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ともに情報統制されているロシアのSNSと中国のSNS、どこが違うのか?

中島恵ジャーナリスト
国内メディア幹部と会談するプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナ侵攻を続けるロシアの最新の世論調査では、プーチン氏の支持率が70%を超えたという。政府系の主要メディアは政権の正統性を強調する報道を続けており、その影響が大きいともいわれている。

ロシアにも主要メディア以外に、国内のSNSや海外のSNSがあるが、同じく情報統制が厳しい中国の事情とはどのように違うのだろうか。

ロシアでは海外のSNSにアクセスできない状況

報道によれば、ロシアでは3月上旬にフェイスブックやツイッターなど海外のSNSが遮断され、基本的に見られない状況が続いているという。

海外のSNSにアクセスできるVPN(ヴァーチャル・プライベート・ネットワーク)を使用すればこれまでは見られていたが、現在、VPNはほとんど使用できない状態のようだ。

ロシア独自のSNSであるテレグラムなどは見られるが、政府に都合の悪い情報は検閲によりかなり削除されている。

一方、ロシアと同じく情報統制が厳しく、ロシアとよく比較される中国の場合はどうだろうか。

中国でも海外のSNSは規制の対象だが…

中国でも海外のSNSであるフェイスブックやツイッターなどは規制の対象となっており、基本的に、中国に入国した途端、閲覧できなくなる。

これらを見ようとする場合はロシアと同じくVPNを使用するしかなく、VPNを使用することで海外の情報にアクセスしている人々もいる。

日系企業の駐在員など多くの中国在住の日本人も、日本や海外に住む人との連絡のため日常的にVPNを使用している。

無料や有料のものなどいろいろあり、中国では認められていないものだが、VPNが情報統制の「抜け穴」として使用されていることは、中国関係者の間では周知の事実であり、常識となっている。筆者の友人、知人も全員使用しているが、今のところ、使用することに問題はない。

時間帯や時期などによって接続が不安定になることもあるようだが、基本的にVPNを使用しさえすれば、中国に住んでいても、海外のSNSやニュースサイトにもアクセスでき、日本やアメリカにいる人々とほぼ同じ情報を入手することが可能だ。

おそらく、ロシアでVPNを使用し、海外情報にアクセスできていた人々も、ロシアのウクライナ侵攻までは同じような状況だっただろう。

急速に力を持つウィーチャット

中国にはロシア同様、独自のSNSも存在する。ウィーチャット(微信)やウェイボー(微博)がそれで、中国では個人が発信するメディアとして自媒体(自分メディア)と呼ばれている。

中国には中国共産党・政府系メディア(人民日報や新華社など)が主要メディアとして存在している。

中国の場合、主要メディアは紙だけでなく、すべてネット版(アプリ)もあり、スマホでも多くが無料で見られるようになっているが、ここ数年、急速に力をつけてきているのが、ウィーチャットに代表されるSNSだ。

今やその数は3000万以上もあるとされ、ウィーチャットの中でも、とくにグループチャット(朋友圏)という仲間や家族、同級生など内輪のグループ、コミュニティ内で活発な議論が行われている。

しかし、中国のSNSもロシアのSNSと同じく検閲の対象となっている。

敏感な話題、たとえば、主要メディアでは報道されない、政府にとって都合の悪い話や、習近平国家主席に関しての踏み込んだ話などはAI(人工知能)により自動検閲されており、投稿から数分後、あるいは数時間後に削除される仕組みになっている。

そのため、中国人は、場合によっては、絵文字などを駆使して言いたいことを婉曲に伝えたり、そのグループ内だけで通じる特定のワードなどを使って表現したりしている。

このような「工夫」や「努力」がなければ、政府系メディアで発信される以外の情報はなかなか伝わらない、という点はおそらくロシア国内も同じだろうと思われる。

翻訳機能が非常に発達している

だが、中国がロシアと大きく異なるのは、翻訳機能が非常に発達していること。そして、海外在住の中国人が非常に多く、そこからもたらされる情報が国内の既存メディアの情報を補ったり、疑ったりする材料になり得る、という2点だ。

中国では日本やアメリカのニュースを中国語に自動翻訳し、VPNがなくても中国語で誰でも海外のニュースを読めるようになっている。

VPNを使用しなくても読むことができるため、外国語がまったくできず、しかもVPNも使えないローカルな中国人であっても、日本の桜の開花時期について知っているし、日本の芸能ニュースなどにも詳しい。

また、中国では一切報道されていなくても、日本で報道された中国の政治関係のニュースを「中国語で」読むことも可能だ。

昨年、共同富裕の一環で、中国でゲーム規制が強化されるというニュースが報道された際、中国の若者たちが一斉に日本メディアの情報をチェックしたことがあった。

中国で報道されていない部分があるかどうかを、日本のメディアで確認するためだ。

日本やアメリカから情報がもたらされる

こうしたことに加えて、海外在住の中国人が、中国国内に無数の情報を流し続けている、というのも大きな特徴だ。

日本には、公式には約78万人(法務省の統計)もの中国人が住んでいる。日本国籍取得者などを含めると100万人程度いるといわれており、日本の都道府県の人口に匹敵するほどの人数だ。

アメリカには日本の3倍を超える約300万人以上もの中国人が住んでいる。

彼らもウィーチャットを使用して、日々、中国国内に住む家族や友人などと連絡を取っている。

主要なメディアを凌駕する勢いのSNS

個人的な連絡をする以外に、グループチャットなどに日本やアメリカで報道されたニュースのリンクを貼りつけたりしているので、そこから情報を入手する中国国内の人々は非常に多い。

例えば、今、日本ではロシアのウクライナ侵攻はこのような論調で報道されていて、中国の報道とはこういう点が異なる、といったようなことだ。

中には意図的に情報を流す場合もあるだろうし、あるいは、ごく自然に、単に自分が興味のある情報を中国の友人に流している、ということもある。

海外に住む中国人の中には、西側の国々の人々と同じような考え方をしている人が少なくないため、その情報が中国にも伝わっているということだ。

ロシア国内にも、海外に住むロシア人から西側の報道内容が伝えられているだろうが、今、その連絡手段はかなり限定的なものになっている。

中国の場合は主要メディアを凌駕するといってもいいほどSNSの存在が非常に大きくなっており、その点が、ロシアがいま置かれている状況とは大きく異なるといっていいだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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