Yahoo!ニュース

ミラノもローマも見習え!? イタリアの「小さなアヤックス」は大きな花を咲かせるか

中村大晃カルチョ・ライター
1月30日、コッパ・イタリア準々決勝ユヴェントス戦で得点を祝うアタランタ選手(写真:ロイター/アフロ)

閉幕までの1カ月、サポーターはハラハラドキドキの日々を過ごすことになるだろう。

アタランタの勢いが止まらない。4月22日のセリエA第33節で強豪ナポリを下すと、3日後にはコッパ・イタリアで23年ぶりとなる決勝進出を果たし、4月29日のウディネーゼ戦にも勝利。セリエで単独4位と、チャンピオンズリーグ(CL)出場圏内に浮上した。

総得点68は、優勝した王者ユヴェントスと並ぶリーグ最多、アタランタにとってはクラブレコードとなる新記録。直近7試合は勝ち点15と、ユヴェントス(勝ち点13)をも上回る成績だ。

筆者作成
筆者作成

CL出場を争うインテルとミランのミラノ勢、ローマとラツィオのローマ勢をしり目に、得意とする春に好調を続けるアタランタ。2年前も4位フィニッシュを遂げたが、当時はセリエのCL出場枠が3とあり、欧州最高峰の舞台に進めなかった。だが、今季はそれが現実になりつつある。

加えて、アタランタはコッパ・イタリアのタイトルにも迫っている。5月15日の決勝でラツィオを倒せば、1962-63シーズン以来56年ぶりの戴冠。コッパ優勝とCL出場権獲得の“2冠”なら、文句なしにクラブ史上最高のシーズンとなる。

◆ビッグクラブにレッスンできる存在?

圧倒的な資金力の差にもかかわらず、大都市のビッグクラブに引けを取らない成績、そして強豪たちをも上回る内容のサッカーを見せているだけに、アタランタへの賛辞は少なくない。

ファブリツィオ・ボッカ記者は、『レプッブリカ』のコラムで「みんなガスペリーニたちのレッスンを受けろ」と、ビッグクラブの不甲斐なさを批判しつつ、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督と彼のチームを称賛した。

ボッカ記者は、「ポテンシャルや財力、名声ある選手たち」の差でいえば、強豪たちは「10倍有利」なはずと指摘。そのうえで、「ベルガモ(アタランタ本拠地)では、ミラノやローマよりも優れたサッカーをしている」と記した。

「アタランタのサラリー総額は、クリスティアーノ・ロナウドひとりが稼ぐ額だが、チームの市場価値は1億ユーロ(約125億円)から2億ユーロ(約250億円)と文字どおり倍増した。もはや、アタランタはどのチームに対してもサッカーのレッスンを手ほどきできる

◆強豪との比較で圧倒的なコスパ

実際、『Calcio & Finanza』の報道として『スカイ・スポーツ』が伝えたコストパフォーマンス比較(勝ち点1を獲得するのに要したコスト)を見れば、アタランタのコスパがいかに優れているかは明白だ。

1ポイントを得るのに、アタランタが63万7000ユーロ(約8000万円)のコストなのに対し、ミラノ勢はインテルが271万3000ユーロ(約3億4000万円)、ミランは337万1000ユーロ(約4億2000万円)。ローマ勢はローマが237万6000ユーロ(約3億円)、ラツィオは149万7000ユーロ(約1億9000万円)をかけている。

4月29日イタリア『スカイ・スポーツ』参照、筆者作成
4月29日イタリア『スカイ・スポーツ』参照、筆者作成

もちろん、リーグの長者番付トップのユヴェントスも、勝ち点1あたりに343万4000ユーロ(約4億3000万円)を要している。ただ、彼らは前人未到の8連覇を成し遂げた。

◆絶対王者にもひるまず

そして、そのユヴェントスにも、アタランタはコッパ・イタリア準々決勝で勝利している。インテルが1分け1敗、ローマが1敗、ミランとラツィオが2敗と、強豪たちがいずれも王者に屈してきたのに対し、アタランタはジェノア、スパルとともに、今季国内でユーヴェを下した3チームのひとつだ。

今季CL準々決勝でユヴェントスを敗退した際、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は、勝利したアヤックスを絶賛したうえで、意識的か無意識的かは別に、まるで「ユーヴェには勝てない」が前提条件のようになっている国内の現状を批判した。「アヤックスを見習え」というわけだ。

そのアヤックスにイタリアで最も似ていると言われるのが、アタランタだ。ルカ・ペルカッシ代表取締役は、5月1日付『ガゼッタ』のインタビューで「若手重視や収支への配慮など、クラブの選択という点で類似点がある。『アタランタは小さなアヤックス』と言えるね」と述べた。

◆運命は自分たちの手に

残り4試合で全勝できれば、CLへの切符はアタランタのものとなる。もちろん、容易なことではない。ラツィオとの直接対決やユヴェントス戦を残しており、コッパ・イタリア決勝も控えている。

さらに、ウディネーゼ戦後、アタランタはスタジアムの改修工事に着手した。ホーム残り2試合は、マペイ・スタジアム(サッスオーロ本拠地)での開催となる。本来の後押しがないのは痛手だ。

ガスペリーニは「運命を握るのは自分たち」と話した。ミランなどビッグクラブからの関心報道が後を絶たない指揮官だけに、一部ではCL出場レースの結果が今後に影響するとの報道もある。

コッパ・イタリア優勝、CL出場権獲得、そして新スタジアムのオープンとなれば、2019年がアタランタの歴史に残る、新時代の幕開けの一年となることは間違いない。

ガスペリーニたちは、大きな花を咲かせることができるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事