7月1日、香港で中国返還25周年を記念する式典が盛大に行われ、習近平国家主席が出席。演説で「一国二制度」の成果などを強調した。同時に香港トップの新行政長官の就任式も行われ、林鄭月娥(キャリー・ラム)氏から、李家超(ジョン・リー)氏に引き継がれた。式典の様子は中国や香港でももちろん報道されたが、そこには大きな“温度差”があった。

中国は祝福ムード一色だが……

6月30日夕刻、習国家主席は中国・深圳から陸路で香港入りした。2018年に全面開通した北京―香港間を結ぶ高速鉄道で、深圳の福田駅から香港の西九龍駅まで直通で、わずか14分で到着できる。

中国と香港の一体化などをアピールできるという“演出”だったのかもしれないが、香港サイドの西九龍駅にはキャリー・ラム行政長官を始め、政府幹部や地元の小学生などが並び、盛大に出迎えた。

その様子は、中国メディアで大々的に報道され、30日夜、中国の検索サイト「百度」の検索ランキングで「慶祝香港回帰25周年」は第1位になった。

CCTV(中国中央テレビ)では、返還にまつわる番組を大特集。1980年代に行われた鄧小平氏と英サッチャー元首相の会談の映像や、25年前の1997年7月1日に行われた返還式典の様子(とくに、英国国旗が降ろされて中国国旗が掲揚される場面など)が繰り返し放送された。

7月1日も朝から香港関連のニュースが目白押しで、香港の式典会場の様子や、夜に行われるテレビの祝賀特別番組の内容などが香港の生中継を交えて詳しく放送された。

人民網、新華社のサイトなどでも特集が組まれたが、とくに強調されたのは「祝福」の二文字だ。人民日報の「祝福」と題する4分半の動画では、1997年7月1日の返還式典の一部始終や、香港のイメージビデオ、広東語による「祝福」という歌が流れた。

コメント欄にも「祝福香港回帰祖国25周年」「我愛中国、我愛香港」「祖国万歳」「偉大祖国」などの言葉があふれ、中国メディアはお祝いムード一色となった。

厳戒態勢でピリピリムードの香港

一方、対照的だったのは香港だ。

香港では2021年に最大の民主派メディア「蘋果(リンゴ)日報」が廃刊となったほか、同じく民主派の「立場新聞」や「衆新聞」などが運営停止となっており、中国政府に反対の姿勢を示す報道は壊滅的に減っている。

従来からある地元メディア「明報」などは30日の習主席の香港到着や式典会場の様子を淡々と伝えているが、記事の人気ランキングを見ると、返還25周年以外の社会ニュースなども上位に入り混じっており、必ずしも注目度が抜群というわけではなく、「祝福ムード一色」でもない。

CNNやロイターなど海外メディアを始め、香港の英字紙である「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は式典会場での取材を政府から拒否された。

現地では返還25周年を記念する看板や広告、香港の旗と中国国旗があちこちにはためき、お祝いムードを演出しているものの、メディアの報道で目立つのは、交通規制や香港政府幹部のPCR検査の結果など「規制」に関する情報だ。

7月1日、香港は祝日で企業や学校は休日だったが、主要な公共交通機関や道路が閉鎖され、ドローンの使用も禁止となった。

一部の報道では、習主席を迎える行事に「数十分間だけ参列する」地元小学生やスタッフ、政府幹部などは6月23日から30日までホテルに「逆隔離」されており、その人数は1000人にも上ったという。

香港は連日1800人前後のコロナの新規感染者が出ていることも関係あるが、習主席を迎えるにあたり、いかに香港サイドがピリピリムードであったかがわかる。

習主席が宿泊する深圳も同様で、深圳市は26日の新規感染者が14人だったが、市中心部では29日から一部の施設などで封鎖措置が取られ、こちらも厳戒態勢だった。

香港人にとっての7月1日

このように、中国本土でのお祝いムードとは対照的に、香港は厳戒態勢で、市民の間にもしらけた雰囲気やあきらめ感が漂っている。

香港では2020年に「香港国家安全維持法」が施行されて以降、自由にモノが言える雰囲気がさらに減った。

英国、カナダ、オーストラリアなどへの移民申請が増加しているが、現地在住者によれば、移民しないまでも、「茶番の報道が流れつづける7月1日に香港にいたくない」と、この時期に海外旅行に出た人もいるという。

筆者の友人もその一人だったが、SNSに投稿する旅行の楽しそうな写真を見る限り「香港返還25周年」をお祝いする言葉は一言もない。それどころか、そのような記念行事はまるで「なかったこと」であるかのように無視している。

もしかしたら、多くの香港市民にとって7月1日の「返還記念日」は、一刻も早く過ぎ去ってほしい1日なのかもしれない。