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アスリートの社会貢献活動を知って・村田諒太、香取慎吾らも応援

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
「世界ゆるスポーツ協会」の澤田智洋さんと審査員の香取慎吾さん なかのかおり撮影

地域のため、子どものため、社会貢献に取り組むアスリートやチームの表彰式「HEROs AWARD 2017」がこのたび、東京都内で開かれた。村田諒太、香取慎吾らがプレゼンターを務め、中田英寿や井上康生も駆けつけて社会貢献活動の輪が広がるよう呼びかけた。受賞6組のうちHEROs of the yearにはボスニア・ヘルツェゴビナで活動する宮本恒靖(サッカー)が選ばれた。それぞれの活動を紹介する(一部、敬称略)。

現役・引退後も活躍を

このアワードは、社会貢献活動とアスリートをマッチングさせ、現役時代も引退してからも活躍の場を作るため日本財団が創設したプロジェクトの一環。活動するアスリートや団体を知ってもらい、支援する。

アンバサダーには松井秀喜、中田英寿、大林素子、川澄奈穂美、田臥勇太ら一流アスリートが名を連ね、審査員には中井美穂、香取慎吾、間野義之・早大教授らが参加している。

今回は、養護施設の訪問や海外の子ども・障害児の支援、運動が苦手でもできるスポーツの考案など、様々な分野の6組が受賞した。

私は以前、福島に赴任していた関係で、受賞した「福島ユナイテッドFC」の社長・鈴木勇人さんから活動について聞いており、表彰式を取材したいとお願いした(関連の記事はこちら→「復興した福島の老舗旅館・震災から日常取り戻す」)。

震災後、農産物を販売

福島ユナイテッドFCの竹鼻快さん(右)と佐藤琢磨さん なかのかおり撮影
福島ユナイテッドFCの竹鼻快さん(右)と佐藤琢磨さん なかのかおり撮影

福島ユナイテッドFCは、震災後の風評被害を払拭する「ふくしマルシェ」に取り組む。地元の農産物や加工品を仕入れて、ホームとアウェーの試合会場で販売。提携チームの「湘南ベルマーレ」も販売に協力している。

そのほか、農家と連携して選手が自らリンゴやモモを作る。GMの竹鼻快さんは、こう語る。

「たくさんの人に、クラブがあってよかったなと思ってもらうのが目的です。何が課題で、何に困っているか。街の一員として何の役に立てるか、街のことを考えた上で、活動するのが大事と思います」

県全体が風評の払拭に頑張っている。「我々もまだまだ風評の影響を感じるんで、直接、地元の食材を手に取って食べていただく活動を続けたい。復興はそう簡単にできるものではありません。少しずつだけど、やり続けることが福島の未来につながると思います。長いスパンで活動を続けたいです」

佐藤琢磨さんがエール

竹鼻さんは「福島県内を回ると、自然が豊かで素晴らしい場所。この活動は、ふだんはサッカーと接点のない農家や生産者の方、未来を担う子どもたちに知ってもらい、応援してもらうきっかけになる。私たちのスローガンはつながりという意味の『リンク』です。つながりが新しく増えましたし、これからも強くしていきたいです。リンゴとモモをじゃんじゃん売っていきます」と力を込めた。

プレゼンターを務めたレーシングドライバーの佐藤琢磨さんは、東北で支援を続ける立場からエールを送った。

「2011年に日本を襲った被害は甚大なものでした。日本でも、世界でも胸が締め付けられた方は多いと思います。私も復興支援のプロジェクトを立ち上げ、子どもたちに夢を持つ大切さを伝えています。子どもたちが元気が出る食材を食べて大きくなっていく、その食材を全国に届けている選手の皆さん、これからの活動を応援していきたいです」

施設の子の傷を受け止める

坂本博之さん(右)とプレゼンターの上原大祐さん(パラアイスホッケー) なかのかおり撮影
坂本博之さん(右)とプレゼンターの上原大祐さん(パラアイスホッケー) なかのかおり撮影

ボクシングの坂本博之さんは、「こころの青空基金」として児童養護施設を訪問している。

「人生には光と影があるが、光のハッピーなほうを表にして生きてほしい。私たちは、施設にミットとグローブを持っていって、技術を教えるのではない。これまでの人生の、嬉しいこと、悲しいこと、怒ったこと…思いをこめて打ってごらんというと、涙を浮かべながら打つ子もいる。その子たちを傷つけたのは大人かもしれない。でもそれを受け止めるのも大人なんだと知ってほしいです」

自身も施設で育ち、テレビでボクシングを知ったという。視野が広がったらいいなと、施設にパソコンを贈ることから始めた。引退後、ボクシングでの学びや、夢をつかむにはどうするか、子どもたちがヒントにしてくれたらという思いで活動している。

坂本さんは「今日も、児童養護施設にタキシードを着て行ってきました。いつもと違うじゃんと言われ、説明したらかっこいいねって。これはお前たちと一緒にもらった賞だよと言ったら、ガッツポーズでね。共有できてうれしい」と語った。

障害児に海のエネルギーを

アンジェラさん(右)とプレゼンターの中井美穂さん(アナウンサー) なかのかおり撮影
アンジェラさん(右)とプレゼンターの中井美穂さん(アナウンサー) なかのかおり撮影

「Ocean's Love」のアンジェラ・磨紀・バーノンさんは、障害のある子どもたちのサーフィンスクールを続けて13年。サーフィンを通して海のすばらしさを感じてもらう。その家族にも、無限の可能性を見出してもらいたいという。

「海のヒーリングエネルギーは海でしか味わえないからこそ、海に来て経験してほしい。サーフィンは難しいですが、できたときの達成感はとても大きく自信を与えてくれて、新しいチャレンジをしようと、次々といいことが起きるのが素晴らしいと思います」

兄が障害者で、幼いころから学校でいじめにあったり、みんなと同じことができなかったり悲しい思いをしたという。アメリカで自閉症の子たちのサーフィンスクールに出会って、目をきらきらさせて「ワンモア」という子どもたちを見たのが活動のきっかけだ。

「2千人の笑顔、親の勇気、ボランティアの愛に触れて幸せな日々です。30年後には、健常者も障害者も平等な社会になるのではと思っています」とアンジェラさん。

香取さん「踊らなくなり運動不足」

運動が苦手な人のための活動も表彰された。「世界ゆるスポーツ協会」の澤田智洋さんは「自分もスポーツが苦手で、どんな人でもできるスポーツを50種目、作ってきました。スポーツをしなかった人が、家から出てくるようになり、ありがとう、選択肢がなかったからと言われます」と話した。

審査員でプレゼンターを務めた香取慎吾さんは、「背筋をピーンとするのもとても大事なことだ思うんですけれど、ゆるく始めるのも大好きなので最高だと思います。子どもから高齢者、運動が苦手な方…僕も運動が苦手で。運動不足で、最近は全然踊らなくなったんで、ゆるスポーツから始めたいと思います」と自身の近況にも触れ、会場を沸かせた。

野球道具よりまず靴を届ける

鳥谷敬さん(右)とプレゼンターの村田諒太さん なかのかおり撮影
鳥谷敬さん(右)とプレゼンターの村田諒太さん なかのかおり撮影

阪神タイガースの鳥谷敬さんは、「RED BIRD Project」として、フィリピンで子どもたちに靴や文房具を届けている。初め、野球教室を開くためにグローブを持参したが、劣悪な環境で裸足の子どもたちを見て衝撃を受けたという。まず靴を届けようと、1万8千足をフィリピン、カンボジア、タイなどの子どもたちへ贈っている。

プレゼンターを務めたボクシングの村田諒太さんは、表彰式後の取材で自身の活動についても語った。

「明日も継続的に行っている施設に行きます。一緒に遊ぶだけなんですけど。テレビに出てたおっちゃんが来た、おもろいなと子どもたちが喜んでくれる。そういう時間を作っていけたら。複雑な気持ちになることもあるけれど、何ができるか、教えてもらいながらやっていきたい」

スポーツは言葉がいらない

宮本恒靖さんとプレゼンターの大林素子さん(バレーボール) なかのかおり撮影
宮本恒靖さんとプレゼンターの大林素子さん(バレーボール) なかのかおり撮影

6組の中で最高賞に選ばれたのは、宮本恒靖さんの「マリモスト~小さな橋~」だ。ボスニア・ヘルツェゴビナに子どもを対象にしたスポーツアカデミーを作り、民族融和の活動をしている。

「10歳前後の子どもたちを集めて、スポーツを通して学ぶ。仲たがいしている民族が一緒にスポーツして仲良くなり、地元のリーダーになっていくことを目指しています。サッカーは世界中で愛されるスポーツ。ボールをけり合うだけでハイタッチできる関係になるし、言葉がいらない。多様性を超えるつながりになっていく。現地の人で活動を回せるように、委ねていくのが少し先の目標です」

発起人でもある中田英寿さんの談話

中田英寿さん なかのかおり撮影
中田英寿さん なかのかおり撮影

社会貢献活動というのは情報が入りづらい。表彰式で紹介された活動の映像を見て、おもしろいし、自分もこんなことができるかなと影響を受けるので知ってよかった。ここに来ていないたくさんの方が社会貢献活動をしていると思いますし、情報をもっと集めて、世の中の多くの方とシェアすることによって、社会貢献に踏み出しやすくなると思います。

社会貢献って、難しく考えがちだけど、みんなの輪を大きくしているだけ。スポーツは人をつなぐ力が強く、多くの方に入りやすい窓口になると改めて思いました。宮本の活動すら知らなかった。同じサッカーでも意外に情報をシェアしていないので、こうやってシェアできるのがおもしろいんじゃないかと思います。

宮本の活動を見て、僕もたまに行きたいなとか、ほかのスポーツをやったことがないので、みんなでやってみようとか、おもしろいことが起きる。このプロジェクトは、多くの人がつながるプラットフォーム。知ってもらって、集まってもらう形になればいいと思います。

僕は現役時代からチャリティ・マッチに呼ばれ、社会貢献の形を知りました。寄付とか、無償で労働とか思っていましたが、やっていることを違う形で見せるだけで社会貢献になるって、運がいいから経験できた。

現役選手は時間がないのでやり方は限られるけど、この活動が広まれば、引退した選手と現役の選手がつながる場所も増えてくると思います。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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