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なぜセリエAで鎌田大地は復活が期待される? ラツィオ監督交代で迎えた残り2カ月の分岐点

中村大晃カルチョ・ライター
3月16日、セリエAフロジノーネ戦でのラツィオの鎌田大地(写真:REX/アフロ)

鎌田大地にとって、ラツィオでの今後2カ月はどのような意味を持つだろうか。

ラツィオに“衝撃”が訪れたのは、3月12日のことだ。ホームの観客からブーイングを浴びせられた敗戦から一夜明け、マウリツィオ・サッリ辞任のニュースが駆けめぐったのである。

翌日、クラブは正式に前監督の退任を発表。その後、後任にイゴール・トゥードルを招へいした。新監督はインターナショナルウィーク中に仕事を開始。現地メディアによれば、初練習後に鎌田とピッチで話し込んでいたという。

以降、イタリアのメディアはしばしば、鎌田復活への期待に言及している。トゥードル体制になったことは、鎌田にどのような追い風となり得るだろうか。

■役割の変更

最も注目されるのは、システムの変更だ。頑なに4-3-3を続けたサッリに対し、トゥードルは3-4-2-1に移行しようとしている。当初は、来季を見据えた実験との見方もあった。だが、新監督は即座の変更に踏み切るようだ。

シーズン途中に後を継いだ監督は、前任者の方針を踏襲する場合もある。一方で、独自路線への転換を図ることもある。後者の一例が、今季のローマだ。ジョゼ・モウリーニョの後任ダニエレ・デ・ロッシは、システムからメンタリティーまで一変させて状況を好転させた。

トゥードルも同じ道を進むと見られている。この変化は、鎌田にとってポジティブかもしれない。

今季の鎌田はインサイドハーフで起用されてきた。だが、最適解ではなかったとの見方も多い。本人が求められる役割と評価のアンマッチに不満をうかがわせたこともある。一方で、3-4-2-1はフランクフルト時代に経験済みだ。

■スタートラインは同じに?

システムが変わっても、重用される選手が同じなら、鎌田の立場は難しいままだ。だが、現地メディアはトゥードル体制で「序列がゼロになった」と報じている。

マテオ・ゲンドゥジにポジションを奪われてから、鎌田はルイス・アルベルトの「控え」だった。サッリは否定していたが、現実的には厳然たるヒエラルキーが存在していたと言えるだろう。

しかし、トゥードルはすべてを白紙に戻すと言われている。フェアな目線で起用メンバーを選ぶのであれば、存在感がなくなっていた鎌田には朗報だろう。

■周囲の熱量への期待

もちろん、鎌田はアピールしなければならない。トゥードルは「100を望むならなぜ60でよしとする?」と、練習から全力を出すことを選手に求める指揮官だけになおさらだ。

その激しい気質は、高いモチベーションに支えられている。『Il Messaggero』紙によると、トゥードルは自ら2025年までの契約を望んだ。当初言われていたより1年短くする申し出には、クラウディオ・ロティート会長も驚いたという。

また、トゥードルは練習場フォルメッロの施設に感心し、当面はそのまま寝泊りすることにしたとのこと。クロアチアに残る家族にも、しばらくローマに引っ越さないよう連絡したそうだ。シーズン終盤での立て直しと方針転換という難題に専念する意欲がうかがえる。

以前にナポリ行きもうわさになったトゥードルは、ラツィオのオファーを受けた理由を問われると、「ラツィオは重要なチームだ。ラツィオに来たくない監督は世界に多くないと思う。ラツィオだから受けるんだ」と答えた。

こういった姿勢は、サポーターの期待を高めたに違いない。トゥードルの気質、そして周囲の彼に対する期待から、ラツィオには新たな熱量が生まれるだろう。

アツさを表に出すタイプではない鎌田だが、ここはその熱と勢いに乗るべきだ。

■不透明な未来は好機にも

閉幕までの2カ月でインパクトを残しても、鎌田がラツィオに残るかは不明だ。これまでの状況から、シーズン後の退団が濃厚と言われているのは周知のとおり。監督交代前には、その意向をクラブに伝えたとの報道もあった。

ただ、今のラツィオは先行きが不透明だ。近年の顔だったチーロ・インモービレとルイス・アルベルトの去就が微妙で、シモーネ・インザーギ時代からのサイクルが終わるとの声もある。その場合、真の意味でラツィオは新時代に向かうはずだ。

そのとき、新たな中心になり得る現有戦力は重要な存在となる。イタリア、セリエA、そしてトゥードルを知ることがアドバンテージとなるからだ。実際、現時点でもゲンドゥジやマッティア・ザッカーニ、ニコロ・カザーレと、トゥードルの指導を受けたことのある選手への期待値は大きい。

わずか2カ月だが、トゥードル体制のこの2カ月で存在価値を示せば、これまでのインモービレやルイス・アルベルトのように不可欠な存在となる可能性もある。

もちろん、最も重要なのは鎌田本人の意向だ。特に、昨夏重視したチャンピオンズリーグ出場を再び絶対とするなら、ラツィオで続ける可能性は低いだろう。だが、移籍する場合でも、シーズン終盤戦でインパクトを残す大切さは言うまでもない。

いずれにしても、鎌田とラツィオにとって重要な2カ月だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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