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「それが一番愚かなこと」。「とろサーモン」久保田が貫く哲学

中西正男芸能記者
絵の個展を開催する「とろサーモン」の久保田かずのぶさん(全ての写真は事務所提供)

 「M-1グランプリ2017」の優勝をきっかけに、活動の幅を一気に広げた「とろサーモン」の久保田かずのぶさん(42)。ラッパー・MCサーモンとしても存在感を示していますが、新たに絵の世界に一歩を踏み出し個展も開催します。久保田さんを衝き動かす“哲学”とは。

愚かなこと

 相方が5月、6月とお芝居の舞台をやることになり、そのけいこもあってコンビとしてのスケジュールが空いたんです。

 だったら、その時間を使って何かやってみよう。そう思ったのが2月頃でして、手を付けたのが絵だったんです。

 子どもの頃から絵に馴染みがあったわけではなく、むしろ、得意という意識はないままに大人になっていたんです。

 最初に描いてみようと思ったのが2013年ぐらいだったと思います。「麒麟」の川島さんの家に行った時に、川島さんは絵を描かれるので、そこでヒマつぶしに描いてみようかとなったのが一つのきっかけだったと思います。

 水性ペンで抽象画を描いたんですけど、その頃はとにかく仕事がなくて。精神的にもかなり滅入っていた時期だったので、その思いをぶつけるように描いたのが記憶に残っていたんです。

 そこから後輩の「クロスバー直撃」渡邉の家で久々に描いてみたりもする中で、自分の中の感情をぶつける感覚だとか、周りからも誉めていただくことが多かったこともあったりして、今回の個展に結びついていったんです。

 今回の絵もそうなんですけど、よく新型コロナ禍で仕事がなくなったり、いつもとは違う時間の流れ方になって考え方を変えたということを聞いたりもするんですけど、僕に関してはこれまでも今も常に一緒なんです。

 というのは、時間ができた時に何もしないほど愚かな人間はいないと思っていて。特に、この世界にいる以上はさらに何かしないといけない。「時間ができた。じゃ、横になっておこう」とかいう考えは全くないんです。

 明日になった時に「昨日、何もしてないわ」よりも「昨日の続きをやろう」という生き方の方が僕は好きだなと思っているので。

 ただ、描いてみて感じたのは絵というのは正解がないのが面白いですね。漫才には“お客さんが笑う”という明確な正解がありますけど、絵は出口の部分が広いというか、終わりがないというか。そういう感覚にひかれて、一晩中筆を握ってるということもあります。

 今、僕が絵を描いているエネルギー源みたいなものはストレスだったり、そこからの湧き上がる怒りや葛藤。それをぶつけている感じだと思っています。なので、人物画を描いても、そこにいる人はほとんど笑ってないんですよね。

もっと自分にスポットをあてろよ

 でも、それをエネルギーとして、熱はどこまで続くのか。熱は絶対にさめてくるものだし、一方で絵を描く面白さは感じているので、その熱量をいかにキープするのか。どんな形でキープするのか。内面的な話になりますが、今はそれを考えている段階でもあります。

 時間ということでいうと、それこそSNSに誹謗中傷の書き込みをする人らは、本当にもったいない時間の使い方をしているなと思います。

 僕のところにもいろいろなコメントが寄せられたりもしますけど、いちいち相手にしてたらキリがないというのもあるし、時間の使い方を知らん人なんだなぁという思いもあって、スルーをしているのが現状でもあります。

 1日24時間。7時間を睡眠に充てるとして、朝9時から夕方の5時まで仕事するとなると、もう15時間は費やしてます。そこから家に帰って家事をして、ご飯を食べて、風呂に入って、市役所に出さないといけない書類を書いたりする雑事をして、明日の仕事の準備をして…と考えると、本当に何をやってもいい時間なんて実質2~3時間だけだと思うんです。

 その時間をわざわざ使ってSNSを見て、こいつに文句のコメントを書こうだとか、こいつにはいいね!を押さないでおこうだとか、これはフェイクだなと分析したり。もっと自分にスポットを当てろよと思います。他人に矢を放って何をしてるんだと。自分の人生なんだから、人に費やしているヒマはないよと。

 そう考えると、朝倉未来さんの動画とかで朝倉さんをぶん殴ってやろうと応募してくるケンカ自慢の方が圧倒的にカッコいいと感じます(笑)。自分の顔を出して、自分の力でねじ伏せてやろうという思いを持って出てきているわけですから。

 これは社会全体の話になっていくのかもしれませんけど、日本という小さな島国で妙な制約がどんどん増えている。その制約からはみ出した人間は社会から追い出される。

 そんな波がお笑いにも押し寄せているのかもしれませんけど、これも捉え方でしょうね。うーん…、ま、昔みたいに芸人が活動する場はテレビと劇場だけではないですから。いろいろなジャンルの“1位”が出てくる時代ですからね。それぞれがそれぞれの感覚で自由に1位を目指す。それをやっていけばいいのかなと。

 ただ、それに対して「なんやねん、それ!」とか「そんなことするな!」と“旧”の側の人間が叩くのはどうかとは思いますけどね。

 “うさぎ跳びをやってたヤツ”がヤイヤイ言う。まだその価値観で話してるのかと。なかなか難しいのかもしれませんけど、なんとか、自分はそうはならないでおこうとは思っています。

■久保田かずのぶ

1979年9月29日生まれ。宮崎県出身。本名・久保田和靖。高校の同級生・村田秀亮と2002年にコンビ結成。ABCお笑い新人グランプリ最優秀賞、オールザッツ漫才優勝、笑いの超新星最優秀新人賞、NHK上方漫才コンテスト最優秀賞など若手時代から関西の賞レースで結果を残す。2010年、活動拠点を東京に移す。17年、出場資格ラストイヤーで「M-1グランプリ」で優勝。コンビとして、そして久保田個人の公式YouTubeチャンネルも展開している。描きためてきた絵画の個展「なぐりがき」を5月10日から16日まで東京・渋谷モディで開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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