Yahoo!ニュース

『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』最終“怪” どんな結末が待っているん怪?

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:テレビ朝日

小芝風花主演の『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』(テレビ朝日系にて毎週土曜夜23時~)が今夜、最終“怪”を迎える。

■夢を追う主人公の前に立ちふさがる巨大な壁の正体とは

本作は2020年に放送され、2020年度ギャラクシー賞奨励賞を受賞した『妖怪シェアハウス』の続編。

主人公・目黒澪(小芝)は真面目だが自己肯定感に乏しく、紆余曲折を経て小さな編集プロダクションで働いていたが、シェアハウスで出会ったお岩さん、ぬらりひょんなどの妖怪たちのサポートを得て、夢を叶えるために妖怪“ヒラキナオリ”として意気揚々とシェアハウスを飛び出して行った。だが、現実は厳しく、あえなく挫折した彼女は再びシェアハウスへと戻ってくる。そこでまた妖怪たちとドタバタを繰り広げながら、再び夢に向かって進もうとするのだった。

人間と妖怪が共同生活を営む。実に突拍子もない設定だが、ぬらりひょん役の大倉孝二をはじめ、松本まりか(お岩さん)、毎熊克哉(酒呑童子)、池谷のぶえ(座敷童子)と、確かな演技力を持つ俳優たちの芝居によって世界観を違和感なく受け入れられるのが、このドラマの大きな魅力の一つである。

そして、前作に増して大きなテーマとなっていると思うのが「人はどのようにして夢を追い、生きていくべきか」である。

小説家の夢をあきらめきれず悪戦苦闘する澪だが、いざパソコンに向かい文章を書こうとすると、思うように手が動かない。それは以前、持ち込みをした出版社の担当者から浴びせられた心ない言葉による“呪い”だった。やがて澪は自らの力で呪いを断ち切り、キーボードを叩けるようになる。

しかし、物語はそこで終わらない。そんな彼女の前に、売れっ子マルチメディアクリエイター・黒原光一(六角精児)が立ちはだかる。

写真提供:テレビ朝日
写真提供:テレビ朝日

メディアに対して多大な発言力と影響力を持つ黒原。彼に逆らい異なる意見を口にするだけで、たちまち業界から消し去られてしまう。それを恐れ、いつしかイエスしか言えなくなっている取り巻き連中。どうやら彼は妖怪「だいだらぼっち」の可能性が高いらしいのだ。

魂を振り絞って書いた自分のアイデアを取り上げられ、黒原のゴーストライターとしてゴミのように扱われた澪は、共に暮らす妖怪たちの応援とともに立ち上がり、ついに黒原との直接対決に挑む。果たしてどんな結末が待っているのか……。

■余裕を失った人間が生み出した“妖怪”という存在

このエピソードを通じて描かれているのは、まさに現代社会および組織が抱える“やりがい搾取”にほかならない。

モノづくりにおいて、ある程度の才能とたゆまぬ努力はもちろん必要だが、ひと昔前までは、たとえ能力が至らなくとも周囲が温かく見守り、時間をかけて育む気運があったように思える。だが今は効率と結果ばかりが求められ、のどかな雰囲気は微塵もない。昔に比べ、人々の心から余裕が失われている気がするのは私だけだろうか。

本作は、若い才能を使い捨てにする権力者を「妖怪」にたとえることで、強烈なメッセージとして見る人に訴えかける。入り口はコミカルでも、中身はとてもシリアス。このドラマが他にはない面白さを醸し出している理由はここにある。

また、人間が捨てたプラスチックゴミによって凶悪化した河童など、“闇落ち”した妖怪が人間に悪事を働くというストーリー展開も、普及の名作『ゲゲゲの鬼太郎』にも通じるメッセージ性と共に今なお色あせない輝きを感じさせ、興味深い。

前作に引き続き、主演の小芝風花は逆境にめげず健気に立ち向かう主人公・澪を好演。妖怪たちに振り回されながらも自分の夢に向かって進み続けるその姿は、俳優としての彼女の歩みにも重なる。6月17日から公開される映画『妖怪シェアハウス―白馬の王子様じゃないん怪―』でも、きっと魅力的な演技と表情を見せてくれるに違いない。

■自分のなかの“妖怪”も問いかける作品

考えてみれば、私たちが生きているこの世の中も、ふと見渡せば“妖怪”だらけではないだろうか。

写真提供:テレビ朝日
写真提供:テレビ朝日

欲望のために人の夢を食いものにし、自分さえよければ他人がどうなろうと構わない、目の前にあるささやかな思いやりの気持ちを躊躇いなく踏みにじる……まるで闇落ちした妖怪のような、もしかするとそれよりひどい魑魅魍魎が跋扈する現実社会。見方を変えれば、この世を生きるということは、それくらい覚悟を決め、自分を守らないと渡っていけないほど厳しいのかもしれない。

しかし、もっと違う方法がきっとあるはずだ。

自分のことだけを考えるあまり、私たち人間はいつの間にか妖怪化していないだろうか? 現代社会を絶妙なさじ加減ですくい取り、笑いの中にも深く考えさせられる『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』。いつまでも記憶に留めておきたい良作だ。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

中村裕一の最近の記事