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なぜ鎌田大地を“左ウィング”でラツィオは起用した? ダービーの8分間は「違う未来」の前兆なのか

中村大晃カルチョ・ライター
10月21日、セリエAサッスオーロ戦での鎌田大地(写真:アフロ)

ラツィオの鎌田大地が初めてのローマダービーに出場した。ただ、思い描いていたデビューではなかったに違いない。

11月12日に行われたセリエA第12節、ラツィオ対ローマの一戦は、0-0のスコアレスドローに終わった。鎌田はリーグ戦で8試合連続となるベンチスタート。先発復帰を果たしたチャンピオンズリーグのフェイエノールト戦に続く、2試合連続のスタメンとはならなかった。

投入されたのは、終盤の82分。さらに、求められたのは左ウィングでの仕事だった。サイドに張りつく純粋な「ウィング」ではなかったが、これまでと大きく異なる役割だったのは確かだ。

なぜ、マウリツィオ・サッリ監督は鎌田を左ウィングに起用したのだろうか。

■鎌田大地の投入はアクシデントが理由?

指揮官の言葉を聞く限り、選択肢がなかったことが理由かもしれない。

試合後のフラッシュインタビューで、ウィング起用が鎌田の未来となるか問われると、サッリは「やぶれかぶれ」だったと答えた。もともとは、チーロ・インモービレに代えてバレンティン・カステジャノスを投入する予定だったという。

プランが狂ったのは、次々に負傷者が出たからだ。68分、サッリはアップしていたカステジャノスを呼んだ。だがその直後、フェリペ・アンデルソンとパトリックが相次いで足をつらせたのである。

カステジャノスとエルセイド・ヒサイがビブスを脱いで出場に備えていたラツィオだが、これで鎌田もビブスを脱いで準備。そしてその後、カステジャノス投入は取りやめられた。

この日のラツィオは左ウィングのマッティア・ザッカーニが負傷で不在。代わって先発したペドロも64分にベンチに下がっていた。その際投入されたグスタフ・イサクセンは、右ウィングが本職だ。右サイドにいたフェリペ・アンデルソンが、左ウィングにポジションを変えていた。

しかし、そのフェリペ・アンデルソンまで負傷したことで、左ウィングの選手が不在という事態に陥ったのだ。そしてサッリはシステムを変えるのではなく、鎌田にその役割を託すことにしたのである。

ただ、投入はすぐに実現しなかった。今度は途中出場していたマティアス・ベシーノも負傷したからだ。これで急きょ、ラツィオは75分にニコロ・ロベッラ投入を余儀なくされた。

この時点で残る交代枠は1回2人まで。フェリペ・アンデルソンとパトリックのコンディション懸念もあり、指揮官はしばらく様子を見る。そして82分になって鎌田とヒサイを投入した。こうして、鎌田は左ウィングとしてわずかな時間を戦うことになったのだ。

■評価はほぼ不可能?

もちろん、あまりに短い時間だったのは否めない。当然、評価も難しい。大半のメディアが採点なしとしている。寸評がない媒体も多かった。

『Sport Mediaset』は「客観的に、本当に役立つ力を発揮するには出場が少なすぎる」と伝えた。ラツィオ専門サイト『cittaceleste』は、「試合はもう勢いがなくなっており、影響を及ぼす大きなチャンスはなかった」と報じている。

■鎌田大地の今後のウィング起用は?

サッリは鎌田とルイス・アルベルトの共存が「戦術的バランス」から難しいと話してきた。では今後、鎌田をウィングに起用し、両者を左サイドで縦に並べる可能性はあるのだろうか。

『La Gazzetta dello Sport』紙は、「一度の偶発的なことかもしれないし、サッリが違う未来、違う役割を彼に築くことを考えているのかもしれない」と伝えている。

もちろん、未来のことは分からない。ただ、現実的ではないだろう。それより重要なのは、次節で機会を生かせるかだ。ラツィオはルイス・アルベルトがローマダービーで今季5枚目のイエローカードを出され、25日のサレルニターナ戦で出場停止となる。鎌田にとって先発出場する好機だ。

ただ、日本代表メンバーから外れた先月と違い、鎌田はこれからワールドカップ予選に臨む。ラツィオに戻るのは、サレルニターナ戦の直前となる見込みだ。サッリもダービー後の会見でその点を指摘している。過密日程と長距離移動が不利に働くのは避けられない。

それでも、現在の苦境を考えれば、限られたチャンスをできるだけ生かす必要がある。ラツィオでの今後を変えていけるか、鎌田にとって大事な時期となりそうだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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