蜷川実花が撮るパラ選手、「障害者への意識変える」
蜷川実花さんがパラアスリートを撮影し、選手のインタビューや情報と共に編集した「GO Journal」2号が5月に発刊された。「障害者やパラスポーツを取り巻く環境・意識が変わるきっかけに」と願う蜷川さんがクリエイティヴ・ディレクターを務め、昨年11月に1号を発刊。写真と、モデルになった選手の声や蜷川さんの談話を紹介する。
東京のYahoo!本社で5月、「GO Journal」2号の発刊記念トークショーがあった。モデルになった水泳の一ノ瀬メイ選手と山田拓朗選手が日常の生活や、蜷川さんとの撮影について語った。
●息を合わせて水の中で撮影
リオパラリンピック銅メダリストの山田さんはNTTドコモの社員。会社員として仕事をしながらトレーニングしているという。蜷川さんが撮影した写真の、義手や奇抜な衣装について感想を話した。
一ノ瀬さんは近畿大の4年生で、朝練をこなし、授業に出てから会場に来た。「水中の撮影だったので、衣装が水を含むとめちゃめちゃ重いし、沈むのが難しくて。実花さんとタイミング合わせて、せーので潜って一瞬で撮りました」
●障害ある子も一緒に競える環境を
山田さんに憧れてパラリンピックの選手を目指した一ノ瀬さん。「近くの有名なスイミングに行ったら、右腕が短いのに気づかれて、手続きが止まってしまいました。選手コースに入りたいって言っても、障害のある人のコースに入ってと言われて。そうじゃなくて競うためのクラスに入りたかった」という体験談も。
一ノ瀬さんは「障害のない子は水泳したいなとスイミングに通ってクラスを上がっていくけど、パラの場合は普通にできる環境がない。障害のある子も、特別に何かしてもらうわけではなくて、一緒のクラスに入れる環境が整ったら、競技人口も増えてレベルの高い闘いになると思う」と語った。
「GO Journal」は日本財団パラリンピックサポートセンターが主催。日本財団や蔦屋書店、キヤノンデジタルハウス銀座、DNPプラザなどで2万部を無料で配布。A3タブロイド判のずっしりした作りで、2号は48ページ。図書館や高校にも寄贈された。今後も発刊する予定。
クリエイティヴ・ディレクター蜷川実花さんの話(2017年11月、東京・銀座の蔦屋書店で。1号の表紙モデルになった陸上の辻沙絵選手とのトークより抜粋)
●違和感からでもいい、手に取って
思ったよりも立派なものになって、紙の重さがずしっとして取っておきたくなるフリーペーパーになったと思います。(パラスポーツに)興味のない人にも手に取ってもらいたい。「何だろうこれ」って違和感からでもいいので手に取ってもらって広がっていくきっかけになったらいいなと思って作りました。
お仕事で前回のリオパラリンピックの開会式に行きました。荷物をピックアップするところでかわいい、光り輝いている人がいた。その時は辻選手のことを存じ上げなくて、とっても気になると思い、初対面だったけど名刺を渡してお話しました。外見がかわいいだけでなく、内側から光る強さがあり魅力的。写真家の欲が走ってしまって、撮らせてねと約束して、この撮影の現場で再会しました。
芯が強くて柔軟な女性なんだなと、撮りながら圧倒されました。どうやってファッションとして見せていくか、繊細に進めていましたが、最後はそういうことはどうでもいいねと。スタッフ皆が人間性に惹かれました。
●「私、片手がないだけなんで」
撮影で辻さんとお話していたときに、「私、片手がないだけなんで」とおっしゃったんです。何気なく。「でも、なんでもできるんです」って言われて、それはそうだなって思ったんです。
その衝撃が心地よくて、いろんな方と共有していきたい。この本を作り始めてよかったと思います。撮影中にお願いしたのは1回だけです。金メダルが目の前にあると思って、それをにらんでと。いい撮影って圧倒的な信頼関係ができてくる。この時は言ってもいいかなって。
●競技×ファッションの新しさ
競技しているところではなくて、ファッションの要素を入れるのは難しいですが、違和感があったり新しいものだからこそ見てもらえる入口があるんじゃないかと思って、ファッションに寄せているところがあります。
たくさんの人の意識が変わるきっかけになればいいなと始めたことが大きくなって、頑張ろうと思っています。