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中国でも愛された歌手の谷村新司さん 80年代からコンサートを開催 中国のSNSで追悼の声

中島恵ジャーナリスト
谷村新司さん(写真:つのだよしお/アフロ)

歌手の谷村新司さんが病気のため都内の病院で亡くなったことがわかった。70年代に堀内孝雄さん、矢沢透さんとフォークグループ「アリス」を結成。「チャンピオン」「冬の稲妻」「昴(すばる)」など、次々とヒットを飛ばしたことで知られるが、中国でも、中国版ウィキペディア「百度百科」などで詳細が紹介され、尊敬される日本人音楽家の一人だった。

上海音楽学院の教授に

谷村新司さんと中国とのつながりは、1981年に北京の工人体育館で「アリス」が日本人のアーティストとして初のコンサートを開いたことに始まる。当時は改革開放(1978年)の直後。中国人男性の多くは人民服を着用、フォークやポップスというものはなく、中国を訪問する外国の民間人はとても珍しい時代だった。

しかし、2日間で約2万人が「アリス」のコンサートに足を運び、「アリス」の音楽に耳を傾けたという。当時、最高指導者だった鄧小平氏もその会場にいて、大きな拍手を送ったいうエピソードが残っている。

これがきっかけとなり、2004年には上海音楽学院で外国人として初めて教授に就任した。

中国の音楽大学ではクラシック音楽と民族音楽を学ぶことが主流だが、谷村さんは学生たちに自由に詩を書かせたり、さまざまなジャンルの音楽を紹介したりするなど、独自の指導方法で若手の育成に尽力した。

中国語でも歌っていた

2010年の「上海万博」の開幕式でも「昴」を熱唱。この曲は中国では「星」というタイトルで知られ、現在40代以上の中国人ならば、リアルタイムで知っている人も多い。中国ではSNSで日本の「昭和」時代に興味を持つ人も多く、Z世代の若者にもファンがいる。

「星」を始め、中国では「花」、山口百恵さんに提供したことでも知られる「いい日旅立ち」、「サライ」などの曲がとくに人気で、谷村さん自身も中国でコンサートを行う際は、ときどき中国語でも歌っていた。

谷村さんの歌はテレサ・テンを始め、ジャッキー・チュン、レスリー・チャン、アニタ・ムイなど数々の有名歌手にカバーされたこともあった。

中国でも速報された谷村さんの訃報(中国メディア、新浪娯楽より引用)
中国でも速報された谷村さんの訃報(中国メディア、新浪娯楽より引用)

日中平和友好条約締結40周年のときには北京で、同45周年のときには上海でもコンサートを行った。

2012年に中国各地で大規模な反日デモが起きたときには中国でのコンサートが延期になったこともあったが、谷村さんは中国との音楽交流、文化活動をやめることはなかった。

訃報は中国でも速報され、検索大手の「百度」や微博(ウェイボー)ではトレンドランキングの上位に「谷村新司去世」(谷村新司死去)が入った。

コメント欄には「谷村さんの『星』(「昴」の中国名)が大好きでした」「どうか、安らかに」「両親がよく歌っていました。とてもいい歌でずっと耳に残っています」などの追悼コメントが並んだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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