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オンリーワンの輝き。役者・広島光が渡辺謙、そして新型コロナ禍からつかみ取ったもの

中西正男芸能記者
仕事への思い、新型コロナ禍での思いを語る広島光さん

劇団「新宿梁山泊」で研鑽を積み、3年前から映像の世界にも進出し注目を集める俳優・広島光さん(45)。来月には宮沢りえさんヒロインの舞台「泥人魚」に出演し、個性派ぞろいのキャストの中でも存在感を見せています。今年5月には渡辺謙さんの主演の舞台「ピサロ」に出演。「あらゆるものを超越していた」と話す渡辺謙さんとの時間からつかみ取った極意とは。

「その人が強い」という感覚

 これまで基本的にはずっと舞台をやってきたんですけど、3年ほど前からご縁をいただき、映像の世界でもお仕事をさせてもらうようになりました。

 同じ“芝居をする”ということでも、この二つが違うということは感じていて、舞台では感情や動きを大きく見せることが求められてきたんですけど、映像でそれをやると大げさになってしまう。

 そこの葛藤や迷いがあったりもしたんですけど、今年、渡辺謙さんとご一緒させてもらってそこの感覚が大きく変わりました。

 舞台だ、映像だという前に、謙さんはけいこの時から、もう全てが完成しているんです。けいこの合間であろうが、そのたたずまいがもう出来上がっている。その姿をいつカメラで撮っても、いつ舞台に乗せても大丈夫といいますか。

 舞台と映像では競技が違う。そんな意識があったんですけど、そこを超越しているんです。

 柔術の黒帯とかボクシングのチャンピオンとかではなく、何でもありの総合格闘技で本当に強い人に会ったというか。キックボクシングが強いのか、空手が強いのかという話ではなく「その人が強い」という感覚というか。そんな全てを越えたものを謙さんから受けたんですよね。

 でもね、これが難しいのはなろうと思ってなれるものじゃないんです(笑)。ただ、自分がなれるかどうかは別にして、同じ空気が吸えるのは限られたチャンスだと思って、エキスを吸えるだけ吸おうとはしていました。

 なので、けいこ場にいるのがすごく楽しかったんです。できれば、けいこも本番もずっと終わらないでほしい。心底そう思ってました。

 しかし、コミュニケーションを取ろうにも容易に話しかけられるような方ではない。けいこの後で飲みに行くというのも新型コロナ禍でできない。どうしたものかとも思ったんですけど、実は、ものすごく謙さんから話しかけてくれるんです。頻繁にアドバイスもくださいますし。

 しかも、アドバイスが「これはあくまでもオレの考えなんだけど、もし良かったら、こうやってみるのも手じゃない?」という風に、決して上からにならないよう、水平の目線で言葉をかけてくださる。

 芝居そのものもですし、現場の居方というか、人としての立ち方というか、そこもすごく吸収したいところでした。作品が終わるのが本当にイヤでしたし、役者を続けていく上で本当に忘れられない、忘れたくない時間になりました。

コロナ禍での思い

 本当にありがたいことに「ピサロ」では謙さんとの時間もいただき、本当に良い経験をさせてもらいました。ただ、この1年半ほどコロナ禍の中で舞台をやっていると、きれいごとではなく、いろいろなことも考えました。

 役者もそうだと思いますし、恐らくは芸人さんや歌手の人たちもそうだったのかもしれませんけど、あらゆる人間に対してコロナ禍は突き付けたとおもうんです。「続けるの?どうするの?」ということを。

 特に役者は声をかけてもらわないと仕事が発生しない受け身の仕事でもあります。場が与えられないと仕事のしようがない。

 舞台に呼ばれるか、テレビに呼ばれるか、映画に呼ばれるか。それが役者の“存在の仕方”だったんですけど、コロナ禍でそれらが難しくもなりました。

 特に、名が知られていない役者にとってはよりキツイというか。例えば、役者をやっていると生活が苦しい。でも、だからこそ頑張るんだ。良い役をもらって、少しでも裕福になりたい。正直な話、それがモチベーションにもなると思ってやってきました。

 でも、今の時代は名前のある人でもアルバイトを余儀なくされたり、あらゆるものが変化せざるを得ないことにもなっている。いろいろな価値観を刷新するしかないというか「これはこういうもの」という枠を取っ払わないといけない。強くそう考えるようになりました。

 受け身の仕事から、自分から能動的に動く術も持っておいた方がいいだろうし、それが例えば動画制作だったり、仲間内で映像を配信したり、そういう“カード”も持っておく。それも必要なんだろうなと思って、今はこれまで以上に、よく動くようになりました。いろいろなところに顔も出すようになりました。

役者の領域

 これまでが当たり前じゃないし、何がどうなるか分からない。この仕事をやり続けたいなら、そこで沈む自分ではなく対応できる自分でいないといけない。役者というものへの感覚の幅ももっと広げないといけない。その思いが強くなりましたね。

 良いように言うと、より自由になれた感じはします。役者って、もっといろいろやってもいいんじゃないか。「作品に出ること」以外の選択肢を持ってもいいんじゃないか。その広がりを持てたのは、ある意味、コロナ禍だからだなと思います。

 変な話かもしれませんけど、最近、ヤクザ映画を見てて思ったことがあったんです。「仁義なき戦い」「アウトレイジ」「孤狼の血」と時代が変わるごとに、ヤクザの演じ方が変わってきてるんですよね。

 演じる側のメンタルが違うというか、今は“ヤクザに見えなくてもいい”というか。「仁義なき―」の頃、もしくはさらに昔の映画は、思いっきりヤクザであることを出してるんです。ヤクザの色の濃いもの勝ちというか(笑)。

 僕なんかは、その方が見ていてしっくりくる部分もあるんですけど、時代とともにヤクザの演じられ方が変わり、ヤクザという概念も変わっているんだろうなと。それとある意味同じように、役者の概念も変わっていくんだろうし、何をやるのが役者で、役者とはこういうもの。その領域も変わっていくものなんだろうなと感じています。

 僕はこの仕事を続けていきたいと思ってますし、そのための一つの方法として、5年ほど前から韓国語も習っているんです。

 とにかく、韓国の作品に出たくて仕方ないんです(笑)。向こうの作品は本当に面白いものも多いですし、実は“日本人役”という枠が結構あって、そこの需要もかなりあるらしいんです。

 あと、実際に仕事をしている友人に聞くと、韓国の映画はギャラがいいと…。これもすごく大切なことですから。否応なく、韓国語の勉強にも力が入ります(笑)。いろいろなモチベーションを持ちながら、日々頑張って仕事と向き合っています。

(撮影・中西正男)

■広島光(ひろしま・こう)

1976年1月22日生まれ。東京都出身。94年、演劇集団「円」の養成所に入所。その後、俳優・演出家の壌晴彦に師事する。98年、壌主催の「座」に参加。2005年からは劇団「新宿梁山泊」のメンバーとして活動する。18年から「新宿梁山泊」と芸能事務所「ケイパーク」が業務提携したことをきっかけに映像作品への出演機会が増える。舞台「泥人魚」(12月6日~29日、渋谷・Bunkamuraシアターコクーン)に出演。共演は宮沢りえ、磯村勇斗、愛希れいから。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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