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「元には戻らんでいい」。TKO木下が語る今、そして、相方・木本武宏への思い

中西正男芸能記者
今の思いを吐露する「TKO」の木下隆行さん(撮影・倉増崇史)

 昨年3月に松竹芸能を退所したお笑いコンビ「TKO」木下隆行さん(49)。立ち上げたYouTubeチャンネル「木下プロダクション」が未曽有の低評価を記録するなど、後輩に対するパワハラ騒動などの逆風も残りますが、風を受け続けたからこそ見えたものとは。そして、自身の「軸」と話す「TKO」の相方・木本武宏さんへの思いとは。

未曽有の低評価

 今、仕事の中で物理的に一番時間をかけているのはYouTubeだと思います。ただ正直な話、これでずっと生きていくとは思っていないところもあります。

 というのは、あくまでも軸は「TKO」で、本来「TKO」があるからこそのYouTubeであり、これまででいうとお芝居の仕事だったりすると思っているので、自分の中の軸が「TKO」であることは、これまでも、これからも変わらないと思っています。

 ただ、僕が松竹芸能をやめてすぐに始めたのがYouTubeでもありました。これも正直な話、消えたくなかったし、忘れられたくなかったし、とにかく打席に立っておかないと自分自身が錆びるとも思ったので始めたんです。

 そうやって立ち上げたチャンネルだったんですけど、その結果、アップした動画に対して日本一の“バッド”数をいただきました。

軸のブレ

 何が悪かったのか。自分でもいろいろと考えました。一つはタイミングだと思います。騒動や不祥事を起こした場合は、休むというか、謹慎というか、自粛というか、そういういわゆる冷却期間があるのが今のセオリーになっている。

 ただ、僕の場合は逮捕されたりした事件でもないですし、当該の後輩とも当事者同士の和解も終わっていたので、なんとか前に進まなきゃという思いがまずあったんです。

 それが時期尚早だとか、節操なく映った部分もあったんだろうなと。

 あとは、僕の芸能界での立ち位置的なところだと思います。ありがたいことにドラマなどのお仕事をたくさんいただいて、俳優業をやっているイメージが強くなっていた。バラエティーに出て面白いことを言い合ったり、自分の意見を言ったりするような、いわゆる自分自身の“脳”を出す姿が少なくなっていたんだと思うんです。

 僕からすると「キングオブコント」にも必死で取り組んでいたし、ライブも毎月やって、ラジオも一生懸命にやってはいたんです。だけど、そういう芸人的な部分を広く届けることができていなかった。

 それでいて、ミュージシャンや俳優さんと交流を持ったりすることが目立ったりもしていた。そういう積み重ねで芸をおろそかにしていた。もしくは、おろそかにしていたように見られたんだと思います。

 自分の軸がない。軸がブレている。それでいて、フワフワと露出はある。そういう人間が落ちていくのを見る気持ち良さ。是非はともかくそういうものは世の中にあるものだと思いますし、僕の中にもあるものやと思います。きれいごとじゃなく言うと。

 こういう文脈で名前を出して申し訳ないですけど、でも、これは僕としては完全に良い意味で捉えているのが、例えば(千原)せいじさんだとか「千鳥」の大悟は何かスキャンダルがあっても収まるのは、しっかりと芸人やからやと思うんです。実績も、実態も、腕もあるとみんなが認めるという意味で。

 僕も芸人としてやってきたつもりだったんですけど、そうは見られていなかった。それが低評価の根底にあることだと今は感じています。

 最初の頃は、リアルな思いとして「こんなに嫌われてるんや」「こんなに言われるんや」というのがすごくありました。そして、シンプルにイヤでした。

 もちろん、やってしまったことはダメなことやから、そこに火種があってのことというのは分かるんです。ただ、ここまでなんか…と。

元に戻らなくてもいい

 しかも、それが一過性のものではなく、ずっと続いていく。そのうち、何もかも全否定されるような気持ちにもなっていったんですけど、そこで気持ちをつなぎとめることができたのは、周りの人たちの存在でした。

 端的に言うと、友だちが離れない。アーティストの友だちでも「投げるなキケン」と書いた大量のペットボトルをライブの打ち上げで用意して、イジってくれたり。表現方法はいろいろでしたけど、友だちは一切変わらずに愛を持って接してくれた。

 自分自身でも、これまでの全てを否定しにかかっていたところがあった中、友だちが離れなかったことで、今まで自分が積み重ねてきた人付き合いは間違ってはいなかったんだ。忖度で付き合ってくれていたんじゃなくて、ちゃんと付き合えていたからこそ、今の状態があるんだ。その感覚は、すごく勇気をくれましたし、自信にもなりました。

 そうやって気持ちが変わっていく中で「もう、元に戻らんでエエわ」と思えるようになっていきました。

 今までは「何とかして、元の場所に戻ろう」という思いがあったんですけど、別にそこには戻らなくてもいい。もともとの仲間はいてくれるんだ。だったら、そこから新しい第二章を作っていこう。そう思えるようになりました。

 例えば、役者のお仕事にしても、いいお父さん役とかはもう捨てないといけない。そこを求めたらダメでしょうし。ただ、役者をやるにしても、役柄は他にもあるわけだし、今までとは違う形で演じることで第二章を形づくっていく。

 そうやって自分の気持ちの中のことかもしれませんけど、前に向かっていくと、それが顔に出るのか、少しずつお仕事が入るようになってきたんです。

相方への思い

 ただ、重ねて言っているように、僕の幹は「TKO」ですし、それは木本としかできないものです。

 今の木本との状況は、折に触れ、LINEなどでは連絡はしています。今年1月には、松竹芸能の幹部の方も交えて3人で会って話をしました。2~3時間は話したと思います。

 いろいろな話をしました。もちろん、まずは謝罪から入りました。木本にしたら、自分とは別のところで騒動が起こり、結果、いろいろなネタ番組などにも出られなくなってしまった。それは完全にこちらに非があることですし、それを謝るのが第一でした。

 あとは、今の現状。そして、これからどうするのか。どうしたいのか。今、僕がどういう気持ちでやっているのか。そういう話をしました。

 僕はフリーで、相方は松竹芸能に所属している。いろいろな壁もあるので、一概に僕が「やりたい」と言ってできるものではない。ただ、気持ちとしては「TKO」が軸である以上、そこはやっていきたいという思いは伝えました。

 そこに対して相方もいろいろなことを言ってくれましたけど、事実として14歳から友だちで、家族の次に付き合いが長い男です。僕のことも彼が一番知っている。

 その木本が、細かい描写は控えますけど「悔しい」という言葉を使ってくれたんです。それはパワハラ的な言葉が使われる中で、僕が怖い男だと思われるのが「悔しい」と。

 正直な話、僕はパワハラと呼ばれるようなことを確かにしました。そこに否定はありませんし、本当に申し訳ないと思っています。その上で、木本がその言葉を言ってくれたのは、そぐわないかもしれませんけど、僕個人としてはすごくうれしいことでした。

 僕がしでかしたことで相方にただただ迷惑をかけているので、僕が何かを言えた立場では全くありません。ただ、僕はいつかのために、勝手に、ネタは作っています。それが自分の軸であり、一番やりたいことである以上、日の目を見るかどうかなんてもちろん分かりませんが、その準備だけはしておきたいというのも本当の思いです。

今の木下隆行

 なんでペットボトルを投げたのか。そこはね、やっぱり「弱いから」やと思います。だから、投げたんだと。

 逆に言うと、騒動を経て、分かりやすく強くなったと思います。いろいろな意味を踏まえて。

 先ほども話しましたけど、騒動があったから、こうやって取材もしてもらっている。さらに言うと、騒動からのYouTubeの低評価などもあったからこそのお仕事も今はいただいています。

 そういった時間を経て、軽々しく言うことではないかもしれませんけど、強くなったと思います。

 あと、小さな変化なのかもしれませんけど、人に言葉をかけるようになりました。

 これまで何か騒動があった人に、自分から連絡をするということはなかったんです。それでなくても大変やろうし、そんな状況で何か言葉をかけるのも無粋だし、向こうも求めてないとも思っていたし。

 ただ、今回のことがあって、いろいろな人から温かい言葉をもらって、それがね、本当にうれしかったんです。言葉に救われましたし、一生かけてお返ししようとも思いました。

 なので、僕が言うのもアレですけど、何かあった人、自分が親しくしている人で何かがあった場合には言葉をかけるようになりました。

 後輩に対しても、これまではあまり付き合い方がうまくなかったと思うんですけど、ああいうことがあったから、ただただ優しくするというのも芸人としては違うと思っています。

 芸人ですから、行きつくところ、面白いか面白くないかが正解だと思いますし、場合によってはグッと踏み込むようなイジリをすることもあると思います。

 ただ、そこで相手もそこに愛があることを分かってくれて、周りもしっかり笑える。そういう形が成立しているのか。そこはこれまで以上に、強く意識するようになりました。

 今の流れは、身もふたもない言い方をすると、騒動があったからこそのものだと思っています。ここから先、騒動の流れもなくなって、YouTubeに低評価もつかなくなった時に自分に何ができるのか。

 元に戻るのではなく、それが本当の第二章であり、本当の勝負だと思っているので、今は全てを血と肉にして進んでいこうと思っています。

■木下隆行(きのした・たかゆき)

1972年1月16日生まれ。大阪府出身。中学からの友人・木本武宏と92年からお笑いコンビ「TKO」として活動を始める。松竹芸能の若手リーダー格として大阪で注目を集め、拠点を東京に移す。TBS「半沢直樹」など役者としても独特の存在感を見せる。2016年設立のファッションブランド「BUCCA44」でブランドディレクターを務める。20年3月で松竹芸能を退所し、フリーで活動を開始。同年、YouTubeチャンネル「木下プロダクション」を立ち上げる。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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