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TOKIO山口達也さんへ依存症体験者から

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
依存症体験者で今は支援活動をしている三宅さん(提供)

TOKIO・山口達也さん(46)についての報道で、アルコールの問題が指摘されている。程度の違いはあってもアルコールの問題を抱える人は少なくない。アルコール依存症だったらどんな対応が必要なのか。周りはどうしたらいい?やめ続けるには? 依存症の体験者で今は支援活動をする精神保健福祉士・三宅隆之さん(43)に五つのポイントを聞いた。

Q1・依存症かなと思ったら?

依存症はやめたくてもやめられず、生活がままならなくなり、周りの人をも傷つける「病気」です。自身の意志や根性で、何とか酒をやめようと、様々な方法を試みたと思います。しかし、結局はやめられずに問題が悪化していくのが依存症の特徴なので、まず、その事実を認める事から始まります。ただ、自身のすべてを否定する必要はありません。

「飲酒についてはどうしても自身のコントロールが効かないのだ」という点さえ認めればいいです。そうすると、「第三者による何らかの支えが必要」ということも納得がいくようになります。

●自助グループや回復施設などで仲間とつながる

何らかの支えは、病院、自助グループ(断酒会、AA)、民間の回復支援施設といったところがあります。それぞれに特徴がありますが、共通しているのは、断酒のための「経験、力、希望」を手にできるところです。それは医師からのアドバイスや施設プログラムかもしれませんが、一番大きいのは「仲間」の存在です。

仲間の言葉や行動から、酒を飲まずに生きていく方法を学んでいく。仲間とつながると孤立感が少なくなり、共感や受容を経験することが大きな力になるでしょう。有名人がこれらの社会資源を使うのは抵抗があるかもしれませんが、どのような手段でもいいから、つながりを持ってほしいと思います。

Q2・親しい人が依存症だったら、家族や職場の人はどう対応したらいい?

身内の人や仕事仲間は、裏切られた思いや悲しい思いでいっぱいでしょう。その思いは否定されるものではありませんが、本人を頭ごなしに叱責したり正そうとしたりすることは、依存症者にはほとんど効果がありません。問題を起こしていることは本人も理解しているからです。

●自発的に抜け出す期待はNG・問題の尻ぬぐいはしない

また、今回のような大きな問題をきっかけに、「本人が自発的に依存から抜け出す行動をとる」と期待するのもやめたほうがいいでしょう。感情的にならず、感じたことは伝える。その上で解決策はあると伝えてください。ただし、「●●へ行きなさい!」といった「指示」にはならないように注意したほうがいいですね。

さらに、とても大事なことですが、本人が飲酒で起こした問題の尻ぬぐいはしないでください。

三宅隆之さん・43歳  依存症者の回復を支援する一般財団法人「ワンネスグループ」共同代表。大学生の時、先輩に連れられて行ったパチンコにはまり、ギャンブル依存症に。パチンコ代のために昼夜、アルバイトを入れ、うそをついて親や友人から借金。就職したが横領などトラブルを起こして解雇され、転職を繰り返す。ギャンブルのストレスを解消しようとアルコールにも依存した。

32歳の時、親に突き放されたのをきっかけに自ら依存症の回復施設に入所。仲間と共に、自分の弱さやコンプレックスがどう作られたか見つめ、回復。高校まで優等生だったのが希望の大学に入れず劣等感が膨らんでいた、人の評価ばかり気にする自分を受け入れた。

その後、会社員を経て2011年からワンネスで働く。奈良を拠点に全国で講演や支援活動にあたる。回復後に精神保健福祉士の資格を取得、結婚して家庭を持つ。学生のころから好きだった演劇を回復ワークに取り入れる準備中。ワンネスは支援施設を持ち、入所や通いのプログラムがある。相談メールも受け付ける。sos@oneness-g.com

自分ではどうにもならないんだという気づきが回復の第一歩だった三宅さん(提供)
自分ではどうにもならないんだという気づきが回復の第一歩だった三宅さん(提供)

Q3・自分は依存症であると認めない、一時的にやめればいいと思うのはなぜ?

自分で認めない、依存症を否認することについては、様々な要因があります。「他の人たちは問題を起こさず飲酒をしているのに、自分だけが変だとは思いたくない」という思いが本人にはあります。アルコール依存症が病気であるとの理解が広がっていないため、「意志が弱い」「一生、抜け出せない」などの誤ったイメージがあるからでしょう。

依存傾向が強い人は断酒が必要なのですが、酒にとらわれているので、どこかで「また普通に飲めたら」と考えている。なので、「一時的にやめたら治る」「飲み方を変えたらうまくいくのではないか」という考えも出てくる。依存症を認めてしまうと、断酒などを考える必要に迫られるのでそれは回避したいとの思いもあります。

●「断酒や節酒を考えたくなかった」

ギャンブル依存症を体験し、アルコール依存もあった私も、自身の飲酒が変だとは認められませんでした。断酒や節酒を考えたくなかったのが、理由として大きかったです。人づきあいをするため、ギャンブル依存による問題を忘れるために酒の酔いが必要だったので、それをなしでやっていく不安感が、無意識のうちにあったのだと思います。

私はギャンブル依存症を克服し、アルコールもやめ続けて12年になります。こうしたことは、断酒して時間が経った今、過去を振り返って思うことで、飲酒時には考えられませんでした

Q4・アルコールの問題は身近でも聞く。依存症は中年期に陥りやすい?

私自身、家庭や仕事を持つ40代ですが、いくつかの要因が考えられます。見た目、体力、能力が衰えていく自身の現状を受け入れられない。組織内の仕事内容や評価についてこれ以上の伸びが望めず、収入の低下、若手との世代交代などから、将来に不安を感じやすい世代です。

家庭に関しても、子どもの独立や別離によって、孤立してしまうなどの悩みがあるかもしれません。

Q5・依存症に戻らずに生きていくには

アルコール依存症になった場合、「一生、やめ続ける断酒」が必要と言われています。私自身、依存症から回復していて通常の生活はできますが、苦しんでいる人たちや家族とかかわり、啓発活動に全国を飛び回ることで気が引き締まりますし、自分も励まされます。

●「やめ続けることが必要」と自覚

私はいつも、「自分は依存症者であり、やめ続けることが必要な人である」と自覚して生きています。

依存症に陥るのは決して喜ばしいことではないですが、一方で、自身の生き方や弱さを見直すきっかけにもなる。依存症に陥ったら人生は終わりではなく、むしろ始まりであるととらえてほしいです。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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