オンライン配信、そして「オンライン演劇」、実際どう? 演劇ファンの複雑な胸中

(写真:アフロ)

※この記事は演劇ファンへのアンケート結果をまとめたものです。

前編「コロナ禍で観劇スタイル変わった? アンケート調査からわかった演劇ファンの本音」もご覧ください。

定着したオンライン配信、劇場に行けない人たちにはありがたみ

 コロナ禍で劇場に行きづらくなり、また、公演再開当初の1席おき配席によりチケット販売数が激減したことに伴い増えたのが、オンラインでの配信だ。

 「オンラインでの配信(劇場での上演と同時に行われるもの)はご覧になりますか?」という質問に対しては78.5%の人が「見ている」と回答している。オンライン配信は、この1年でかなり定着したといえるだろう。

※筆者作成(以下同じ)
※筆者作成(以下同じ)

 ところが、フリーコメントによると、「見ている」人の中にも「コロナ禍が収束しても続けて欲しい」という積極的な評価と、「今はコロナ禍の制約があるから仕方なく見ているに過ぎない」という消極的な評価があるようだ。

 積極的な評価の理由としては「劇場に行けない人でも観られるのはありがたい」という点に加え、「千秋楽などチケットが取りづらい公演が観られる」「遠方の公演も観られる」「安価で気軽に観られるので、劇場に行くほどでもない公演に利用できる」といった点が挙げられている。オンライン配信が増えたおかげで「以前なら観なかった作品も観るようになった」という人もいる。

 さらに「家で気楽に、好きなことをしながら見られるのはありがたい」「皆でワイワイ話しながら観られるのは楽しい」といった具合に、劇場での観劇とは違う気楽さや楽しさを挙げる人も多かった。

 いっぽう消極派が挙げるのは「やっぱり生の舞台には敵わない」という理由だ。「『配信でいいや』という人が増えるのは困るので、コロナ禍に限定して欲しい」「生の舞台を見てもいないのに無責任に批判する人が増えるのが不安」といった懸念を挙げる人もいる。

 また、「カメラマン目線の観劇は悲しい」という声もあり、自分の好きなところを見られないという制約がある分、配信ならではのカメラアングルの工夫(たとえば特定の俳優だけが見られるなど)を求める声もあった。

 もうひとつ問題視されているのが「画面が固まる」「音声が途切れる」といった通信環境によるトラブルから来るストレスである。万が一こうしたトラブルが起こったときのためや、仕事などで都合がつかないときのために、「アーカイブ配信をして欲しい」という要望も非常に多かった。

 オンラインでの配信を「見ていない」という人が挙げた理由も「やはり生で見たいから」というものが圧倒的だったが、加えて「自宅では集中できない」「観劇では非日常を味わいたい」といった声も多かった。また「スマホでしか見ることができず、小さな画面で見るのは辛い」という声や「視聴の方法がわからない」という声もあった。オンライン配信に関しては、視聴方法のガイドや視聴環境の改善のためのサポートの必要性はまだまだあるようだ。

 ジャンル別、年代別、居住地別のクロス集計もしてみたが、ジャンル別では大きな差異は見られなかった。年代別では、オンライン配信を「見ている」人が多いのは40代で82%だったが、意外なことに20代は77%と全体値より少なかった。単純に若い世代ほどオンライン配信の利用者が多いというわけでもないようだ。

 居住地別では、東京都は「見ている」人が75%と少なかった。こちらはやはり劇場に駆けつけやすいという地の利が影響しているのだろう。

オンライン演劇、「今後は(も)見たい」人が6割

 劇場での上演がなく、Zoomなどを活用しオンラインのみで上演される「オンライン演劇、リモート演劇」は、コロナ禍の中で演劇の灯を消さないための一手として新たに始まった試みだ。

 「いわゆる『オンライン演劇、リモート演劇』と呼ばれる作品を観たことがありますか?」という質問に対しては、全体の9割以上の人がその存在自体は知っていたものの、「見たことがある」という人は45.1%と全体の半数以下に留まった。ただし、見たことのない人も含め「今後は(も)見たい」という人は63.5%と、それなりの関心は寄せられている。

 年代別にみると意外にも50代が積極的で、「見たことがあるし、今後も見たい」人が36%、「見たことはないが、今後見てみたい」人も33%と、ともに全体値より多く、「存在を知らなかった」人は4%と少ない。

 逆に20代は「見たことがあるし、今後も見たい」人が26%と少なく、「見たことはあるが、今後は見るつもりはない」人が14%と多い。「存在を知らなかった」人も12%と多く、これまた意外だった。ただし、「劇団ノーミーツ」などが新たに始めたオンライン演劇の観客には、むしろこれまで演劇に触れてこなかった人たちが多い実感がある。アンケートの回答者とはまったく別のところに新たなファン層が形成されている可能性はあるだろう。

 居住地別でみると、やはり地方在住の人は「見たことがあるし、今後も見たい」人が38%、「見たことはないが、今後見てみたい」人が34%と共に高く、オンライン演劇に関しても今後への期待が強いようだ。

オンライン演劇、「演劇」とは思うけれど…?

 それでは、劇場での上演がない「オンライン演劇、リモート演劇」は果たして「演劇」と言えるのか? この問いに対して、演劇だと「思う」人は56%と全体でも半数以上、「わからない」と答えた人を除くと「思う」派が8割以上の多数を占めた。

 ところが、演劇だと「思う」と回答した人も心中は複雑で、積極派と消極派に分かれるようだ。積極派は「新しい形態の演劇」「オンラインならではの表現もある」「今後の発展に期待」といった声を寄せ、オンラインならではの特徴を活かした演劇がこれから出てくることも期待している。

 いっぽうで「演劇」とは思うものの、「生の舞台の方がやっぱりいい」「自分は見たくない」「クオリティには満足できない」「今の状況だから認めるしかない」といった消極的な評価も少なくはない。

 演劇だと「思う」と回答した人たちからは、判断の根拠として、それぞれが考える「演劇」の定義が多く寄せられたのも興味深かった。大きく分けると「俳優が演技すること」「脚本があること」「観客の存在」「一回性」などが「演劇」の条件として挙げられていたほか、「創り手が演劇だといえば演劇」といった意見もあった。

 いっぽう「思わない」と答えた人の中で圧倒的に多かったのは「演劇は劇場という空間があってこそのもの」「場の共有が不可欠」という意見だ。「劇場という空間」を演劇の必須条件とするか否かが判断の分かれ道となるようだ。

 この質問への回答には「わからない」という選択肢も設けたが、これを選んだ人も32.1%とそれなりの割合を占めた。

 そもそも「見たことがないからわからない」という人を除くと、この人たちも「オンライン演劇」を積極的にとらえている人と消極的にとらえている人の二手に分かれるようだ。消極派は「演劇なのかもしれない」が「自分は認めたくない、興味がわかない」と感じ、積極派は「『演劇』ではないが『新しい演劇』かもしれない」と考え、「新ジャンルとして確立すればいい」と期待を寄せる。

 また「とても難しい」「演劇の定義がわからなくなった」など、困惑した様子が感じ取れるコメントも目についた。「オンライン演劇、リモート演劇」の誕生は、観客に対する新たな問題提起にもなっているようだ。

 年代別ではオンライン演劇も「演劇」と判断している人が多いのは40代で、64%が「思う」と回答、「わからない」とした人は25%と少ない。逆に50代は演劇だと「思う」人は49%と少なく、「わからない」という人も39%いて、オンライン演劇を見ることには積極的なものの、その評価には迷いが見られる。

 ジャンル別にみると、オンライン演劇も「演劇」だととらえている人が多いのがストレートプレイを「よく観る」人で、演劇だと「思う」人が68%、「わからない」人は19%。帝劇などのミュージカルを「よく観る」人も同様の傾向で、「思う」が63%、「わからない」が25%だった。

 いっぽう宝塚歌劇を「よく観る」人は、オンライン演劇も「演劇」だと「思う」人は53%と少なく、「わからない」と答えた人が36%もいた。やはり特定のスターを応援する人が多いタカラヅカファンにとっては劇場における「場の共有」が必要不可欠ということなのだろう。

フリーコメントに寄せられた想い、「演劇は不要不急ではない」

 アンケートの最後に「コロナ禍以降の演劇界について、観客のひとりとして思うところや、物申したいことなどありましたら、ご自由にどうぞ」と問いかけてみたところ421件、72%にあたる人が何らかのコメントを寄せてくださり、長文のものも少なくなかった。

 いずれも1日も早く元に戻ること、それまで演劇の灯が消えないことを切に願い、一観客として応援したい気持ちを綴ったものである。公演を続けるために尽力する主催者側への感謝のコメントや、リスクを負って舞台に立つ俳優やスタッフを慮るコメントも多かった。

 1年を振り返って「演劇界に対するバッシングがとても辛かった」というコメント、「自分にとって演劇は『不要不急』のものではないことを改めて感じた」というコメントも目につく。「演劇は自分の人生には必要不可欠である」との思いと、この状況下で観劇をすることへの罪悪感で葛藤していることも伝わってきた。

 いっぽうで、観客の気の緩みへの懸念も非常に強い。とくに「客席やロビーでのおしゃべり」を控えてほしいとの指摘が多く、「公演を続ける側の努力が無駄にならないためにも」より強硬な対策を劇場側に求める声も目立った。

 前回も述べたとおり、今も観劇を続ける人たちは劇場側が講じている感染拡大防止対策を信じつつ「黙って観劇をしている分には感染リスクは低いはず」と判断しているわけだが、ここに「観客同士のおしゃべり」が加わると、とたんにリスクは跳ね上がる。

 これはなかなか難しい問題だと思う。というのも、友人同士で観劇すればお互い黙ったままでいる方が不自然だからだ。舞台に心動かされたら感想を語り合いたくなるのは常だし、たとえ意識の高い人でも友人にまでそれを強制しづらいこともあるだろう。友人同士で観劇する人も「おしゃべりは控えようね」という合意が取りやすくなるような、また、ネットでの告知や遠慮がちな貼り紙だけでは気付かない人にも届くような、そんな実効性のある注意喚起の工夫が求められていると思う。

 チケットリセール制度の早急な整備を望む声も多い。もともと高額転売対策のため必要だと言われてきたことだが、この状況下、急に体調が悪くなったときのための直前リセールは切望されている。やむを得ない場合の定価以下でのチケット譲渡は認められるべきではないだろうか。

 この他、「公演再開直後のように1席置きの方が今は安心できる」という意見も多かったが、逆に「対策が過剰すぎる。一人の陽性者が出ただけで公演を中止にしなくてもいいのではないか」といった意見もあった。飛び交う情報の受け止め方、そして、「どこまで恐れるか」の感覚も人それぞれ。これも難しいところである。

「演劇とは?」、観客も問われた2020年

 師走の忙しい時期、一個人の呼びかけから始まったアンケートに、しかも何らインセンティブもないにもかかわらず、多くの方が協力してくださったことに対しては感謝しかないが、それだけ関心の高い問題であったということでもあるのだろう。とりわけフリーコメントに込められた想いは重く、途中で何度も休んで一息入れなければ読み進められないほどだった。

 アンケートをまとめ終えた今、三つのことを思う。

 ひとつは、多くの人にとって未だ辛い状況が続く中、それでも演劇が好きでいて良かったということだ。演じる側と観る側が力を合わせて危機を乗り越えようとしていることを改めて実感し、頼もしさを感じている。

 だが、いっぽうで人それぞれ異なる事情を抱える難しさも痛感した。住んでいる場所、仕事や家族、そして「どこまで恐れるか」の感覚によって「新しい観劇様式」に対する考え方は違う。「自分とは異なる環境、考え方の人がいる」ということは常に心に留めておきたいと思う。

 そして最後にもうひとつ。自分も含め演劇ファンにとっての2020年は、「自分にとっての演劇の存在意義」そして「これから演劇とどう向き合っていくか」という本質的な問いを投げかけられた年になったということだ。フリーコメントを読むと、一人ひとりが自分なりの答えを見つけて行動している様も感じ取れて、私も励まされる思いだった。

 それが創り手の側とも呼応すれば、良質な作品の誕生やこれまでにない挑戦にもつながり、やがて演劇界全体の未来の新たな扉を開くことになるのではないか。2021年の演劇界、希望を持って応援し続けたいと思う。