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今年の春節、なぜ中国人観光客はあまり日本に来ない? 背景にある観光ビザの申請事情

中島恵ジャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

1月21日から7日間の春節休暇に入っている中国。今年は約21億人が民族大移動し、3年ぶりに故郷や旅行先で過ごした人が大勢いる。

コロナ禍以降、初めて移動制限がない春節ということもあり、旅行よりも帰省を選んだ人が多いといわれているが、それでも、中国のオンライン旅行大手Trip.comの調査によると、この期間の海外旅行予約件数は前年比540%にまで伸びている。

中国からの入国者に対して水際対策をとっていないタイやシンガポールなどが人気の旅行先となっているが、期待された日本への観光旅行客はあまり増えていない模様だ。

観光地でも「香港や台湾系の人は多いが、中国人はあまり見かけない」と思った人が多いのではないだろうか。

その理由は何なのか。

理由の1つ目は1月4日以降、日本政府がとってきた厳しい水際対策の影響があるだろう。中国からの入国時、PCR検査を実施し、陽性ならば5~7日間の隔離を行うというものだ。

訪日観光ビザは5種類

2つ目の理由は、日本旅行に来たくても、訪日観光査証(ビザ)の申請ができなかった中国人が多いということがある。

中国人の訪日ビザにはいろいろな種類があるが、そのうち、観光目的で来られるビザは、在中国日本国大使館のサイトによると、以下の5つだ。

1.団体観光査証

2.個人観光一次査証

3.沖縄・東北六県訪問数次査証

4.十分な経済力を有する者に対する個人観光数次査証(3年マルチ)

5.相当な高所得者に対する数次査証(5年マルチ)

日本では、中国人観光客というと、有名な観光地を歩く団体旅行客の姿が報じられることが多く、今年の春節も「日本への団体旅行が解禁されていないので、中国人観光客は伸びていない」といった報じ方をするメディアがある。

むろん、団体旅行が解禁されていないのは事実ではあるが、コロナ禍前の2019年の時点でも、団体観光客は訪日中国人観光客全体の3割程度になっており、中国人観光客の主流ではなかった。

1月20日、中国政府は国内の旅行会社に対し、2月6日以降、海外への団体旅行の販売を一部解禁すると通知し、その中に日本、韓国、アメリカは含まれていないことがわかったが、このような事情から、日本にとって中国人団体観光客が来ないことは、大きな影響はないと思われる。

訪日中国人観光客の7割がすでに個人旅行客(上記の2~5)に切り変わっており、日本でお金を使うのも個人旅行客が中心だが、その個人旅行客も、今回、あまり日本には来られなかった。

旅行会社を通す必要がある

その理由は、中国では個人がビザを申請する場合、各地にある指定の旅行会社(代理店)を通す必要があるからだ。上記の1(団体)のほか、2~4のビザの申請も受け付けられていないのが実情だ。

現在、旅行会社が受け付けているのは5(相当な高所得者に対する数次ビザ=5年マルチビザ)のみといわれている。

同ビザは2022年10月中旬からすでにビザの申請が解禁になっており、大使館に直接、本人が申請することも可能という情報もあるが、同ビザの場合、少なくとも日本円に換算して年収1000万円以上ある富裕層が対象となっている。

そのため、現段階で、多くの中国人は、個人旅行でも日本に来ることが難しい状況にあるのだ。

このようなビザ取得の事情があることから、この春節、街であまり中国人観光客を見かけない、と思う人が多いだろう。観光地では彼らの「爆買い」を期待している人々も大勢いたが、期待外れだったと思っている人もいるかもしれない。

だが、今後、日本政府の水際対策が緩和され、ビザの申請状況が変われば、個人旅行客が日本に戻ってくる日も遠くないだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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