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「それは甘え」。松竹芸能の注目株「絶対的7%」が語るコロナ禍とこれから

中西正男芸能記者
「絶対的7%」のマスト(左)と森田智裕

 大阪大学経済学部卒業で高い分析力を持つ森田智裕さん(27)と、独特のセンスが光るマストさん(31)の漫才コンビ「絶対的7%」。昨年末に行われた松竹芸能の若手ナンバーワン決定戦「カドキング2020」でもファイナルステージに残り、注目度がさらに高まっています。新型コロナ禍で特別な時間が流れる中ですが、二人が考えるコロナとの向き合い方。そして、今後についてストレートな言葉で語りました。

積極的に緩めてみる

 森田:新型コロナ禍で、去年は特別な一年というか、これまでにはない時間の流れ方を経験しました。

 もう、漫才ができなくなるんじゃないかという思いも頭をよぎりました。そして、去年の緊急事態宣言の時とか、完全に舞台が止まる中、今止まっている間にいったいどれだけ芸人のチャンスがなくなってるんだろうということも考えました。もちろん、世の中全体が大変なんですけど、いろいろとネガティブな思考にもなりましたね。

 ただ、もちろん、お笑いはあり続けてほしいし、そうであると信じてリモートでネタも作り続けてはいました。

マスト:いやらしい話、これで崩れていくコンビがおってくれたらいいなということもオレは思いました。自分らが上がるというより、周りが下がることによって…というパターンで(笑)。

 森田:かなりネガティブっぽいけど、ま、分からんでもないな(笑)。

 マスト:僕もステイホームで実感したことがありまして。普段だったらありえないくらい、ずっと家にいる。その中で、ネタを作ろうということを多くのコンビがやってましたし、僕らも作ってましたし、ココで頑張るヤツが売れる人間かもしれない。

 森田:そう考える人が多いでしょうね。

 マスト:でも、その一方で、この時間は世間から責められることなく、ゆっくりできる時間でもあると思ったんです。

 感覚的な部分ですけど、だらける、サボるということを意識してやるというか。その中から何か抽出する。ネタも作るけれども「絶対にこれを今日仕上げないといけない」という考え方をやめてみる。この期間は、そんなメンタルにしてみようと思ったんです。

 実際、そうやって作ったネタが賞レースでも使うような良いものになったりもして。

 森田:積極的に緩めてみる。そんな感覚かもしれんね。

広く待つ

マスト:実際、昨年末の「カドキング」でやったネタも、実は、そういう流れでできたものだったんです。

森田:ライブもできなくて、お客さんとの距離が空いてしまっている。なので、お客さんとのコミュニケーションとして、配信という形でお客さんの意見を聞きながらネタを作るみたいな試みをやってみたんです。

 最初は、正直、お客さんとのコミュニケーションがメインだから、そこでできるネタの完成度はあまり期待してなかったんです。

 ただ、配信中にお客さんの前で一本のネタを作り切ってしまわないといけない。その縛りがあると、いわば、一筆書きのように一気に作り上げてしまう。その感覚が良かったのか、想像以上に使えるネタができたんです。この感覚は自粛期間がなかったらできてないものだと思いますし、発見でもありました。

 今ってすごいスピードでいろいろな価値観が変わってる時だと思うんです。もし、コロナが落ち着いたとしても、漫才のテーマで、例えば「この前、コンパ行ってきたんやけど」という設定に、もうお客さんに違和感を覚えるようにもなっている。

 僕個人の感覚でも、ドラマを見ていて、電車のシーンでみんながマスクしてないのがもう気になってますし。

 そう考えると、今後のことを今の時点で「こうしよう!」と決めても、実は非常に意味が希薄になってしまうのかなと。

 じゃ、何をするのがいいのか。僕は“広く待つ”ということなんだろうなと考えています。柔軟性というか。何が来ても、何が起こっても、何かしらの対応ができる。掘り下げるというよりも“全部をかじっておく努力”というか。この待ちの広さは意識してますね。

 それと、去年も、ありがたいことに「M-1」は開催されましたけど、賞レースが当たり前にあると思うのも違うなということを改めて思いました。

 賞レースって、毎年、開催発表会見があるわけです。ということは、厳密に言うと、毎年あるかどうかは分からない。だからこそ「今年、やりますよ」の会見をするわけで。

 それを勝手に「毎年あるものだ」と思うのは違う。完全に、それは甘えやなと。そういう考えはもともとあったんですけど、コロナ禍でそれがさらに強くなった感じです。

 マスト:我々は開催に何もタッチしてないですからね。主催者でもないし、スポンサーでもないし。たまたま開催されたものにエントリーをしてるだけで。なので「大会がないのはおかしい」と言う流れは本来おかしいですし。

弱点と武器

 森田:僕らの芯となるのは漫才。もっというと、ネタだと思っています。そして、その“手数の多さ”みたいなところが特徴ではあるんだろうなと。

 ただ、これが良くも悪くもで、ネタのパターンは多種多様にたくさんあるけど、突き抜けてるものがない。「『絶対的7%』といえばこれだ!」と僕らを形容する言葉ない。

 ネタによって全然違うことをしますし、単独ライブみたいに一日で何本もネタをお見せするような場だったら魅力を感じていただきやすいのかもしれません。でも、テレビだったら「これだ!」という色がある人の方が向いてるでしょうし、なんとか「これだ!」を見出そうとはしています。

 コロナ禍でテレビを見ていても、そこをすごく感じました。もし、僕がテレビを作る側の人だったら、間にアクリル板があったり、距離が離れてやりとりがしにくくなる中、よく分からん人間はより一層、使わんわなと。

 確実にこれができる。この味が出る。こういう展開が見える。そういう人でないと、使う側もこれまで以上に使いにくい。自分らに足りてないことをそこでも再認識しました。

 マスト:さっきのステイホームの話にもつながるかもしれませんけど、無理をしないというか、苦手分野には手を出さない。僕はそれを去年の中で決めました。得意な部分を伸ばす。そこに力を注ぐ。それが突出した武器を作ることになるんだろうなと。

 森田:本当にありがたいことに、松竹芸能の先輩である「TKO」の木本さんが、ネタの構成から声の出し方に至るまで、いろいろと直接的なアドバイスもくださいまして。

 ロケにしても、僕らの特性を分かった上で、ボケのマストが画面に入ってくる入り方だとか、そんな細かいところまで「オレはこう思うで」と言ってくださいまして。

 木本さんが3カ月に1回くらいのペースで大阪でMCを務める若手ライブをやってくださってまして、それをきっかけに本当にいろいろと教えていただいています。本当にナニな話、木本さんがMCを務めてくださったら、お客さんもたくさん入るし、若手もやっぱりより気が引き締まりますし、そういうところから若手全体のレベルアップに繋がるんじゃないかと思いますし、また、そうしないといけないと思っています。

 マスト:僕も先輩というか、事務所は違いますけど、江頭2:50さんのYouTubeチャンネルを見たんです。普段YouTubeとか見る方じゃないんですけど、その時やってらっしゃったのが、YouTubeチャンネルを見てくださっている人やコロナ禍で苦しんでらっしゃる人のために、自分自身で花火を打ち上げて楽しんでもらうというものだったんです。

 森田:去年の夏、確かにやってらっしゃったね。

 マスト:それを見て感動しまして…。人のために何かしたいなと思いました。

 森田:うっすいなぁ、最後…。ほんでまた、そこは素直に思うんやな(笑)。

(撮影・中西正男)

■絶対的7%(ぜったいてきななぱーせんと)

1993年3月5日生まれで大阪府出身の森田智裕と89年12月24日生まれで滋賀県出身のマストのコンビ。マストはサッカー(高校全国大会出場)・ソフトボール(インターハイ出場)。森田は洛南高校、大阪大学経済学部卒業で全国模試7位などの経歴を持つ。昨年末に開催された松竹芸能の若手ナンバーワン決定戦「カドキング2020」でファイナルステージに進出した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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