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舞台版『アナと雪の女王』は劇団四季の新たな代表作 気になる見どころは?

中本千晶演劇ジャーナリスト
撮影:阿部章仁、(C)Disney

 あのエルサの魔法は、舞台ではどんな風に表現されるのだろう?

 わくわくしながら、浜松町の四季劇場[春]に向かう。

 ディズニーのアニメを舞台化したミュージカル『アナと雪の女王』が、6月24日にいよいよ開幕したのだ。2018年にブロードウェイにて初演され、いちやく話題になったミュージカルを、日本では劇団四季が上演する。23日のプレビュー公演を観ることができたので、その見どころをお伝えしたいと思う。

 プロジェクションマッピングやLEDパネルなど最新の技術を駆使しつつ、素朴で温かみのある演出も織り交ぜながら物語はすすんでいく。基本的にはアニメ版に忠実に展開しつつ、舞台でしか見せられない面白みのあるシーンはじっくり見せる、緩急つけた構成になっている。

 1時間42分のアニメ版に対し、舞台版は休憩を除いて2時間5分。少し長くなったその分の時間は、キャラクター一人ひとりの温もりを感じさせる描写に使われていたように感じた。とりわけ、魔法の力を持って生まれついてしまったエルサの孤独と誇り、そしてアナとの姉妹の絆がより深く掘り下げられている。

撮影:阿部章仁、(C)Disney
撮影:阿部章仁、(C)Disney

 「舞台上で人間が演じる時はどうなるのだろう?」と気になるキャラクターたちの見せ方もそれぞれ異なる工夫がこらされる。雪だるまのオラフは『ライオンキング』のティモンのごとく人が人形を操る方式、トナカイのスヴェンはリアルな着ぐるみの中に人が入っている。

 いっぽう石の姿のトロールは舞台版では「隠れびと」と称され、人間が演じる。神秘的な雰囲気を醸し出すダンスシーンもある。

 一番の見どころは、周囲を一瞬にして雪と氷の世界に変えてしまう、エルサの魔法の力が発現するシーンだろう。小道具、舞台美術、そして映像と照明、あらゆる手段を駆使して見せていく。とりわけエルサが「ありのままで」を歌い上げて自分自身を解き放ち、またたく間に氷の城を作り上げていく1幕ラストは圧巻。出来上がった城の中の、本物のスワロフスキーガラスを使ったという装飾の煌めきが幻想的だ。

 一転して2幕はオーケンの山小屋の場面からはじまる。雪と氷だらけの場面が続く中、身も心も温めてほっと一息つくことができるひとときだ。店主オーケンには客席との絡みもある。舞台には必ず一人は出てきて欲しいタイプの、愉快な役どころとなっている。

 生オーケストラの演奏に乗せて各キャラクターが歌う楽曲も、ミュージカルならではの魅力だ。舞台化にあたっては12曲もの新曲が加わったおかげで、どの登場人物も心情の変化を繊細に感じ取ることができる。追っ手に迫られたエルザが歌う「モンスター」のほか、クリストフがアナへの想いを切々と歌い上げる「クリストフ・ララバイ」も印象に残った。

 ダンスシーンの数々も、舞台ならではのお楽しみだ。とくに1幕のアナとハンスとの、アクロバティックな技も入ったデュエットや、2幕冒頭、オーケンの山小屋でサウナを楽しむ人たちによる、ちょっぴりセクシーでドキドキしてしまう「ヒュッゲ」のダンスなど、ユニークな振付が面白い。

 そして、結末もダンスシーンを駆使しつつスピーディーに展開していく。名曲のリプライズがこの作品の締めくくりに相応しい。

 奇遇だが、頑なに自分の殻に閉じこもってきたエルサが、大切な人たちとの繋がりを取り戻していくストーリーは、人と人との間に距離を取らざるを得ない今だからこそ余計に心に沁みた。

 また一つ劇団四季の代表作が生まれる瞬間に立ち会えたことが嬉しく、何かと制約の多いこの時期に、待望の作品が世に出たことには希望を感じずにはいられない。

演劇ジャーナリスト

日本の舞台芸術を広い視野でとらえていきたい。ここでは元気と勇気をくれる舞台から、刺激的なスパイスのような作品まで、さまざまな舞台の魅力をお伝えしていきます。専門である宝塚歌劇については重点的に取り上げます。 ※公演評は観劇後の方にも楽しんで読んでもらえるよう書いているので、ネタバレを含む場合があります。

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