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津川雅彦さん 愛犬の取材で見えた優しさ

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
津川雅彦/Masahiko Tsugawa, May 11, 1998(写真: ロイター/アフロ)

俳優の津川雅彦さんが8月4日に亡くなった。筆者は新聞記者時代に、津川さんと愛犬の3兄弟を取材させていただいた。晩年は妻の朝丘雪路さんを介護して看取った津川さん。愛犬とのエピソードや、近しい人との関わりを通して見えた素顔の優しさを紹介する。

●最期に3兄弟で取材を

津川さんの愛犬3兄弟は、いずれもレトリバー。ラブラドルの「シロ」、フラットコーテッドの「竹千代」、ゴールデンの「ブラック」だった。本当は毛が黒いけれどシロ。同じく白いけれどブラック。遊び心がうかがえた。竹千代は、津川さん自身が演じた徳川家康の幼名にちなんでいる。

10年ほど前。多忙な中、津川さんが著名人のペットを紹介するコーナーの取材に応じて下さったのは理由があった。

スタッフさんと一緒に、3頭の大型犬を連れて来た津川さん。竹千代は自由に動けない状態だった。「体調は悪いけれど、3兄弟が一緒に撮影できるのは最後になると思って」

●愛犬への優しい心配り

竹千代はがんで、脚の腫瘍を手術。痛くてもみんなで散歩に行きたがり、何とか連れて行っていたそうだ。取材の後、静かに天国へ行ったと聞いた。

おしゃれなキャップをかぶった津川さん。3兄弟の撮影と合わせて、お気に入りというお店でインタビューした。口数は多くないけれど、愛犬との向き合い方に、飾らない優しさを感じた。

津川さんは、3兄弟それぞれの性格や関係性をよく見ていた。ふわふわの毛を触れば心地よく、夜中の散歩で自身も体調がよくなったという。逆に、せりふの練習は犬たちが見守っていたようだ。

●「ダウン症者のダンス」活動を応援

津川さんは、映画監督・マキノ雅弘のおいでもある。筆者は、マキノ監督の孫で振付師の牧野アンナさん(46)と親交があり、インタビューの際にそのお話もした。

アンナさんは、父が始めた沖縄アクターズスクールで安室奈美恵さんと一緒に歌手デビューしたこともあり、カリスマインストラクターとしてSPEEDや三浦大知さんらスターを育てた。最近ではAKB48のヒット曲「フライングゲット」「ヘビーローテーション」などを振り付けた。SKE48やアイドルグループの育成でも知られる。

芸能界で活躍するアンナさんが「一番、大事なライフワーク」と公言するのは、2002年に始めたダウン症のある人のためのダンススクール「ラブジャンクス」の活動だ。津川さんもラブジャンクスの活動を応援しており、インタビューの際に筆者が「活動を取材したんですよ」と話すと、「アンナは本当に頑張っている」と嬉しさを隠せない様子だった。

●「娘の誕生日にプレゼントを」

アンナさんはデビューしたくて沖縄から上京した14歳の時、津川さんの家に住み、レッスンやオーディションを受けさせてもらったという。

アンナさんは、自身のブログでも、

『ラブジャンクスを始めてからも、お前は偉いなと会えば褒めてくれて…私の受けた取材記事をスクラップして送ってくれました』

『毎年、娘の誕生日にプレゼントを送ってくれてました。今年の6月26日の誕生日にもプレゼントが届きお礼のメールを送って返信が届いたのが最後のやりとりになってしまいました』

『おじちゃま、本当にありがとう』

などと感謝の気持ちをつづり、アンナさんが抱いた赤ちゃんと津川さんの写真を掲載している。津川さんは茶目っ気たっぷりに、赤ちゃんの足にかじりつこうというポーズだった。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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