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おせち料理、買った?作った?食べなかった?~コロナ禍で起きた変化とは

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
おせち料理、買った?作った?((画像・筆者撮影)

・おせち料理の起源

 おせち料理の起源については、様々な説があるが、神様に供えた「蓬莱(ほうらい)」を人々が分けて食べるところから始まっているようだ。正月に飾った縁起物を、年賀の客をもてなすための料理として提供したものを、喰積(くいつみ)と呼ばれるようになったものが、やがて重箱に詰められるようになり、お節料理の原型とも呼べるようなものになっていったようだ。

・1950年代は「重詰料理」

 「あまカラ」(甘辛社)の1953年12月号には、「お正月の重詰」という記事が掲載されている。「おせち料理」という言葉は使われておらず、「お重詰」と書かれている。

 やはり、同書の1955年12月号でも、「重詰料理」と題して辻嘉一氏が「正月の重詰は、各家庭でそぞれのしきたりや家風があって」と書いている。

 「1980年代頃までは、お得意様への一年間のお礼として、お宅にお届けするものでしたよ。今のように、売り物ではなかったですね。年末の最後の一週間は店を休んで、総出で料理を作りました。あれはあれで、大変でしたが、楽しかったですね」20年ほど前、都内の料理店の店主から聞いた話である。

 同様に話は、1970年代から1990年代に都内で料亭を経営していた女性からも聞いたことがある。

・「おせち料理」が普及したのは、高度経済成長期

 1960年代に高度経済成長期を迎え、人々の生活も豊かになり、正月の料理も豪華となった。団塊の世代が家庭を持つようになり、料理教室やテレビの料理番組などによって、豪華な正月料理が紹介されるようになった。伝統的と思われている「おせち料理」だが、一般に普及したのは、比較的最近のことなのだ。

 さらに1970年代になると、冷蔵食品や冷凍食品が普及し、様々な食材などが一般家庭でも使えるようになった。それまで、餅や雑煮に加えて、各地の食材を使って作られていた正月料理が、全国的に画一的な内容になってきたようだ。

・正月料理の重箱詰め

 正月料理の重箱詰めセットが販売されるようになったのは、1970年代後半から1980年代のこと。これも諸説あり、一部の百貨店で豪華な重箱詰めセットが販売されるようになったのが、最初という説もある。

 1990年代になると、冷蔵技術や保冷輸送が可能になったことと、通信販売の普及が進んだことで、「お取り寄せ」セットが販売されるようになった。

 このように1980年代後半から1990年代に正月料理が重箱詰めで百貨店や通販で販売されるにしたがって、「おせち料理」という言葉が一般化したようだ。

スーパーマーケットには一人用のおせち料理も(撮影・筆者)
スーパーマーケットには一人用のおせち料理も(撮影・筆者)

・コロナ禍で市場が拡大

 コロナ禍によって年末年始に自宅で過ごす生活スタイルが定着したことで、おせち料理にも変化が見られている。

 富士経済が2022年9月30日に発表した「価格改定と喫食シーンの変化による食市場の需要影響予測」によれば、2020年以降は重詰おせちのサイズが大きくなり、単価が上昇し、市場が拡大している。この傾向は続くと予想され、2022年の市場は2019年比19.8%増となっている。

重詰めおせち市場は拡大傾向にある
重詰めおせち市場は拡大傾向にある

・約半数の人が正月用おせちを購入

 株式会社ハースト婦人画報社が2022年9月1日に発表した「婦人画報のお取り寄せ調べ」によれば、20歳から69歳の女性1,073名の約半数の46.6%が来年のお正月用におせちを「購入する」と回答している。おせち料理離れが言われた時期もあったが、コロナ禍を通じて、再評価されているようだ。

約半数の人がおせち料理を購入すると回答している
約半数の人がおせち料理を購入すると回答している

・購入場所はオンラインと百貨店

  購入予定の場所は、「オンラインショップ・ネットショップ」(46.9%)と「デパート・百貨店の実店舗」(46.1%)で二分している。

 購入予算の平均額は29,964円となっており、約半数が半年前と比較的早い時期に購入する予定だと回答しており、おせち料理が正月という季節イベントに欠かせないと感じている人が多いようだ。

オンラインと百貨店での購入が大半
オンラインと百貨店での購入が大半

・進化を続けるおせち料理

 おせち料理は、高度経済成長期を経て、洋風料理や全国的に均一な料理が普及し、家庭料理から、次第に百貨店や通販で購入する「お取り寄せ料理」となってきた。

 百貨店や料理店などでは、差別化をするために、地元食材を使ったり、少人数向けにしたり、オードブル的なものにしたりと、変化を遂げている。

 高額商品ばかりではなく、年末のスーパーには、単身者や少人数向けのおせち料理セットもたくさん並んだ。

・値上げによる購買への影響は限定的

 今年のおせち料理には、それらとは異なった変化があった。それは原材料費の高騰による販売価格の上昇だ。帝国データバンクが2022年12月28日に発表した『2023年正月シーズン「おせち料理」価格調査』によれば、2023年正月用のおせち料理の平均価格は約2万5,500円で、約1,000円アップとなっている。

 その背景には、魚介類など食材の価格高騰が影響がある。しかし、行動制限が無くなり、家族や友人で集まる正月となるためか、大人数向けとなる三段重以上の売り上げが好調であり、「値上げによる購買への影響は限定的との見方もある」としている。

 コロナ禍で来店者数が減少し、その対策としてテイクアウトの延長として「おせち料理」に取り組む飲食店も増えたようだ。

 おせち料理の変化は、世相を反映している。これから、どんな変化を遂げていくのだろうか。

原材料費の高騰が、おせち料理を直撃した。
原材料費の高騰が、おせち料理を直撃した。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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