。代替案では、動画やSNSといった気軽に発信できるツールを生かしつつ、どういった人員で配信するか、投げ銭や寄付・課金はどうするか、想定しておくことも必要だと思う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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