Yahoo!ニュース

「バイトが来ない!」~人手不足が、コロナ禍からの復旧に立ちふさがる

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
シルバーウィーク。姫路城にも多くの観光客や買い物客が集まった。(画像・筆者撮影)

・行動制限がなくなり、人出が戻る

 新型コロナ禍による行動制限がなくなり、9月のシルバーウィークには、各地の観光地には多くの人出が見られるようになった。

BRUNO株式会社が全国の20代から40代の男女500名を対象に行った「シルバーウィークに関する調査」によれば、「自宅でくつろぐ(41.8%)」が多いものの、5人に1人が「国内旅行(20.8%)」と回答し、続いて「近場でお出かけ(19.4%)」、「帰省(6.6%)」となっており、「昨年に比べて今年のシルバーウィークの旅行意向は高まったか」についても、「そう思う(12.4%)」と「どちらかといえばそう思う(22.2%)」を合わせて30%を超す人が旅行に関心を持っていることが判る。

出所:BRUNO株式会社「シルバーウィークに関する調査」2022年9月16日
出所:BRUNO株式会社「シルバーウィークに関する調査」2022年9月16日

・スーパーでも人手が足りない

 「コロナ感染での欠勤は、散発的ですが、まだありますし、もともとパートやアルバイトが足りないので、増加してきたお客さんをさばくのに精いっぱい。」関西地方のあるスーパーマーケットに勤務する正社員は、人手不足が深刻化していると言う。

 小売業界では、コロナ禍以前から慢性的な人手不足が問題となっていた。しかし、コロナ禍になり、営業時間の短縮や買い物客の減少などから、このところ、パートやアルバイトの不足感が一服した状況だった。

 「飲食店などとは異なり、コロナ禍でもスーパーやドラッグストアなどでは業績が良く、その分、セルフレジなど従業員不足対応が進められた。しかし、それだけでは対応しかねている」と、首都圏の流通企業の社員は説明する。

出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年8月)」2022年9月26日
出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年8月)」2022年9月26日

・人手不足企業は急増

 帝国データバンクが9月26日に発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2022年8月)」によると、2022年8月時点の人手不足割合は、正社員で49.3%、非正社員で29.1%と、コロナ禍以前の水準に戻りつつある。

 業種別で見ると、正社員では「旅館・ホテル」が72.8%、非正社員では「飲食店」が76.4%で、それぞれ70%を超して最も高くなっている。

 正社員では、「情報サービス(69.5%)」、「建設(64.4%)」などは、コロナ禍以前から人手不足が深刻だった業界だ。

 非正社員では、「旅館・ホテル(67.9%)」、総合スーパーなどを含む「各種商品小売(56.0%)」、「飲食料品小売(54.6%)」の順だった。

 正社員、非正社員、業種別のいずれで見ても、2021年8月と比較すると、コロナ禍以前の状態に戻りつつあり、急激に人手不足が深刻化していることが理解できる。

出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年8月)」2022年9月26日
出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年8月)」2022年9月26日

・時給も増加傾向

 「コロナ禍前に働いてくれていた学生バイトたちは、すでに卒業したり、他でバイトをしている。それだけではなく、バイトの時給がどんどん上がっている。うちのような個人店では、原材料費などが高騰しており、限界に近づいている。」首都圏で居酒屋を経営する男性は、そう言う。

 東北地方の自治体職員は、「首都圏の時給が上昇し、地方部との格差が広がっている。若い人たちの中には、より良い給与を求めて、首都圏に流出する傾向も再燃しつつある」と言う。

株式会社リクルートのジョブリサーチセンターが9月9日に発表した「アルバイト・パート募集時平均時給調査」によると、フード系の三大都市圏(首都圏・東海・関西)の2022年7月の平均時給は、1,062円と上昇を続けている。職種小分類別にみても、昨年(2021年)後半から、時給は急上昇している。

 最低賃金の引き上げが話題になったが、それ以上に、人手不足からの賃金上昇が本格化し、中小企業の経営を圧迫しつつある。

出所:株式会社リクルート「アルバイト・パート募集時平均時給調査 」2022年9月9日
出所:株式会社リクルート「アルバイト・パート募集時平均時給調査 」2022年9月9日

・求人競争はさらに激化

 「新規開業を予定しているスーパーのアルバイト、パート募集の看板に、時給1500円以上と表示してあり、驚いた。」そう話すのは、東京都内の飲食店経営者だ。「廃業した飲食店の空き物件も、賃料が上昇している。経営者仲間からも10月以降のインバウンドの本格復活を期待する声も多くなっている。ただ、これ以上、求人が難しくなり、時給が上昇すれば、人材不足で経営できなくなる個人店も増えるかも知れない」とも言う。

 10月以降、全国旅行支援の開始に加えて、外国人観光客の受け入れが本格再開する予定だ。休業してきたホテルなど宿泊施設や飲食店、小売店なども再開が相次いでいる。各地の地域経済の復興に期待が膨らむが、人手不足がその大きな足かせになる可能性が出ている。

 コロナ禍の鎮静化で、当然のように求人数は増加しているが、そもそも少子高齢化の影響で労働力人口は急減している。また、円安の影響で、外国人労働者にとっては魅力が低下している。経営者にとっては、正社員、非正社員ともに求人競争が激化することを意味する。その影響は、観光業界、飲食業界、小売業界に止まらず、多くの業界に拡大していく気配だ。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

中村智彦の最近の記事