1月15日、ついに北京市で新型コロナの感染者が確認された。18日にはさらに3人の感染者が確認され、冬季五輪を控えた首都は厳戒態勢となっている。

だが、彼らが過去2週間に訪れた場所や勤務先名、行動履歴が公表されると、ネット上では「なんと!これはまさに、あのSF小説の内容とそっくりじゃないか!」「切なくて、やりきれない話だ……」といった声が広まり、話題となっている。

対照的な2人の感染者の行動履歴

公開された詳細情報の一部は以下の表で見ることができる(表の左が1月15日に感染が確認された女性、右が18日に確認された男性の行動履歴)。

中国メディア「豆辯」より筆者引用
中国メディア「豆辯」より筆者引用

優雅に暮らすエリート女性が第1の感染者

上の表の左側の女性は北京市内のオフィスビルで働くエリート銀行員。1月1日は中国も祝日だったが、『全聚徳』という有名な北京ダックの店で優雅にランチを食べ、ショッピングを楽しんでいる。

この表には記載されていないが、現地メディアには、さらに詳細な情報が書いてあり、ランチ中1回だけトイレに行ったこと、その後に寄った金融街のショッピングセンター内でコーヒーを飲んだこと、地下鉄とバスを乗り継いで自宅に帰った時刻なども分刻みで記載されている。

翌1月2日もショッピングセンターをはしごして『ディオール』などのショップでブランド品を購入。さらに翌日はゴールドなどを扱う高級宝飾品店『周大福』で買い物をした。

1月4日~7日は通常勤務のため出勤し、週末の1月8日は友人と北京市昌平区のスキー場でスキーを楽しみ、その後は美容院に行き……などというスケジュールだ。履歴を一見しただけで、誰もがうらやむようなリッチな生活をしていることがわかる。

北京初のオミクロン株の感染者だったことから、詳細な情報が公開され、女性の勤務先や立ち寄り先の店舗、住居などはすべて一時閉鎖された。

深夜に働く労働者も感染

一方、表の右側の男性は建材を運搬する仕事に従事している出稼ぎ労働者。河南省出身で44歳だ。

この男性は、1月1日は23時30分から2日の午前4時43分まで、あるホテル内の工事現場で仕事。1月2日は23時から3日の午前3時まで、ある劇場内で仕事。1月3日午後9時から4日午前1時37分まで別の場所で仕事をしている。

毎日、仕事をする建設作業現場が変わっているようだ。1日から14日までの行動履歴を見ると、1日も休みはない。仕事は深夜から明け方まで行い、宿泊場所も粗末な簡易宿泊所のようだ。

また、現地報道によると、この男性は失踪した子どもを探すために北京にやってきていたことも判明した。毎日、深夜から明け方まで働き、昼間は子どもを探して北京市内をさまよい歩いていたようだ。

この事実が判明すると、ネット上には「あまりに気の毒すぎる」「涙が止まらない……」「そんな状況で感染したなんて……」などの同情のコメントが書き込まれた。

有名なSF小説を彷彿とさせる

冒頭でも書いた通り、この2人の行動履歴を見て、多くの中国人の脳裏には、中国のある有名なSF小説の題名が思い浮かんだ。『北京折畳(折りたたみ北京)』がそれだ。

中国では2012年に出版されて大反響を呼び、世界各国でも翻訳本が出版された。日本語版(『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』(早川書房、2018年刊)も大ヒットしたので覚えている人もいるだろう。

同書には名著『三体』の著者などを始め7人の著名作家の13作品が収められているが、そのうちの1冊が表題にもなっている『折りたたみ北京』(ハオ景芳・著)という中編小説。

ストーリーは、北京が3つの層(スペース)に分かれていて、24時間ごとに大地が回転・交替し、建物は空間に折りたたまれていく、という奇想天外な設定。経済的に恵まれている層、中間層、貧困層がいて、主人公はごみ処理場で働く貧困層の中年男性。

それぞれの層は行き来することができないが、子どものためにお金が必要な中年男は、仕事の誘いに乗って違う階層へ行く。だが、そこで目にしたのは各層の決定的な格差――という話だ。

多くの中国人が北京市で感染した2人の略歴や生活状況を見て、「これはあのSF小説と同じではないか」と驚いた。社会的に恵まれている人と、そうではない貧困層の人は、同じ北京市に暮らしているのに、まったく違う生活をしていて、相容れることはないし、お互いに口をきくこともない。別世界の人間だ。

それなのに、2人はほぼ同時期に同じ北京でコロナに感染し、そのあまりにも異なる行動履歴が、メディアを介して全国の人々に晒されてしまった。中国のSNSでは「北京折畳了」(北京は折り畳まれた)という言葉とともに、彼らの話題が飛び交い、多くの人々が、何ともやりきれなく、切ない気持ちになった。