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WEB面接でミスマッチが心配な学生6割! ~ 学生も企業も大学も初体験

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
「ウエブで決めてしまって大丈夫だろうか」(写真:アフロ)

・選考中断や採用数削減

 「やっと2次面接まで進んだら、採用予定数を大幅に減らすと言われた」というのは、東京に本社のある製造業企業を受けたきた学生。さらに、「1次選考が終わって、合格の通知が来て、その後、連絡が途絶えている。電話をかけても、今、それどころではないという対応」と言うのは、旅行関係の企業を受けた学生で、「状況が状況だし、諦めます」と言う。

 例年であれば、5月の連休後には、内定が出そろい、6月の今頃になると大学の講義にも落ち着いた顔に戻った学生たちが出席する頃だ。しかし、今年は、新型コロナウイルスの影響で、大学に行くこともままならない。

・内定率は前年を下回っている

 株式会社ディスコの調査によれば6月1日時点の2021年3月卒業見込みの大学4年生の就職内定率は、64.0%。前年同期実績(71.1%)を7.1ポイント下回った。就職活動を終了した学生は、全体の35.2%で、前年の43.9%を8.7ポイント下回っており、継続者は64.7%と就職活動を継続する学生の割合が多くなっている。(キャリタス就活 2021 学生モニター調査結果・2021年卒 Vol.8 より

・WEB面接だったのは94.7%

 株式会社マイナビの調査によれば、5月に受けた面接のうち、WEB面接だったのは94.7%であり、最終面接を含むほとんどの面接がWEBで実施されたとしている。(「マイナビ 2021年卒 学生就職モニター調査 5月の活動状況」より)

 3月まではほぼ例年通りの採用活動が行われてきたが、新型コロナウイルス感染拡大で状況は一変した。一部企業では、WEBでの説明会や選考を実施してきたが、多くの企業では初めて、それも急きょ導入することになったために混乱した状況も生まれているようだ。

・WEB面接がミスマッチにつながると考える学生は約6割

 「ウエブでの選考や面接には、あまり抵抗感はないし、自宅からアクセスできるので、便利と言えば便利。でも、説明会とかで実際に顔を合わせて話をする機会がないので、今一つ現実感がなく、決めかねている」と男子学生は話す。「先輩たちから聞いていたように、直接、働いている人の話を聞いたり、会社に行ったりすることで、なんとなく雰囲気が判ると思うのですが、本当に大丈夫なのか、不安があります。」

 大学の講義などでも、すでに顔を見知っている学生たちが集まるゼミなどは、比較的スムーズにウエブでも実施できるが、初対面ばかりの場合は、交流が進みにくいのが現実だ。学生たちは、便利さを感じる一方で不安も感じている。

 先ほどのディスコの調査でも、WEB面接がミスマッチにつながると考える学生は約6割(59.7%)と多くの学生が不安感を持っていることが示されている。

・「採用どころではない」と言われた学生も

 旅行関係の企業に就職活動していた学生は、「連絡が来ないので、こちらから電話をしたら、申し訳ないが、採用どころではない、リストラもあるかもしれないと言われた」と話す。

 

 実際、株式会社スマイループスが自社の転職サービスを利用した524人に調査した結果では、「新型コロナウイルス感染症により、選考中断もしくは内定の取り消しなどを通知された」という人が29%にも及んでおり、「景気等の影響により、採用されにくくなるのではないか」と回答した人も84%と高い割合を示している。(「ジョブクル転職の利用者に対するアンケート」より)

 ここ数年、旺盛な採用を行ってきた観光関係が一気に冷え込み、ホテルなどでは廃業や倒産も続いている。飲食関連も、インバウンド関連で伸ばしてきた企業の事業縮小などが進んでいる。そのため、当初の予定を大幅に変更し、採用の中止や大幅な削減に踏み切る企業が多い。JALグループは5月27日、2021年度入社の新入社員採用を中断すると発表し、これで全日空、ソラシドエア、AIRDO、スカイマークなど国内航空会社での新卒採用がほぼなくなることになった。

 「旅行代理店への就職を希望して、頑張ってきたのだが、諦めて、就職活動をして業界外にするか、それとも留年も考えて、希望を通すか悩んでいる」と話す学生もいる。

 

・大学側も苦慮

 

 首都圏の大学の教員は、「今までの就職が厳しくなった時期は、大学の就職指導部やキャリアセンターの職員、ゼミの担当教員などが、相談に乗ったり、OBOGが就職した企業への紹介などをいろいろ対応ができた。しかし、今回は、大学も外出自粛要請で立ち入り禁止になり、連絡はWEB。充分なフォローができていない」と懸念する。

 ある地方の大学教員は、「就活の時期は、普通にやっていても、悩んだり、落ち込んだりと精神的に不安定になりがち。それが一人で部屋でパソコンに向かって就職活動をするのですから、例年より精神的に参ってしまっている学生も相当数いる」と言う。また、ある関西圏の大学の相談室の担当者は「スカイプなどでメンタルの相談に乗ったりという体制は採っていますが、やはり直接、顔を合わせて話をするのとは違います。スカイプなどで悩みを聞いて欲しいと言ってきてくれる学生は、まだ良いのですが、それ以外が心配だ」と言う。

 学生の中には、「3月頃までは、就職説明会などに出かけていたのですが、その後、大学もアルバイトもなくなり、家に閉じこもりっぱなしになり、時間が止まってしまった感じ。ウエブでの説明会なども、なにか現実感がなく、何とかしなくてはと焦っているのだけど」と言う学生などもいる。

 筆者の勤務先大学もそうだが、外出自粛要請の終了に合わせて、ゼミなど少人数の受講生のもののみ先行して再開し、学生たちの状況を把握し、支援する体制を整える試みもすでに取られている。

・長期的な採用意欲は低くなっていない

 「長期的には労働者不足が迫っているので、経営者としては、採用を止めたくないというのが本音。ただ、先行きが不透明な中で、決断ができないというのが現状。6月、7月の状況をみて、経済の再開が本格化しそうならば、強気に出れるのだが」と、首都圏の中堅企業の経営者は悩んでいる状況だと説明する。

 関西圏のある企業の幹部社員は、「観光産業などが急激に採用数を減らしたために、その分が流れてくるのはありがたいと言えば、ありがたい。しかし、面接はウエブだし、いわゆる不本意内定決定者、不本意入社を増やしてしまうのではという不安がある。これから、仮に急速に事態が改善すれば、内定辞退者が増加するだろうし、入社後にも退職者を多く出す可能性もある」と話す。内定後の企業側のフォローアップも欠かせないし、入社後の働く場の整備も、より重要になるだろう。

 さらに、東北地方の自治体職員は、「今回のことで、地方で就職したり、東京から実家のある地方に戻りたいという声もよく聞くようになってきた。地方の企業は、こういう時期だからこそ、積極的に人材確保に乗り出すチャンスだ。地方の産業振興や経済再興のきっかけにしたい」と期待する意見もある。

・多少の失敗は「すべてコロナのせい」だ

 「長期的な採用意欲」は低くないという点は、就活生にとっては救いである。内定率に関しては、各社の調査を見ても、昨年と比較すると悪化しているとはいうもののまだ高水準だ。就職活動を続ける学生諸君は、今後の経済状況を横目でにらみつつ、希望する業界や企業の採用状況も変化することを理解した上で就職活動を継続することが重要となるだろう。

 不本意入社になってしまわないように、疑問や不安があれば、率直に内定を受けた企業に相談したり、会社を訪ねて行ってみることも大切だ。こうした時の企業側の対応も、就活生として本当に入社を決めるかどうかの判断基準になるのだ。

 その際には、「ムダだ」とは言わず、まずは自身の所属する大学の就職指導部、キャリアセンターなどに相談し、コロナ籠りで動きが鈍くなている場合は、早急に態勢を立て直すように取り組もう。

 まずは就活生として動いてみよう。今回の状況は、就活生だけではなく、大学、企業にとっても初めての体験だ。多少の失敗は「すべてコロナのせい」だと都合よく考えて、動いて欲しい。動けば、救いの手も、チャンスも現れるはずだ。

All Copyrights reserved Tomohiko Nakamura2020

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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