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ゴミ処理場の初スパイク、無得点でも満面の笑み…高評価のナポリ新FW、「精神年齢は40歳」

中村大晃カルチョ・ライター
9月20日、パルマとのセリエA開幕戦でメルテンスと先制点を祝うオシメーン(写真:ロイター/アフロ)

開幕2試合で無得点。クラブレコードの7000万ユーロ(約85億8000万円)を投じた目玉補強としては、物足りない数字かもしれない。チームが6得点で大勝した試合でノーゴールならなおさらだ。だが、ナポリの新FWヴィクター・オシメーンは、確実にインパクトを残している。

◆新たな形をもたらしたニューフェイス

2-0で勝利したパルマとの開幕戦ではスタメンから外れた。ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督がチームバランスを重視したからだ。オシメーン加入でトライしている4-2-3-1ではなく、慣れた4-3-3で新シーズンのスタートを迎えた。

だが、60分を迎えてスコアレスという展開を打開すべく、指揮官はオシメーンを投入。わずか2分後、イルビング・ロサーノのクロスにオシメーンが絡み、ドリース・メルテンスの先制点が生まれている。

メルテンスとロレンツォ・インシーニェのゴールで勝利したナポリだが、オシメーンはそれを上回るほどの印象だったといっても過言ではない。そして迎えた9月27日の第2節、本拠地サン・パオロでの初戦で、オシメーンは初スタメンを勝ち取った。

ナポリは6-0とジェノアを一蹴した。得点者はロサーノ、ピオトル・ジエリンスキ、メルテンス、エリフ・エルマス、マッテオ・ポリターノ。オシメーンの名前はない。ジエリンスキの得点場面で、『TUTTOmercatoWEB』が「魔法」と評したヒールキックのアシストを記録しただけだ。

だが試合後、ガットゥーゾは「深いところとスペースを突き、相手に問題を作る」と、オシメーンの存在が4-2-3-1という新しい形をもたらしていると強調した。

◆レジェンドと比較されるガゼル

目を引く速さと、しなるような長い手足――アウレリオ・デ・ラウレンティス会長がガゼルにたとえたのも納得だ。その見た目やプレースタイルから、ダビド・オスピナやOBのブルーノ・ジョルダーノは、ジョージ・ウェアやファウスティーノ・アスプリージャに似ていると話す。インシーニェやエマヌエレ・カライオーは、エディンソン・カバーニと比較した。

比較対象者が思いつかないというニコラ・アモルーゾは、「唯一無二」の選手になれると称賛。「メルテンスやインシーニェと学びつつ、すぐにもっとエレガントになるだろう」と期待を寄せている。

◆早熟の苦労人

才能だけではない。ガットゥーゾが特に買っているのは、オシメーンの人柄だ。開幕戦の試合後、21歳の若さにもかかわらず、40歳に見えるほど成熟していると絶賛した。

「3カ月前に初めて私の家で会った時に驚いたのは、彼の人間性だ。早くに親を亡くして生きてきて、自分の起源を忘れていない。若いがメンタリティーは大人だ。地に足をつけたまま、仕事を続けるだろう。カリスマ、パーソナリティーがあり、とてもインテリジェントだ」

6歳で母親を亡くして以降、オシメーンは路上での飲料販売で家計を助けたという。『スカイ・スポーツ』のフランチェスコ・コザッティ記者によれば、初めてのスパイクは姉妹がゴミ処理場から拾ってきたものだった。

幼いころから生活に苦労してきたオシメーンは、若くして大人にならなければいけなかったのだ。その成熟ぶりは、利他的なパフォーマンスにも反映されている。ストライカーだが、仲間がより良い位置にいれば、パスを出すことをいとわない。

6ゴールも奪った試合で自分が無得点なのを喜ぶアタッカーはいない。それでも、オシメーンは6点目を決めたポリターノに自ら駆け寄り、仲間たちと抱き合って、満面の笑みでチームのゴールを祝った。ナポリがネットを揺らすたびに、歓喜の輪には常に笑顔のオシメーンがいた。

◆王者との次節は大事なテスト

メディア評価も及第点を上回る6.5点や7点が多く、『Calciomercato.com』は「前線でこの上なく貴重な仕事」、『TUTTOmercatoWEB』は「足りなかったのはゴールだけ」と称賛。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』電子版は、レポート記事で「彼だけお祭りに欠けたが、パルマ戦同様に素晴らしい印象」と伝えている。

もちろん、まだ公式戦を2試合こなしただけに過ぎない。開幕戦後にカライオーが指摘したように、戦術的なセリエAの狭いスペースで、マークがキツくても結果を出せるかを見ていく必要はある。今後も無得点が続けば、評価は一気に右肩下がりとなるだろう。

それだけに、負傷でインシーニェを失って迎える次節ユヴェントス戦は、オシメーンにとって大事なテストとなる。ガットゥーゾとアンドレア・ピルロの指揮官対決が見ものの大一番で、オシメーンがジョルジョ・キエッリーニやレオナルド・ボヌッチ相手にどんなパフォーマンスを見せるかも注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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