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クリーンなのに、うさんくさい。再生可能エネルギーをこんな風にしたのは誰か

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
太陽光発電の次は、風力発電だと一部では盛り上がっているが・・(写真:アフロ)

・宮城県知事、山形県知事が持った「違和感」

 山形県の吉村美栄子知事は、6月24日の定例会見で、蔵王山麓の宮城県川崎町における風力発電事業の計画について、次のように述べた。

 『「事業者がですね、関西電力ということで、「えっ、どうして関西電力なの。」というふうに、本当に素朴にちょっととっさに印象を持ちました。』

 これは、宮城県の村井嘉浩知事が、6月13日の定例会見で、「関西電力が東北にわざわざ出てきてこういったようなものを設置をせずとも、関西の中でおやりになればよろしいのではないかなという思いは持っております。」と発言したことに関連しての発言だ。

 いずれの知事も、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーが今後、重要になることには理解を示しているが、その一方で関西電力という地域外の企業が、当初は国定公園内への建設計画を発表したことなどに「違和感」を持ったようだ。

 村井宮城県知事は、さらに「結果的には二酸化炭素の吸収源である山林を失ってしまうということ、また、当然ですけれども、太陽光パネルにしても風力発電にしても、20年、30年すると更新時期を迎え、あるいは廃棄時期を迎えるわけですよね。その時点でしっかり事業者が責任を持ってそういったことをやってくれるかどうかということ、どこまで担保できるのかと、これが非常に重要なことだと思っております。」と発言している。この発言は、まさに昨今、各地で起こっているトラブルの原因を示している。

山形県の代表的な観光地である蔵王の御釡。(画像・筆者撮影)
山形県の代表的な観光地である蔵王の御釡。(画像・筆者撮影)

・いつも都会から地方に押し付けられる

 東北地方のある中小企業経営者は、「原発の問題と同じで、都会で使う電気を地方で作る。要は迷惑施設を、いつも都会から地方に押し付けてくる。そういうことを地方の人間がずっと感じていることを理解していないのではないか」と話す。

 東北地方のある自治体職員は、「蔵王山は、地元の人間とっては特別な山だし、重要な観光資源だと認識している。そこに、東北電力ならまだしも、地域外の関西電力が、蔵王国定公園のことも配慮せずに風力発電所計画を公表するというのは配慮が足りない」と言う。

 実は、2020年夏に山形県内の出羽三山に40基の風車を設置する大規模風力発電所の建設計画が明らかになり、地元住民の猛反発を受けて、一か月後に白紙撤回する事件があったばかりだ。それだけに、この自治体職員のように疑問に思うのも当然だと言える。

 太陽光発電所や風力発電所を建設し、クリーンで再生可能エネルギーを供給することは、今や「正義」である。国際的な課題としても取り上げられており、国家を挙げて取り組むべきことだとされている。しかし、太陽光発電所や風力発電所が本当に「エコフレンドリー」なのか、疑問を持つ人も多い。

・太陽光発電所が引き起こした問題

 風力発電所に厳しい視線が注がれるのは、それ以前に太陽光発電所が各地でトラブルを生じていることにある。

 関西地方のある自治体職員は、「私たちは野良太陽光発電パネルと呼んでいますが、各自治体で太陽光発電所に対する規制条例が作られる以前のものが、山中などに放置されている。頭の痛い問題です」と言う。さらに「現在、稼働している太陽光発電所でも、将来的に壊れたり、発電効率が低下した際に、本当に所有者が処分費用を払って、元に戻してくれるのか。結局、野良太陽光パネルの処分は行政が公費を使って行わねばならないのではないか」と懸念する。

  2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が開始されてから、各地で太陽発電所の建設が急増した。造成工事を巡って、環境破壊や杜撰な工事による土砂流出や濁水の発生するなど、地域住民とのトラブルに発展する事例も急増し、太陽光発電設備の規制に関する条例を制定する自治体が増加している。

 一般財団法人地方自治研究機構によれば、2022年6月現在、都道府県条例は兵庫県、和歌山県、岡山県、山梨県及び山形県の5条例、市町村条例は190条例が制定されている。このうち、太陽光発電設備のみを規制対象とするものは105条例、太陽光発電設備を含む風力、バイオマス、地熱等の再生可能エネルギー発電設備を規制対象とするものは90条例となっており、新たに制定を行う自治体は増加傾向にある。

 先の自治体職員は、「これまで住民から通報があり、明らかに環境に悪いと判っても、規制や指導する方法がなかった。要するに合法だから、と言われたら、それ以上、なんともできなかった。制定しない自治体は後手に回るリスクを自覚するべき」と言う。

・地域経済にメリットがあるのか

 再生可能エネルギー事業に取り組むある中小企業の技術者は、「一部の悪質な業者や、無責任な発言を繰り返す政治家などによって、クリーンであるはずの太陽光発電や風力発電にうさんくさいイメージが付きまとってしまうのは、非常に残念だ」と言う。

 この技術者は、「太陽光発電パネルを住宅や工場などに設置し、自家消費をすることは、今後、さらに重要になるだろう。しかし、消費地から遠く離れた遠隔地に大規模なメガソーラー発電所を設置することは、将来的なリスクを考えると、私は賛成できない」とする。「もちろん、いろいろな意見があることは承知している。だからこそ、きちんとした議論が必要だが、SDGsや環境問題を振り回しながら、実は金儲けしか考えていない人の声ばかりが大きいような気がする」とも言う。

 エネルギー関連企業のある社員は、「昔、原発を地方に建設する際には、建設期間だけではなく、発電が始まっても多くの雇用を生み出すことが保証されていた。しかし、メガソーラー発電所や風力発電所などでは、建設工事が終われば、雇用の創出は望めない。それだけに、地元の人たちが地域経済にメリットのない迷惑施設と考えた段階でトラブルになる」と言う。

売電価格は下落傾向にあったが・・・
売電価格は下落傾向にあったが・・・

・エネルギーインフラを外資に任せることへの反発も

 2021年6月、経済産業省が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の改訂版を発表した。これによれば、政府が掲げるカーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーによる発電を大幅に増加させる必要性がある。

 太陽光発電などの再生可能エネルギーへの投資は、家庭用低圧連系の全量買い取りが終了し、売電価格も下落したために落ち着きはじめていた。しかし、この成長戦略の発表により、再び「儲かる」可能性が出てきた。そのため、太陽光や風力などによる発電所建設に関心が集まっている。

 そんな中、問題視されているのは、国内の複数の発電所建設を外資系企業が行っている点である。ロシアのウクライナ侵攻によって、ガス、電力などエネルギー供給問題が注目されるようになった。特に他国に自国のエネルギー供給を依存することが、安全保障上、リスクが高いことが理解されるようになった。

 例えば、大阪府南港地区や山口県岩国市などに中国資本が建設したメガソーラー発電所が、話題となっている。

 あるエネルギー系企業の幹部社員は、「法的、手続き上は問題ないと関係者は主張しているようです。確かにそれはそうだとしても、基幹エネルギー分野は、テロや攻撃につながるリスクが高い。こうした電力分野などに外国企業の参入を許す危険性に考慮した議論をしてこそ、自国の政治家の役割ではないか」と批判する。

 外資系企業が日本国内各地で、メガソーラー発電所や風力発電所に参入することに対しては、安全保障上のリスクを指摘する声に加えて、村井宮城県知事が指摘する「20年、30年すると更新時期を迎え、あるいは廃棄時期を迎えるわけですよね。その時点でしっかり事業者が責任を持ってそういったことをやってくれるかどうかということ、どこまで担保できるのかと、これが非常に重要なこと」に多くの人が懸念を持つようになっているのだ。

大阪南港に中国資本が建設したメガソーラー発電所が話題になっている。(画像・筆者撮影)
大阪南港に中国資本が建設したメガソーラー発電所が話題になっている。(画像・筆者撮影)

・うさんくささを増しているのは、曖昧な説明

 静岡県熱海市の土砂崩れで、27人の死者、行方不明者を出してから一年が経った。東北地方のある中小企業経営者は「太陽光発電所が崩れたわけではないとされているが、その造成に関係した盛り土が崩れた。森を伐採し、工事用道路を造成して発電所を作る訳でしょ。あれだけ多くの人が亡くなっても、関係企業の名前すら報道されていない。自分の住む地域でも同じようなことが起こるのではないかと疑るようになった」と言う。

 環境問題に関する企業向けコンサルティングをしている専門家は、「うさんくささを増しているのは、曖昧な説明でごまかそうとする関係者のせいだ。ヨーロッパでは、すでに森林を伐採しての発電所建設は、たとえ再生可能エネルギーによるものでも、エコだとは認められない。さらに、発電所が立地する地方部の住民の同意や参加、利益分配などを義務化する動きも進んでいます」と言う。

 この専門家は、日本各地でのトラブルが、再生可能エネルギーの導入の障害になりかねないと懸念する。

・「うがった見方が出るのも仕方ない」

 経済産業省の「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度の温室効果ガス46%削減に向けて、再生可能エネルギー比率を36~38%にするという「野心的」な目標を達成するとしている。

 そのため、太陽光発電、風力発電を急増させる必要がある。しかし、蔵王での問題が象徴するように、「野心的」な目標は、すでに様々な問題を引き起こしている。

 環境問題を解決する取り組みが、新たな環境問題を引き越すという皮肉なことだけではなく、外資の参入による安全保障問題などは、より深刻だ。

 さらに、世界的に太陽光発電パネルの大半が中国からの輸入であるという点も、アメリカでも問題になっている。原材料である多結晶シリコンの大半が、人権問題が指摘されている新疆ウイグル自治区産であることや、エネルギー源を他国に依存するということなど複雑な問題が絡み合っている。先の環境コンサルタントは、「日本では、欧米と異なって、この問題はスルーされたままだ」と言う。

 大手エネルギー企業の元幹部社員は、「太陽光発電、風力発電と次々問題が発生しているが、あれもだめ、これもだめとやっておいて、やっぱり原子力発電しか残らないと世論に誘導するのかもしれない。まあ、こうしたうがった見方が出てくるのも、今の状況ならば仕方がない」と言う。

 今回、お話を伺った方たちは、いずれも気候変動が明確になっている中で、脱炭素、再生可能エネルギーの活用は避けられないという意見では一致していた。それだけに、デメリットやリスクを隠蔽し、その結果、うさんくささが際立っている現状を、一様に憂慮していた。

 蔵王山麓の風力発電所問題も、大阪南港や山口県岩国市の外国資本によるメガソーラー発電所問題も、一過性の話題で終えず、将来、次世代のためのエネルギー問題の議論の契機とするべきだろう。

*参考

山形県 「令和4年6月24日(金曜日)定例会見」

宮城県「宮城県知事記者会見(令和4年6月13日)」

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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