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北京市の記録的豪雨 人災を指摘する声も… わずかの雨でも道路が水浸しになってしまう根本原因

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

猛烈な勢力で沖縄県などにも被害をもたらした台風5号の影響により、中国では7月末から記録的な豪雨が続き、北京市や河北省、天津市、福建省などで300万人以上が被災、20人以上が死亡した。

各地で洪水が発生し、道路が冠水、住宅は浸水、道路が寸断されたり、河川が氾濫したりした。習近平政権は早急な救助活動を指示したが、北京市では過去140年間で最多の降水量を記録するなど、復旧にはかなりの時間がかかりそうだ。

SNSなどでは被害を嘆く声だけでなく、「人災ではないか」といった厳しい声も散見される。

2012年、2021年にも豪雨被害があった

今回の台風被害について、中国のSNSなどを見てみると、政府の対応や、都市・道路インフラの悪さを指摘する声がある。

もちろん、台風による被害はどの国や地域でも起こることとはいえ、中国での被害は同程度の台風が起きた他国の被害よりも大きいのではないか、と感じている人が少なくないからだ。

地形や気象条件、河川などの状況によって異なるので一概に比較することはできないが、北京市では今から13年前の2012年7月21日(721と呼ばれる)に発生した集中豪雨の際も70人以上が死亡し、政府に対する批判の声があがっていた。

これに対し、政府は「海綿都市(スポンジシティー)」建設を提唱、洪水対策に本腰をあげると宣言した。海綿都市とは緑化を進めたり、透水性のある舗装材を使用したりして、豪雨に強い都市にすることだ。

だが、2021年7月にも河南省鄭州市で大規模な洪水が発生、地下鉄が浸水し、3000万人を超える被災者が出た。こうしたことから、現実には中国政府による豪雨対策はあまり進んでいないのではないか、という疑惑が噴出している。

中国メディア「新京報」の2022年の記事でも「北京市の排水システムはいまだに完璧ではない。排水施設がないところや、老朽化した建物で整備が遅れているところ、でこぼこした道路も多く、排水がスムーズではない」と指摘されている。

インフラ整備が遅れているのは政府の責任

読者のコメント欄にはハッとさせられる内容があった。たとえば、「これほどの大都市なのにインフラ整備が遅れているのは政府の責任だ」、「排水システムの問題だけでなく、排水溝をきちんと掃除していないので、そこにゴミが溜まっていて、いざというときに排水溝の役割が果たせていないからだ」、「ふだんの小雨でも、道路の水はけが悪いじゃないか」といった意見だ。

これらのコメントを見て、私も雨の日に中国の街を歩いて、実際に自分が感じたことを思い出した。

北京だけに限らないが、中国のどの都市を訪れても、いったん雨が降れば、すぐに道路には水が溜まり、靴や靴下がビショビショになる。道路の水はけがとても悪いからだ。

もともとでこぼこ道が多く、コンクリートも一部が剥がれていたり、わずかな段差があったり、気をつけて歩かないとつまずいてしまいそうになる道路が多い。その上、いざ雨が降り始めると、さらに大量の雨水が足元にあふれてくるので、大変なことになってしまう。

ホテルの玄関で見かけた驚きの光景

建物の入り口にも雨水は押し寄せてきて、通常の雨でも玄関先は水浸しとなり、なかなか水が引かない。

7~8年ほど前、北京市内の4つ星ホテルに宿泊していた際、雨が上がってすでに数時間ほど経っているのに、玄関先の雨水がなかなか引かず、なんと、地面にたくさんの毛布が敷いてあった。

雨水を吸収するために置かれた応急処置だったようだが、ホテルを出入りするためには、その毛布を踏まなければならない。水をたっぷり含んだ毛布を靴で踏むことに私は抵抗があり、「ここは本当に経済発展している中国だろうか?」と感じた。

台風や豪雨とは関係ないが、ホテル内のシャワールームの水はけもとても悪い。

安いホテルだけでなく、かなり高級ホテルでも、シャワールームと室内の段差がわずかしかないため、日本人のようにバスタブを使用してたくさんのお湯を一度に使ったり、シャワーを大量に出したりすると、お湯が室内まで溢れ出てきそうになる。

コロナ禍以降、中国に行っていないので、さすがに最近の高級ホテルではそのような設計はされていないだろうと思うが、外観やデザインはすばらしいのに、使い勝手が悪い、残念、と感じることが中国では非常に多い。

これはホテルや一般家庭の排水だけでなく、都市インフラも同様で、ビルや幹線道路、ターミナル駅などの外観や内装はすばらしいのに、使う人の身になって考えていない設計や動線になっている。

見た目だけを重視し、見えないところ、使うときのことまでしっかり考えて作っていないからだ。

中国から一歩も外国に出たことのない人や、無頓着な人は感じないかもしれないが、一度でも日本で生活したことのある中国人ならば、国内のこうした不便さ、インフラの人への不親切さをひしひしと感じるのではないだろうか。豪雨被害でも、都市の脆弱さを嘆いた人は多いはずだ。

台風による豪雨は、自然災害なのでやむを得ない部分もあり、被災した人々には心からお悔やみを伝えたいが、政府のやり方次第で被害を最小限に抑えることができるのではないか。台風6号が接近する中、そうしたことを痛感した。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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